壱岐市長選 告示直前情勢 現新一騎打ちの公算 白川氏 「自公の推薦受け組織戦」 森氏 「民間の経営感覚」訴え

人口減少が進み、空き店舗も目立つ郷ノ浦町の大通り。市のかじ取り役を決める市長選の告示が迫る=壱岐市

 任期満了に伴う壱岐市長選は5日、告示される。今のところ、4選を目指す行政経験豊富な現職の白川博一氏(69)=無所属=、壱岐に移住した元会社代表で「民間の経営感覚」を訴える新人、森俊介氏(35)=同=による一騎打ちの公算が大きい。熱を帯びる前哨戦をリポートする。
 「壱岐を自然エネルギーの島にする。これが私の夢」。3月7日、芦辺町内であった白川氏の事務所開き。集まった医師会や漁協、農協などの関係者を前に白川氏はこう気を吐き、4選への意欲をみなぎらせた。
 旧芦辺町職員。同町長を経て、2008年の壱岐市長選で初当選した。行政経験が豊富で、3期目は国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた施策などを進め、「県の先頭を行く取り組み」と評価する声も聞かれる。
 再生可能エネルギーの推進を目指す白川氏は今回、自身の市長選で初めて自民、公明両党の推薦を受けて戦う。両党に推薦願を出した理由について白川氏は「両党の支援がないと(こうした)新しい取り組みを実現できない」と説明する。
 これに対し、推薦願は「危機感の表れだ」とみる支持者も。SDGs推進などの施策は評価の半面、「トップダウン的で島民の生活に直結していない」との批判がある。公約の一つ、市健診センターの整備については「説明が不十分」などと一部の市議が反発。合併前の旧4町の地元意識が依然強い島内では、市幹部人事などを巡り「(白川氏の地盤の)芦辺が優遇され、まるで芦辺市だ」とやゆする声もある。
 「効果の少ない事業が数多く行われている。お金の使い方を見直し、島内の経済循環を高めたい」。今年1月、出馬表明の会見でこう力を込めた森氏。強調したのは「民間の経営感覚」での市政運営だった。
 神奈川県生まれ。会社勤めを経て、14年に東京・渋谷で「森の図書室」を開設したほか、飲食店やジムなどを起業。17年には実績やアイデアを買われ、市が開設した無料経営相談所「壱岐しごとサポートセンターIki-Biz」の初代センター長に選任された。
 センター長として行政を見る中で、「(お金の使われ方が)もったいない」と感じ、立候補を決意。若いスタッフを中心とした陣営は意見交換会やつじ立ち、フェイスブックでの発信などを重ねてきた。異色の経歴に、白川氏陣営からも「これまで戦ったことがないタイプ。票が読みにくい」と戸惑いが漏れる。
 一方で森氏陣営の懸念は知名度と組織力だ。2月末、郷ノ浦町で開いた意見交換会。財政健全化などを訴える森氏に会場の1人が声を上げた。「地縁、血縁、旧町意識。これを打ち破らんと壱岐の選挙には勝てん」。移住者のハンディをカバーしようと、草の根で浸透を図る中、新型コロナウイルスの感染が拡大。壱岐でも県内初の感染者が確認されるなどし、人を集めた大々的な活動が困難に。関係者は「より不利になった」と焦りを隠せない。
 高齢化や人口減少が進む壱岐。コロナショックが前哨戦にも及ぼす中、両陣営とも島の再生に向けた独自の施策をいかに訴え、有権者の関心を高めることができるかが鍵となりそうだ。

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