「LISTENERS リスナーズ」橋本太知(原案・クリエイティブプロデューサー) - 何かを受け渡すことが出来たら本望です

自然にチョイスされていく。そう云う感じです。

――佐藤(大)さん・じんさんにも伺ったのですが、改めてアニメ企画の成り立ちを伺えますか。

橋本:2013年ですかね。僕が前職で佐藤(大)さんと企画を進めていて(結局、形にはなりませんでしたが)その作業が一段落ついた処に、“ロック×ロボ”のアニメを作りたいアーティストがいるので会って貰えませんか? と云う連絡を受けまして、それがじん君だった訳です。で、彼はそれまで、独りで小説を書き、音楽を作り、と云う活動をされていて、もっとコラボレーション的に作品を生み出したいと云う欲求に駆られていたみたいで、僕的には直ぐ佐藤さんの名前が浮かびました。で、お二人を引き合わせると云う所から始まった次第です。

――音楽ものとしては“成り上がり”物、フェスから“スポ根”物も選択肢としてあったのかと思います、そんな中で今回「ボーイ・ミーツ・ガール」選ばれたのは何故でしょうか。

橋本:うーん。ロックって甘酸っぱい想い出と共にある感じじゃないですか? (笑)。それに、成り上がりも、スポ根も、物語として考えるとボーイ・ミーツ・ガールを内包してる。だからじゃないですかね? 逆にある意味「LISTENERS」も成り上がりでスポ根だと思います。

――確かに二人の成長はスポ根の要素も含んでいますね。そういった部分も作品世界に合っていて旅立つシーンは見ていてワクワクしました。地名からイギリスっぽい名前ですがモデルにされたのですか。

橋本:ビートルズの本拠地「リバプール」とオアシスの本拠地「マンチェスター」の組み合わせですね。どのタイミングで誰が言い出したのかわからないくらい自然にそうなりました。

――橋本さんも原案にクレジットされていますが、具体的にどういった形で携わられたか伺えますか。オタク心をくすぐる音楽ネタ満載ですが、ご一緒にネタ出しもされた形でしょうか。

橋本:クリエイターをキャスティングするプロデューサーの立場から言うと、殊更にネタ出しをしなくても良いメンバーを集めたって事なんです。例えば「リバチェスタ―」って云うアイデアが一つ出たら、皆、その意味が判るし、そこにまつわるネタに関しては既に共有されている。後は、ストーリーの展開やキャラクターの動きに合わせて自然にチョイスされていく。そう云う感じです。それは特別な事じゃなくて、例えば、戦闘機が大好きな人たちが集まって戦闘機のアニメを作るって云うのと同じだと認識してます。

――プロデューサーとして作品を共有できるスタッフを集め、作品作りをしやすい環境を作られたと言うことなんですね。これだけ豊富な音楽ネタと物語のバランスを取るのは難しそうですが、どのような点に気を付けられたのですか。

橋本:音楽ネタで楽しく遊びたいって云うのは、僕らが楽しく作品を作って行く上で重要なポイントでしたが、それをやる為に作品を発想したと云うのとは違ったんですね。もっと、自分たちが思春期にロックを通して、アニメを通して、女の子を通して、世の中に触れていった時のドキドキとかヒリヒリとかを再現する事を目指していたんだと思います。その結果のバランスじゃないでしょうか。

一緒になって、良く解らない世界を旅する感覚で物語が積み上げられて行ったんです。

――各キャラクターのセリフ回し、デザインもモデルとなったアーティストとリンクしていて、そこを追いかけるのも楽しいです。

橋本:デザインは、兎に角、pomodorosaさんと寺尾(洋之)さんのお二方がですね、実際に存在するものを見て来たかの様にサラサラと描かれるんですよ。同様にロック史やアーティストのバイオグラフィ、セリフの引用などは、佐藤さんと宮(昌太朗)さんが息を吐くように自然にやられるんです。舌を巻きました。で、そう云う世界を旅するエコヲとミュウに関して、何故、エコヲがあんなに言い訳がましいのか? (笑)。ミュウがイケイケなのに乙女なのか? (笑)。そのあたりはじん君の中にある物なんですね。凄く拘っていたように思います。

――本当にすごいメンバーを集められましたね。みなさんの個性が見事にかみ合っていて見ていて楽しいです。各サブタイトルを見ていると楽曲名から付けられているように見えますが。

橋本:はい。サブタイトルは、全て、モデルになったアーティストの曲名です。

――やはりそうなんですね。サブタイトルと各話の物語もリンクするように意識されているのですか。

橋本:各話のシナリオの内容と当然全てリンクしています。「この曲だから、この話」なのか、「この話だから、この曲」なのかはちょっと分からないですけど。キッチリ設定を作り込んで、ルール化して、そこから逆算でお話を構成するって感じじゃなかったんですね。フィーチャーされるジャンルの順番と大きな構成があって、後はエコヲとミュウと一緒になって、良く解らない世界を旅する感覚で物語が積み上げられて行ったんです。なのに、2話の時点でノイバウテン3姉妹がしゃべる変な話が、後になって「本当の事だったんだ!?」となったりする。そう云う事が色々あって「ああ、なるほど。俺たち意外に解ってたんだ」と思いましたね(笑) 。

