国境の島の現在地 対馬市長選(中) <高齢化対策> 人材難 揺らぐ介護現場

介護予防の運動をするお年寄りら=対馬市、「よっていかんねぇ」

 「この集落は高齢者が半分以上。介護施設への入所を望んでも、待っている間に亡くなる方もいる。これからどうなることか」
 現職、新人による一騎打ちとなった対馬市長選。同居していた90代の義母がグループホームに入るまで10年近く待機していたという権藤憲明さん(73)は、厳原町豆酘(つつ)地区の自宅前で両候補の演説を聞き比べた後、そうため息をついた。
 市などによると、2010年に29.5%だった高齢化率は現在、36.9%にまで上昇。30年の県全体の推定高齢化率36.6%を既に上回っている。30年代に対馬は50%近くに達する見通しだ。
 入所待ちの一因は介護人材の不足だ。対馬公共職業安定所によると、フルタイム介護職の求職者1人当たりの求人倍率は10.4倍(昨年末時点)と高止まり。買い手市場の事務職が0.31倍なのとは対照的だ。
 市は、介護人材を育成するため受講料を補助する「介護職員初任者研修」を16年度に開講した。だが、近年の受講者は定員40人に対し10人程度。若者の島外流出に加え、市福祉課は「(以前と比べ島内の)就職先の選択肢が多くなったことも影響しているのではないか」とみる。
 「このままでは、職員がおらず運営に困る施設も出てきかねない」。こう危惧するのは、対馬圏域介護人材育成確保対策地域連絡協議会会長で、特別養護老人ホーム施設長の扇照幸さん(67)だ。同職安は、同じように人材難に悩む島内の建設業界が、若者向け奨学金を創設したことを挙げ「業界として働き方改革も含めた魅力を島民に発信していくことが大切」と指摘する。
 高齢者や、介護に当たる家族を支える地域住民の活動も一部では始まっている。上県町では、住民有志が高齢者を招いた寄り合い場「よっていかんねぇ」を09年に創設。体操や対話を通じて認知症、介護予防を図っている。認知症家族の会「ひとつばたご会」も、厳原町で14年から「家族の集い」を開催。介護の悩みを語り合うなどし、介護者の孤立を防ぐ取り組みを続ける。だが、今後、これらの活動の運営に携わる関係者自身の高齢化も進む。
 島民の2人に1人が高齢者となる近い将来に向けた町づくりをどう進めていくか。認知症の妻(84)を自宅で介護する厳原町の内山実宗さん(83)は「対馬の高齢化は行政による『公助』だけでは既に手が回らない段階に来ている。市は、市民同士が支え合う『共助』が各地域で機能するよう、現場を見て支援してほしい」と訴える。

 


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