上場企業「新型コロナウイルス影響」調査 (5月20日時点)

 猛威を振るった「新型コロナウイルス」感染拡大も、新規感染者数が全国的に沈静化したことで、政府は21日、緊急事態宣言の対象地域から首都圏4都県と北海道を除く、京都、大阪、兵庫の関西3府県を解除する。当初、5月末としていた解除予定を前倒しした。
 だが、5月15日に東証1部上場の(株)レナウンが民事再生手続開始決定を受け、上場企業としては初の「新型コロナ」関連倒産が発生した。新型コロナの経済活動への影響は日増しに深刻さを増し、影響は小・零細企業から上場企業にも及んでいる。
 5月20日までに、新型コロナ関連の影響や対応などを情報開示した上場企業は3,277社に達した。これは全上場企業3,789社の86.4%と、9割に迫った。業績の下方修正を発表した719社のマイナス分は合計で、売上高が5兆3,580億円と5兆円を超え、利益は3兆1,479億円となった。
  3月期決算企業の決算発表がピークを迎えた。5月20日までに2020年3月期決算の2,406社のうち、1,946社(80.8%)が決算短信を発表した。このうち、次期(2021年3月期)の業績予想を「未定」とした企業は1,113社(57.1%)と半数を超え、先行きが見通せない苦境も浮かび上がった。

  • ※本調査は、2020年1月23日から全上場企業の適時開示、HP上の「お知らせ」等を集計した。
    • ※「影響はない」、「影響は軽微」など、業績に影響のない企業は除外した。また、「新型コロナウイルス」の字句記載はあっても、直接的な影響を受けていないことを開示したケースも除外した。前回発表は5月14日。

下方修正額、売上高5兆3,580億円に拡大

 情報開示した3,277社のうち、決算短信や月次売上報告、業績予想の修正などで新型コロナウイルスによる業績の下振れ影響に言及したのは1,216社だった。一方、「影響の懸念がある」、「影響を精査中」、「影響確定は困難で織り込んでいない」などの開示は1,198社だった。
 下振れ影響を公表した1,216社のうち、719社が売上高や利益の減少などの業績予想、従来予想と実績との差異などで業績を下方修正した(業績予想を一旦取り下げ、「未定」とした企業を含む)。業績の下方修正額のマイナスは合計で、売上高が5兆3,580億円、最終利益が3兆1,479億円に達した。業績下方修正額は、前回調査時(5月13日時点)は売上高が4兆8,405億円、最終利益が3兆1,148億円のマイナスだったが、わずか1週間でマイナス幅は売上高が約5,000億円、利益は約300億円膨らんだ。
 前回発表以降、業績を下方修正した企業では、ファミレス「ロイヤルホスト」の運営やホテル・機内食事業を手掛けるロイヤルホールディングス(株)(東証1部)が5月14日、2020年12月期第2四半期決算の売上高を前回予想の664億円から390億円に274億円下方修正(減少率41.3%)し、通期決算は「未定」とした。航空便の減便・運休による機内食需要の低下や外食、ホテル事業でも来客数の減少に見舞われた。
 このほか、チケット販売大手のぴあ(株)(東証1部)は5月19日、「全国規模での興行の中止・延期が、前回下方修正時(3月19日時点)よりも更に拡大した」ため、チケットの払い戻し対応等に係る引当の増加等から特別損失が拡大、業績予想の再修正を公表した。
 一方、新型コロナウイルスの影響が見通せず、従来の業績予想を一旦取り下げ、「未定」と修正したのは719社中、142社(構成比19.7%)と約2割にのぼり、前回発表の102社から40社増加した。

業績下方修正額の累計

トヨタ自動車など104社が資金借入を公表

 新型コロナウイルスの影響・対応で、店舗・拠点の休業、サービス停止は277社が開示した。緊急事態宣言に伴う店舗休業や、休業延長の公表は182社(構成比65.7%)で、経過報告や今後の営業スケジュールについての追加の「お知らせ」が増えている。
 「その他」のうち、金融機関からの資金借入を公表した企業が104社に達した。トヨタ自動車(株)は2020年3月期決算短信で、「新型コロナウイルスの影響長期化リスクを見据えた資金動向や市場動向を勘案」し、複数の国内金融機関から総額1兆2,500億円の銀行借入を公表。
 このほか、(株)ブリヂストン(2,000億円)、(株)SUBARU(1,915億円)、三菱自動車工業(株)(1,620億円)などの大手も新規借入を実施。事態の長期化に備えて運転資金の確保や手元資金を厚くする動きが広がっている。
 決算発表の延期は、前回調査時の686社からさらに増え、879社となった。

2020年3月期決算は8割が公表、「減収減益」が最多の35.4%

【2020年3月期決算】
 5月20日までに2020年3月期決算の上場企業1,946社(3月期決算の上場企業の80.8%)が決算短信を公表した。2020年3月期の最多は「減収減益」で690社(構成比35.4%)。次いで、「増収増益」が603社(同30.9%)だった。
 増収企業(1,019社、52.3%)が減収企業(927社、47.6%)を4.7ポイント上回ったが、利益面では減益企業(1,106社、56.8%)が増益企業(840社、43.1%)より13.7ポイント高く、コストアップによる利益ダウンの傾向が強まった。

【2021年3月期決算見通し】
 次期(2021年3月期)の業績予想は、1,946社のうち、約6割の1,113社(構成比57.1%)が、「未定」として開示していない。新型コロナウイルスを端緒にした経済環境の激変で、業績予想の算定が困難としている。一方、次期の業績予想を開示した833社のうち、最多は「減収減益」の353社(42.3%)で、前期「減収減益」の比率(35.4%)を上回り、利益水準の低下が予測される。

新型コロナウイルスの影響を要因としたGC・重要事象企業が15社 

 (株)レナウンが民事再生手続きの開始決定を受け、ついに上場企業でも「新型コロナ関連倒産」が発生し、上場企業の業績動向にも関心が寄せられている。
 レナウンは近年、主要販路の百貨店向けが不振で業績が低迷。2019年12月期は消費税増税、暖冬などで重衣料が苦戦したうえに、売掛金回収難が発生したことで赤字幅が拡大した。
 同期決算で初めて「継続企業の前提に関する注記」(GC注記)を記載。こうしたなかで、新型コロナウイルスによる販売先の休業や消費減退による売上不振が直撃し、資金繰りが行き詰まった。
 決算短信に新型コロナウイルスの悪影響が原因で、GC注記や、GCに至らないまでも「継続企業の前提に関する重要事象」(以下、重要事象)を記載するケースが相次いでいる。
 5月20日発表分までで15社がGC注記、重要事象の主な記載理由として新型コロナウイルスの影響を挙げた。
 最も多いのが、営業自粛による来店客数の減少に見舞われた飲食業者で、6社だった。このほか旅行・宿泊関連や、アパレル・服飾雑貨関連なども目立ち、インバウンド消失、外出自粛による売上不振など、新型コロナの影響を色濃く受けている業種が目立つ。

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