元MLB右腕・藪恵壹氏は「球数制限」をどう見る? 「指導者がどう意識を変えるか」

阪神、MLBなどで活躍した藪恵壹氏【写真:佐藤直子】

現役引退後はジュニア世代の指導も経験、2019年には学生野球資格回復を認定

 2020年から高校野球では新たなルールが導入されることになっている。それが、投手の怪我予防を目指す、いわゆる「球数制限」だ。本来は、今春の選抜高校野球から導入され、それ以降は全国大会だけではなく地方大会や軟式高校野球にも適用される予定だった。

 具体的には、どういうルールなのか。1試合で投げる球数に上限はなく、公式記録を基に1週間の合計球数を計算。1週間の上限を500球と定めた。「500球」という数には医学的根拠はなく、はたして1週間で500球が適正なのか否かについては、様々な意見が飛び交っている。

 それでは、元阪神でメジャーではアスレチックスとジャイアンツのユニホームに袖を通した藪恵壹氏は、どう考えるのか。

「指導者の方が投手の起用について歯止めが利かなくなっている部分があったので、何か指標を出さないといけない状況だったと思います。内容はともかく、出したことに意味がある。選手を潰しちゃいけないと思ったら、本当は指導者が自主規制して、そこまで投げさせないじゃないですか。でも、高校野球の場合、『今やっておかないと、これで終わってしまう』と、どこまでも投げさせてしまう。気持ちとしては分からないわけではないけれど、それで怪我をしたら、野球だけではなく人生も棒に振る可能性がありますから。高校野球が全てじゃない、まだ先があるんだ、ということを指導者が教えてあげないといけないし、先があることを指導者が知っておかないといけないですよね」

「プロでも130球を超えると、投げながら自分でヒヤヒヤしましたよ」

 今回のルールで対象となるのは「公式戦」だけだ。ウォーミングアップで投げた球数、練習で投げた球数はカウントされないが、子どもたちを怪我から守る姿勢と意識を広めることが大事だという。

「なんで球数が増えるとダメかというと、それは『次の1球で怪我をするかもしれない』という危険度が増すからです。肘が飛ぶ(怪我をする)時は、大体この1球っていうのがあります。疲労が蓄積してくると、肘が飛ぶ可能性が高くなる。プロでも130球を超えると、投げながら自分でヒヤヒヤしましたよ。特に、野手出身の指導者の中には『120球と130球の違いはどこにあるんだ?』なんて言う人もいます。その10球で怪我の危険度は相当増しますよ」

 現在では、藪氏のように学生野球資格回復の認定を経た元プロ選手が多く、高校野球の指導者となっている。また、世間で球数制限が話題になっていることもあり、「以前とは大分変わって来ていると思います」。その一例が、昨年の夏、日本全国で論争が沸き起こった大船渡・佐々木朗希投手の起用だろう。

 岩手大会の準決勝・一関工戦で先発した佐々木は129球を投げて完封勝利。翌日の決勝・花巻東戦での先発が期待されたが、国保陽平監督は佐々木の故障を防ぐため、投手としても野手としても佐々木を出場させなかった。

「僕はあれで良かったと思います。本人の本心は投げたかったと思うけど、投げて壊れていたら誰も責任は取れない。そこにリスクがあるなら、事前に手を打たないといけません。よくジュニア世代の監督さんから『どう指導したらいいですか?』って聞かれるんですけど、必ず『何も教えなくていいです。無理させないように、壊さないようにして下さい』とだけ言います。怪我をしないこと。これが大前提ですから」

 今回の球数制限について「指標としては間違っていない」という藪氏は、「あとは指導者の問題。どう意識を変えていくかですよ」と指導者の意識改革に大きく期待する。高校を卒業した後、野球を続けないという選択をする子どもたちもいるかもしれない。だが、故障は野球人生だけではなく、日常生活をも狂わせる危険性をはらんでいることは覚えておきたい。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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