長崎クルーズ船乗員と接触 陰性わかった運転手「潔白証明できたよう」 PCR検査受け 感じた怖さ、抱いた思い

乗組員を乗せ「不安だったが、自己防衛するしかなかった」と語る男性=長崎市内

 長崎市の三菱重工業長崎造船所香焼工場に停泊中のクルーズ船コスタ・アトランチカで、新型コロナウイルスの集団感染が発生した問題で、乗組員を運んだ観光タクシー(長崎市)の男性運転手(50代)が4日、長崎新聞社の取材に応じた。男性は先月、PCR検査を受け陰性が判明。「身の潔白が証明できたよう」と胸をなで下ろす。一方、船会社の対応には「危機感が薄かったのではないか」と疑問を呈した。
 男性が乗組員を最後に乗せたのは4月2日。帰国者を香焼工場から長崎空港まで運んだ。3月下旬にも数回、長崎空港や市内のホテルに送った。会話はなく、チケット払いのため現金のやりとりもなかった。
 他県でバスやタクシーの運転手の感染が出始めた2月ごろから、予防に気を配っていたという。マスクを着け、消毒や車内換気を徹底していた。乗組員への不安はあったが、乗車を断ることはできない。「自己防衛するしかなかった」
 4月下旬。クルーズ船内で感染者が出たと聞き「やっぱりなと思った」と明かす。2月下旬にクルーズ船が工場に入って以降、何度か工場内に出入りしたが、乗組員の乗船時に看護師や医師らが厳重にチェックし始めたのは3月中旬ごろからだったという。「船会社はコロナを甘く見ていたのではないか」と指摘する。
 観光タクシーは「感染者を乗せた可能性が否定できない」として、4月22日に社名を公表し休業を決めた。同僚運転手の妻が「職場に出ないで」と周囲に言われるなど、影響は家族にも及んだ。男性も「誰かにうつすのではないか、という怖さを抱えていた」と打ち明ける。だからこそ陰性判定はうれしかった。
 一方で、別の思いもある。近年寄港が増えたクルーズ船について「長崎が好き」という乗組員も多いと聞いた。「いま一番つらいのは母国にいつ帰れるのか分からない乗組員たち。彼らを責めるのは違う。こういうときこそ、助け合いが大切ではないだろうか」。男性はそう願っている。
 観光タクシーは、乗組員の送迎に関わった運転手17人に感染者はおらず、7日から営業を再開する予定。

 


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