――それだけ自然に作品世界・物語を理解・共有できていたんですよ。素晴らしいです。そのチームに新たに加わるキャストのみなさん。キャラクターに合う方を選ぶのは大変そうですね。

橋本:皆さんに夢のキャスティングを出して貰ってですね。ダメもとで音響制作のdugoutさんに投げたって云う(笑) 。今回の超豪華キャストはdugoutの岡田(拓郎)さんのお陰です。感謝してます。

――あれだけの豪華メンバーを集めるのは大変ですよね。演技力は折り紙つきのみなさんですが、現場ではどのように演技指導をされたのですか。

橋本:収録は朝10時からなんですが、毎回、新たに来られるゲストの役者さんに監督が世界観を説明する会って云うのがありまして、安藤(裕章)監督は本当に誠実に想いの丈を話されるんで、結局スタートは10:30から、時には11:00からなんて事もありました。キャスト陣もとても真摯に耳を傾けてくれて。でも、説明不要で全て理解して頂いていた方も多かったです。

――素晴らしい、だからこそあれだけ個性的なキャラクターたちも物語にマッチしているんですね。こだわりと言えば毎話変わるEDについても伺えますか。

橋本:コレが実現できるか否かは、結構、際どかったです。各所のご協力に感謝してます。じん君を柱に立てて、音楽とロボのアニメと銘打って企画を始めた以上、コレが出来ないと不味いなと胃がキリキリしてました。各ジャンルに対して、どういう距離感の楽曲を出すのか? 当初は原曲を使うなんて案もあったくらいだったんですが、ある日、じん君がモノマネはしないと宣言したんです。インスパイアされつつ今の音でやりたいと。それはロックアーティストじんの矜持だったろうなと。

ロックの一つの本質じゃないかと思います。

――それを実現する橋本さんの手腕もさすがです。音楽繋がりで言うと劇伴のこだわりも強いように感じています。音楽を聴くだけでも楽しい作品です。

橋本:楽曲数は多いですよね。物語全体に通底する楽曲群。各話のジャンルを表現する楽曲群。一番の見せ場で画とリンクして流れる楽曲。この3つをどうやって予算内に収めるか? 音響監督の小泉さんと安藤監督、じん君とで何度も話し合って貰って、シナリオに対してどの場面でどの曲を填めるかのパズルを出来上がるフィルムを想定しつつ緻密に組んで貰った事で実現しました。音響チームも凄く熱意をもってやってくれましたね。本当に難しいダビングだったと思いますけど。

――設定資料集は出ますか? お話を伺って改めて欲しいと強く思いました。

橋本:僕も欲しい! どこか出版社さんが商品化申請して頂ければ、直ぐ許可できると思います。音楽誌/アニメ誌のライターでもある宮さんが全部書いてくれるはずです(笑)。

――本当によろしくお願いします! 沢山のコダワリを伺えましたが、改めてここに注目してほしいという点があれば教えてください。

橋本:先ず旅の行き着く先ですね。合わせてジミの正体です。登場人物、皆がそれぞれに違うジミ像を語る。モデルとなったジミ・ヘンドリクスもそういう存在ですし、ロックの一つの本質じゃないかと思います。

――ミミナシやこれからの物語が気になってしょうがないのですが、話せる範囲で伺えますか。無理を承知でお願いします。

橋本:黙秘します(笑)。それは…。折角、オリジナル作品ですから、先の分からない事を楽しんで貰いたいですね。

――ですよね(笑)。座して放送を待ちます。「LISTENERS」のテーマの1つになっていますが、橋本さんにとっての『決して忘れられない「音」』はありますか。

橋本:映画学校を卒業した後、楽器も弾けないのに何故かバンド始めたんですよ。就職もせず。で、唯一、経験者だったメンバーが持ち込んだオリジナル曲を演奏した時のギターの音。自分が叩いたドラムの音。演奏が終わった瞬間に爆笑した皆の嬉しそうな声。忘れられないです。

――最後にファンの方へのメッセージをお願いします。

橋本:今までロックに触れて来なかったとしても、この作品を観て、例えば、ニルって可愛いな。ビリンとケヴィンカッコいいな。なんて思っていただけたら、ちょっと検索してみてください。広大なロックの海が待ってますから。最高に楽しいですよ。そうやって、若い人たちに何かを受け渡す事が出来たら本望です。僕らも、同じように伝説のプレイヤーから受ってここまでやってきましたから。アニメもロックもそうやって繋がって行くのだと信じてます。

© 有限会社ルーフトップ