41歳主婦「持ち家を売却して、駅近の戸建てに住み替えたい」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、現在の持ち家を売却して、駅近に家を建てたいという40代の主婦。高校に進学する子どもの教育費を考慮した上で、いくらまでのローンを組めるのか知りたいといいます。FPの宮里惠子氏がお答えします。

いま住んでいる家の住宅ローン残債が538万円ありますが、売却して、新たに駅近くの土地を探して家を建てたいと考えています。土地建物の売却で、ローン残債は完済でき、プラス300万~400万円ほどは手元に残ると思います。

1年後には子どもが私立高校に進学します。おそらく大学も私立になると思いますが、子どもの教育費を考慮した上で、いくらまでの住宅ローンを組めるか知りたいです。現在の家は繰り上げ返済を実行して、返済期間を15年縮めました。

<相談者プロフィール>

・女性、41歳、既婚(夫:42歳、会社員)

・子ども1人:14歳

・職業:パート

・居住形態:持ち家(戸建て)

・毎月の手取り金額:50万円

・年間の手取りボーナス額:230万円

・毎月の世帯の支出目安:37万円ほど

【支出の内訳】

・住居費:7.2万円

・食費:7.3万円

・水道光熱費:1.5万円

・教育費:3.5万円

・生命保険料:4.3万円

・通信費:0.7万円

・車両費:2.7万円

・お小遣い:4万円

・その他:5万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:12万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:80万円

・現在の貯蓄総額:880万円

・現在の投資総額:なし

・現在の負債総額:538万円(住宅ローン:完済予定は2026年)


宮里:家計を拝見いたしました。住宅ローンを返済しながら、年間200万円以上の貯蓄をして、これまでに住宅ローンの繰り上げ返済で返済期間を15年も縮めていらっしゃいます。しっかりと家計を管理されているご様子に感心しました。

現在の住居を売却して、駅の近くに新たに住宅の購入をお考えとのことですね。ご相談者のお子さんの教育費の上昇が予想されるなか、まず現状を分析して今後のプランを検討していきましょう。

年間収入と支出から、現在の家計状況を分析する

まず、現時点での家計の収入と支出について書き出してみます(表1)。

収入は、手取り金額で年間830万円(50万円×12ヵ月+230万円)。支出は、手取り年額から年間貯蓄額224万円(12万円×12ヵ月+80万円)を差し引いて606万円になります。

次に、年間の支出のうち、住居費と教育費に注目してみます(表2)。

いただいたデータの支出内訳では、ボーナスでの支出内訳が不明なので推測した部分(グレー部)もありますが、住居費(住宅ローン返済額)は、年間で186.4万円程度(7.2万円×12ヵ月+ボーナス払い)、教育費は52万円程度(3.5万円×12ヵ月+ボーナスからの補填)ではないかと思われます。

次に、1年後にお子さんが私立高校に進学、その後私立大学に進学した場合の今後の教育費を見積ってみましょう。

私立高校から私立大学に進学、教育費はいくらかかる?

「平成30年度 子供の学習費調査」(文部科学省)によると、私立高校の教育費総額は、1年間の平均が約97万円です。公立高校授業料無償化制度や2020年度から始まる私立高校授業料実質無料化制度はありますが、いずれも世帯所得の制限があります。おそらくご相談者の世帯は対象外だと思われます。

同調査によれば、世帯全体の年間収入(税込)が増加するにつれて教育費総額が多くなる傾向があり、年収1000万円を超える家庭では、1年間の平均が100万円を超える結果となっています。

大学でかかる費用に関しては、「平成28年度 学生生活調査報告」(独立行政法人日本学生支援機構)では、私立大学で自宅通学生の学生生活費は年間約176万円、自宅外通学になれば約250万円という結果です。

また「平成30年度 教育費負担の実態調査結果」(日本政策金融公庫)によると、受験に要した費用や合格したが進学しなかった大学への納付金等の費用の平均は約47万円です。このような費用も見積っておく必要があります。

