59歳主婦「年金を繰り上げ受給して、住宅ローンの繰り上げ返済に回す」はアリ?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、59歳の主婦の女性。年金の繰り上げ受給が可能になる60歳を目前に、繰り上げ受給をして残ったローンを繰り上げ返済し、返済期間を短縮できないかと考えています。どんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。FPの飯田道子氏がお答えします。

現在の住まいを終の棲家として購入したのが2017年4月、現在のローン残年数が14年あります。夫は現在57歳、ローン完済のときは71歳の予定です。妻である私は夫より3歳年上の59歳になります(今年の秋に60歳になります)。

私の年金受給は本来なら5年後ですが、思案の末、60歳から年金を繰上げ受給し、その年金分を貯蓄、住宅ローンを繰り上げ返済する……というプランを考えました。

年金ネットのシミュレーター機能を使用し、通常受給・繰り上げ受給・繰り下げ受給のそれぞれの金額を算出し、考慮した結果、通常受給・繰り下げ受給と比べて、77歳以降は受給できる総額は確かに低くなってしまうものの、夫が年下であるため、当面は夫の給料で生活を維持できるものと仮定し、私が60~70歳までの10年間に500万円を貯蓄し、住宅ローンの繰り上げ返済に当てた場合、ローンの返済を3年近く短くできるのではないか、と考えています。

もちろん、これはあくまで計算上のことであり、夫の定年後の収入低下は盛り込んでいません。また、もらえる年金の額もシミュレーターの計算によるものなので実際どうなるかは未知数です。

また、繰り上げ受給することによる、思わぬ誤算もあるのではないかと思います。できる限り調べてみたのですが、見落としているデメリットが存在するのではないか?と恐れています。しかしながら、60歳繰り上げ受給するとなると、今年の秋には手続きをしなくてはなりません、繰上げ受給のデメリットをどう考えるかという決断は自分でくださねばならないと思っておりますが、プロの視点からアドバイスを頂けるとありがたく存じます。

よろしくお願い申し上げます。

<相談者プロフィール>

・女性、59歳、既婚(病気のため通院)

・職業:専業主婦

・同居の家族:夫57歳、会社員(60歳定年、その後再雇用予定。年収864万〈年俸制〉)

・子ども:なし

・居住形態:持ち家(マンション)

・毎月の世帯の手取り金額:72万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:なし

・毎月の世帯の支出目安:56万円

【支出の内訳】

・住居費:18.5万円

・食費:8万円

・水道光熱費:2万円

・教育費:0万円

・保険料:1.4万円

・通信費:1万円

・車両費:3万円

・お小遣い:14万円

・その他:10万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:14万円

・ボーナスからの貯蓄額:なし

・現在の貯蓄総額:670万円

・現在の投資総額:290万円

・現在の負債総額:2410万円

・住宅ローン:物件購入額2900万

(借入額2900万、金利変動0.625%、現在返済期間17年・残年数14年、現残債2410万)

・老後年金:夫約242万/年、妻約56万/年」(年金ネットのシミュレーターによる)

・退職金:約800万

・その他老後資金:個人年金600万、確定拠出年金230万


飯田: 住宅ローンの返済期間を短縮するために、年金の繰り上げ受給をして、そのお金を貯めてから住宅ローンの繰り上げ返済に充当したいと考えている相談者様。シミュレーターを使ってプランを立てているものの、デメリットがあるのなら、それを踏まえて判断していきたいとお考えのようです。

年金の繰り上げ受給の2つのデメリット

相談者様も理解されていますが、年金を繰り上げ受給、いわゆる前倒しにして受給する場合のデメリットとしては、相談者様が行ったシミュレーション結果によれば、77歳以降に受給できる総額は少なくなってしまうと言うこと。つまり、長生きをするほどに、受給できる総額は減ってしまうことになります。

その他のデメリットとしては、「事後重症による障害年金」と言って、障害認定日には障害年金に認定されなかったものの、その後になって障害が悪化した場合には再請求できる年金に影響があるということです。本来であれば65歳まで請求できるのですが、繰り上げ受給を請求すると、65歳前でも、その時点で以降の請求はできなくなります。

現在、相談者様は通院中のようですが、このような身体的な不安も考慮する必要があります。

定年後の収入減を見据えて支出のスリム化を

年金の繰り上げ受給のデメリットとともに考えて欲しいのが、毎月の支出についてです。

支出の内訳を拝見すると、食費8万円、お小遣い14万円となっており、手取り額72万円の30%強を占めています。おそらく、夫婦2人分の金額かと思います。年収から考えられるご主人の立場はそれなりにお金がかかるかと思いますが、もう少し、下げられないかを考えて欲しいと思います。

ご主人が定年した後は再雇用の予定とのとですが、収入の低下は必至と思われます。今から、現状よりも少ないお小遣いに慣れておき、浮いたお金を貯蓄に回すようにしてはいかがでしょうか?

食費に関しても同じです。外食費も含まれているのかと思いますが、もう少し抑えるよう外食の回数を減らす、食材の使い回しを考えるなど検討してみてください。

相談者様はシミュレーションするなど、しっかりと管理されていますので、使途不明金はないとは思いますが、万一、家計の中で使途不明金があるようでしたら、そのような流れが分からないようなお金を出さないような工夫が必要です。

また、保険料は1.4万円となっていますね。こちらは医療保険の保険料かと思われますが、年齢を重ねることで通院する回数は増えていくことが考えられます。入院日額は最低でも6000~8000円はついていると安心です。もし、不足があるようでしたら、見直しをお勧めします。

住宅ローンの繰り上げ返済をするべきかどうかの考え方

一番大切なことは、夫婦2人で送るセカンドライフをどのようなものにしたいのか? ということです。

コロナショックなどもあり、多くの家庭で収入の低下が想定され、新たに家計を見直すシミュレーションをし直す必要があるかもしれません。ただ、どんなことがあっても変わらないのが、どのように暮らしていきたいのかという、2人の気持です。

住宅ローンをできるだけ早く終えて、夫婦2人で旅行を楽しむ、自宅でそれぞれの趣味を楽しみながら生活する、夫婦で新たな趣味をスタートさせる、ということもあるでしょう。

すでに思い描いていらっしゃるのかもしれませんが、今一度、住宅ローンの返済とともに、どのように暮らしていくのかを考えて優先順位を考えて欲しいと思います。

相談者様のケースであれば、現状のままなら年金の繰り上げ受給をして貯蓄をし、住宅ローンの繰り上げ返済に回すのは「アリ」だと思います。

今秋までには結論を出さなければならないなど、時間的な制約はありますが、その中でも社会的な動向やご主人の会社の態勢などを踏まえて、結論を出してください。

相談者様は、自分のご意見をお持ちですので、自分の信念に従って、選択して欲しいと思います。現在、通院中とのこと。くれぐれもお身体に気を付けて、お過ごしくださいね。

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