『TCRヨーロッパ SIM Racing』第5戦、最終ラップの通信遮断でナジー連勝は幻に。アズコナが初優勝

 6月末に予定された1戦が延期され、改めて7月8日(水)に仮想空間のイタリア・モンツァで開催された『TCRヨーロッパ SIM Racing』第5戦の高速バトルは、開幕からここまで全戦のレース1を制しているダニエル・ナジー(ヒュンダイi30 N TCR/BRC Racing)が再び無双ぶりを披露して勝利を飾るかと思われたが、ファイナルラップにまさかの通信遮断トラブルで“落ち”てしまい連勝ならず。2018年王者ミケル・アズコナ(セアト・クプラTCR/PCR sport)がeシリーズ初優勝を飾っている。

 人気プラットフォームの『Assetto Corsa Competizione(アセットコルサ・コンペティツィオーネ)』を採用した同シリーズで、無類の強さを披露してきたハンガリー出身のナジーは、モンツァの予選でも“指定席”となったポールポジションを獲得。レース1に向け同郷の若手ベンス・ボルディズ(セアト・クプラTCR/Zengő Motorsport)のアタックを抑え込み、1コーナーシケインで盤石のホールショットを奪っていく。

 そのままいつもどおりの展開で巨大なマージンを稼ぎ出し、レース1全勝男がその連勝記録を5に伸ばそうかとしたとき、まさかの事態が発生。チェッカーフラッグを受けたファイナルラップのその瞬間、ナジーのヒュンダイが突然のように姿を消してしまう。

 インターネット接続が遮断されたナジーは敢えなく公式結果で13位まで後退し、まさかの要因でレースでの勝利と開幕からの連勝が幻に。これにより、10ラップの決勝を通じてジル・マグナス(アウディRS3 LMS/Comtoyou Racing)らとアスカリ・シケインのブレーキング競争やパラボリカでの“ラインクロス”バトルなどを演じ、最終周の大逆転オーバーテイクでポジションを上げたアズコナが、仮想シリーズ初優勝を手にしている。

「この勝利には本当に満足しているよ。でもダニエル・ナジーにとっては心底、不運と言うしかないレースだったね。彼は明らかに誰よりも速かったんだから」と、ライバルを気遣ったアズコナ。

「僕としては8番手スタートで勝利できたから本当にうれしいけど、レースは本当にハイレベルで、あらゆる追い越しと、あらゆるクラッシュが頻発する難しい内容だった」

「マグナスとのバトル中は、勢いのある彼にポジションを与えて表彰台圏内を確保する方が良いと考えていたが、ファイナルラップで彼がテディ・クレーレ(プジョー308TCR/Team Clairet Sport)と戦っているのを見て『これが最後のアタックを仕掛ける好機だ』と思って飛び込んだ。追い抜きが成功して勝利が手に入って最高だよ」

過去のシリーズ戦と同様に、レース1で独壇場の走りを披露したダニエル・ナジーだったが……
最終周の逆転劇でジル・マグナス(アウディRS3 LMS/Comtoyou Racing)を仕留めたミケル・アズコナ(セアト・クプラTCR/PCR sport)が、レース1でeシリーズ初優勝

 一方、そのアズコナに勝利を譲ったナジーは、レースを支配しながらすべてを失った落胆を隠さなかった。

「いつもどおりの展開でレース1を戦っていたが、現時点で何が起こったのかまったく分からない。スタートからフィニッシュまで全体を録画しているので、それをもう一度、見返してみるつもりだ」とナジー。

「これはeスポーツドライバーに起こり得る最悪の事態だと思う。レース全体をリードしていて、ゲームがクラッシュした。本当に悪夢だよ……」

 しかしレース2を13番グリッドから発進したナジーは、トップ10リバースグリッドの構成にも助けられ怒涛のチャージを開始すると、3周目には早くも4番手にまで進出。その後も、上位勢がバトルで脱落する状況も味方となり1周1台のペースで仕留めていき、6周目にはなんと首位浮上に成功する。

 その後も手を緩めることなく驚異的ペースを刻んだナジーは、2位テディ・クレーレに5.408秒、3位ニコラス・バート(アウディRS3 LMS/Comtoyou Racing)に9.944秒ものマージンを築きフィニッシュラインへ。ダブルウインこそ逃したものの、失意のレース1を取り戻す勝利を飾っている。

「レース2も簡単ではなかったけど、レース1の後で想像ができるように僕は本当にイライラして、フラストレーションが溜まっていた。自分自身の心を再起動してとにかく集中しようとしたんだ」と、難しい心中を振り返ったナジー。

「気をつけようとしていたけど、前のマシンをプッシングして押し出してしまう場面もあった。その意味でも怖いレースだったが、レース1を取り戻す勝利が挙げられてうれしい。ファンとサポーターのためにも、本当に注意深くてクリーンなレースをしたかったんだ」

 この結果、スタンディングでも2位ボルディズに64ポイント、3位マグナスに86ポイント差へとリードを拡大したナジー。続く『TCRヨーロッパ SIM Racing』シリーズ第6戦は、延期されていたベルギー・ゾルダーでの1戦が7月13日(月)に予定されている。

トップ10リバースグリッド採用のレース2では、トップ10圏外から失意のナジーが進撃を開始
ニコラス・バート(アウディRS3 LMS/Comtoyou Racing)らとの攻防も制したナジーが怒涛の走りで勝利を飾った

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