以上のことを踏まえて、ご相談者のお子さんが私立高校に進学後、自宅から私立大学に通うと仮定した場合の今後の教育費と年間貯蓄額の推移を表にました(表3)。

現在、年間200万円以上の貯蓄ができていますので、今後、世帯収入が変化しなければ、お子さんの教育費の負担が増えたとしても、現在の生活を維持しながら、お子さんが大学を卒業するまで黒字の家計が継続できるという試算になります。

それでは、現在の住宅を売却して新たに住宅を購入する場合、どれくらいの住居費(住宅ローン返済額)をねん出できるかを考えてみましょう。

55歳以降の賃金は下降、1年間に支払える住居費はいくら?

現在、ご主人は42歳。定年が65歳に延長されたとして、あと23年間は現役で働けますね。「平成30年 賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)から、年齢による賃金の推移をグラフにするとこのようになります。

今後約10年間は賃金の上昇が見込まれますが、55歳以降退職までは下降する傾向にあります。

家計を黒字に保ちつつ、新たな住宅ローンを組むとすれば、現在の1年間の住宅ローンの負担に今後見込まれる賃金の上昇分を加えた額が相当と考えます。具体的には、年間186万円から最大で250万円程度ではないでしょうか。

今まで見てきた事柄から、購入可能な住宅の価格を試算してみましょう。

住宅ローンの組む前に抑えるべき「2つのポイント」

まず、新たに住宅ローンを組むにあたって考えていただきたいポイントは2点です。

(1)「借りられる額」≠「借りていい額」

(2)住宅ローン返済に退職金を充当しない

現在の住宅を売却すると、300万円から400万円の売却益が出るとのことですね。現在の貯蓄額880万円をすべて頭金に充当するのではなく、300万円程度を住宅購入に充てて、合わせて600万円から700万円を頭金に充当します。住宅を売却するにも購入するにも諸費用や税金等がかかりますし、急な出費や老後に備えて残りの貯蓄は手元に残しておきましょう。

現在の住宅ローン金利は、変動金利で0.5%程度(大手都市銀行)、全期間固定金利で1.3%程度(フラット35)です。ここでは金利を1.0%とします。

住宅ローンを組む上でのポイント(2)は「住宅ローン返済に退職金を充当しない」です。定年までに住宅ローンを支払い終えるのが理想的です。退職金は老後資金と考えましょう。ここでは住宅ローンの期間を定年までの20年間とします。

年間の住宅ローン返済可能額を次の2つのプランとします。

Aプラン:186万円(ボーナス払いなしで月15.5万円)
Bプラン:250万円(ボーナス払いなしで月20.8万円)

上記の条件で住宅ローンの借入可能額を試算した結果は次の通りです(※)。

Aプランの場合の住宅ローン借入限度額は、約3370万円
Bプランの場合の住宅ローン借入限度額は、約4522万円

これに頭金600万円を加えた額が、新たに購入可能な住宅の価格になります。ただし、住宅ローンを組む上でのポイント(1)は「借りられる額」≠「借りていい額」です。

夫婦二人の生活になることを見越して検討を

お子さんが理系学部を志望したり、浪人して予備校代がかかったり、自宅外通学の大学に進学したりした場合、教育費の見積り額は大きく変化します。家族がいつも健康だとは限りませんし、不測の事態が起きた時にも一定期間生活ができる程度の貯蓄が必要です。目いっぱいの住宅ローンを組むと住宅ローンの金利が1%でも上昇すれば、すぐに家計が行き詰まる可能性もあります。

お住いの地域が不明ですが、予算では戸建て住宅の購入が困難だとしても、お子さんが成長した後、夫婦二人の生活になることを見越すのであれば、駅近くの便利なマンションの購入を検討されてもいいのではないでしょうか。

これまで堅実に家計管理をされてきたご相談者とご家族ですので、よく話し合って今後も無理のない生活設計を立てていただきたいと思います。

※知るぽると「しっかりシミュレーション」(金融広報中央委員会)利用

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