人、物流 不安広がる 重症患者搬送に課題も 壱岐で長崎県内初感染

新型コロナウイルスの感染者が確認された壱岐市の中心部。住民からは人や物の流れへの影響を懸念する声が聞かれた=午後5時10分、壱岐市郷ノ浦町

 壱岐市で県内初の新型コロナウイルス感染者が確認された14日、本土と結ぶ交通手段が限られている離島の住民からは、人や物の流れへの影響を懸念する声などが上がった。一方、検体や重症患者をどう本土に搬送するかといった離島特有の課題も見えてきた。

 壱岐市勝本町の女性看護師(64)は「島内で感染が広まれば島から出られなくなるんじゃないかという懸念は多少ある。元々少ないマスクや消毒液などがより品薄になるのではないか」と不安がった。
 14日夕、市中心部の商店街は閑散としていた。今後、不要な外出を避けるため「買いだめが加速しないか」と40代主婦は心配する。同日、地元のドラッグストアではレトルト食品やカップ麺などが通常の2、3割増しで売れたという。男性店長(49)は「(感染確認で)外出や外食を控える動きが島内で広がっているのではないか」とみている。
 「島と島外を結ぶ交通機関は航路・航空路だけなので、人の流れや物流に影響が出ないか懸念している。壱岐での感染は決して対岸の火事ではない」。対馬市幹部はそう話す。島民の足を支える交通機関も警戒を強める。博多港と五島列島の各港を結ぶ定期フェリーを運航する野母商船では、先月から出港前に手すりやドアなどのアルコール消毒を徹底。乗務員は検温するなどして体調を管理している。乗客の感染が確認された場合、「運航を続けるか取りやめるかは、まだ決まっていない」。
 長崎と壱岐を結ぶオリエンタルエアブリッジ(ORC)には、「壱岐で感染者確認」のニュースが流れた後、「飛行機は飛ぶのか」という問い合わせが島民から複数あったという。同社は「感染した男性は空港を利用していないことが確認できており、冷静に対応する」。壱岐空港の入り口やカウンターなどの消毒作業を急いだ。
 官民の異動シーズンを迎え、離島はこれから人の出入りが本格化する。五島市では転入者に感染者が出た場合に備え、市窓口に手続きに訪れた時刻を記録するよう検討を始めた。同じ時間帯に窓口に来た人に素早く連絡し、感染拡大を封じ込めるためだ。転入者と最初に接触することが多い引っ越し業者からは戸惑いの声も。五島市の運送会社の役員は「従業員にマスク着用や手の消毒などを徹底させているが、それ以上は手の打ちようがない。人手が足りず、従業員に一人でも感染者が出れば業務ができなくなる」と落ち着かない。
 一方、離島で感染者が出た場合、採取した検体や重症患者をどのように本土に搬送するかという問題にも直面する。県によると、離島で採取した検体は基本的に検査機関に郵送。ただ今回は壱岐の保健所職員が船と車で大村市の県環境保健研究センターに持ち込み、PCR検査を実施した。県は「今回は1例目の可能性があり、県民の不安を軽減させるためにも迅速な対応をとった」と説明した。
 離島の感染者が重症化すれば、本土の病院に搬送する必要も出てくる。現時点で搬送手段は決まっておらず、県は自衛隊ヘリの活用を国に要請するなど対応を協議している。


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