日本一になるチームにエースの存在は欠かせない。自らのシュートで仲間を安心させる。どんな試合でも安定して得点源になる。苦しい場面の1点で流れを奪う-。そんなエース像を、瓊浦高の前田一鷹は追い続けている。この2年でだいぶ近づいた。「でも、まだまだ」。自分に厳しく負荷を掛ける。
竹松小1年から、諫早クラブで始めたハンドボール。絶対数が少ない左利きに加えて、中学生になると身長が180センチ近くまで伸びた。この武器を生かして全国の舞台で活躍。日本協会のU16育成合宿にも呼ばれた。
瓊浦高へは「日本一になりたい」という思いを胸に進んだが、最初は通用しなかった。遠慮がちなプレーが増えた。「自信が持てなくて先輩に頼っていた」。徐々に自覚が芽生えたのは、代替わりした1年の夏以降。左利きが有利なエースポジション「右45度」でスタメン入りした。
エースとはどんな役割か。末岡政広監督に熱心に説いてもらい、求められる姿を目指した。1対1を抜いて積極的にゴールを狙った。身長182センチの高い打点から放つロングシュートも力強くなった。2年の夏、チーム7年ぶりのインターハイ4強に貢献。「手応えは感じることができた」
今季はその全国4強を経験した主力も多く、目標の「頂点」へ出だしは順調だった。2月の全国選抜大会九州地区予選は「準決勝で気の緩みが出て」3位通過となったが、全国で巻き返そうとチームの士気も上がっていた。その矢先に本大会の中止が決定。程なく部活動も休止された。
「気持ちをどこに向ければいいのか分からなかった」。それでも、先の見えない不安と闘いながら、高校最後の夏のために体づくりなどの自主トレに励んだ。体重は入学時から約10キロ増となる80キロに。腕や脚が一段とたくましくなった。
3月下旬に再開した練習(4月22日から再休止予定)は、チームを3班に分けて接触を極力減らしてきた。攻守に高い組織力で動く瓊浦高にとっては、もどかしい時間だが、それも「個々のレベルアップにつながる」と捉えて基礎を磨く。
晴れて実戦ができるようになったら、どんなシュートが打てるだろう。「プレッシャーもあるけれど、それを乗り越えてみんなを引っ張る存在になりたい」。これまで以上に強い気持ちで、理想のエース像を完成させる。