遊撃→三塁→二塁 日替わりポジションを「楽しみ」と受け止めるロッテ鳥谷に共感

ロッテ・鳥谷敬【写真:宮脇広久】

「課題をもらっているので、やりがいを感じてやっていきたい」

 28、29日に予定されていた2軍の練習試合、ロッテ-西武2連戦(メットライフドーム)は、新型コロナウィルスの感染拡大による外出自粛要請を受けて中止となった。特に29日は、ロッテに移籍した前阪神・鳥谷敬内野手と西武に14年ぶりに復帰した松坂大輔投手の“直接対決”が実現する見込みだっただけに残念だった。

 今月10日に電撃入団が発表された鳥谷は、27日までに2軍戦9試合に出場して31打席に立ち、30打数7安打1四球(打率.233)。守備位置は遊撃→三塁→二塁→遊→三→二の順に日替わりだった。「今はとにかく数多く打ち、数多く捕って、試合勘を取り戻す作業」と言い、1軍昇格へ順調に階段を上がっていたが、ここにきて足踏みを余儀なくされた格好だ。

 プロ入り以来16年間を過ごした阪神を退団し、新天地を得た鳥谷。実は筆者も、昨年11月いっぱいで約29年間勤めた会社を退社し、新しい環境で働いているので、勝手に感情移入しているところがある。鳥谷は「日替わりでいろいろなポジションをやるというのは、今までなかった」と戸惑いを口にしつつ、「いろんなポジションの質を上げていかなくてはいけないが、それはそれで楽しみ。課題をもらっているので、やりがいを感じてやっていきたい」と言う。プロ入り後1度も経験のない一塁守備も想定し、ファーストミットを発注したほどだ。

 阪神では遊撃手としてゴールデングラブ賞に4度輝いた。2016年9月からは三塁にコンバートされ、翌17年には新ポジションでもゴールデングラブ賞を獲得、18年の開幕は二塁で起用されたが、ロッテで期待されている“便利屋”の役割とは意味合いが全く違う。ベテランといわれる年齢となってなお、新しい環境、役割への挑戦を「楽しみ」と受け止める姿勢には、大いに共感する。

報道陣への丁寧な対応に「人が変わったみたい」との声も

 一方で、積み重ねてきた努力と経験はウソをつかない。“実戦デビュー”となった17日の巨人との2軍戦では、若林が放った三遊間への痛烈なゴロを好捕し、よどみないフットワークで刺した。「打者が1軍でやっていた選手だったので、打球方向(の傾向)に合わせて1歩2歩(三塁方向へ)寄っていた。今までやってきた経験が生きたプレー」と自画自賛。こう言ってはなんだが、昨季出場77試合、阪神戦は9試合、33打席に過ぎなかった若林のデータが頭に入っていることに驚かされた。

 春季キャンプが終了し、オープン戦期間も中盤に入ってからの入団。なかなか所属先が決まらず、「公式戦が開幕しても決まらなければ引退」と決意した中での調整、トレーニングはモチベーションの維持がさぞかし難しかっただろうが、体の切れは申し分ない。

 井口監督が「おそらく現役選手で1番」と評する練習量は相変わらずで、試合出場後も室内練習場にこもる姿がある。今岡2軍監督は「若い選手たちが彼の行動を見ている。もう既に“化学反応”は起きていますよ」と目を細める。2軍戦中も、ピンチと見ればタイムを取ってマウンドに駆け寄り、ベンチに退いた後も、イニング間にファウルゾーンに出て外野手とのキャッチボールの相手を買って出ており、チームに溶け込んでいる。

 報道陣の質問にはじっくり、丁寧に答えている。「う~ん、どう言ったらいいのかな……」と一生懸命答えを探すこともある。阪神時代を知る記者には「クールで、報道陣にはだいたい素っ気なかったのに、人が変わったみたい」と驚いている人もいる。もともと東京出身で、埼玉・聖望学園高、早大と関東で過ごした。リーグも変わり、久しぶりに生活拠点を戻す形になって、いろいろな意味で心境の変化があるのかもしれない。

 公式戦開幕は現在設定されている4月24日に迎えられるかどうか、予断を許さない状況だが、このまま順調にいけば鳥谷は間違いなくその場にいるはず。何より「阪神も良かったけれど、ロッテに移籍して“新しい自分”に出会えて本当に良かった」と感じられるシーズンにしてほしい。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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