佐藤万璃音、FIA-F2開幕2ラウンドはトラブルに翻弄されるも、将来へ手ごたえ

 2019年、ユーロフォーミュラ・オープンで日本人として17年ぶりにチャンピオンに輝き、2020年はF1直下のFIA-F2にトライデント・レーシングから参戦している佐藤万璃音。オーストリアのレッドブルリンクで行われた開幕2ラウンドは、電気系トラブルに翻弄された週末となったが、目指すF1へ向け、まずは第一歩を記した。

 神奈川県横浜市出身の佐藤万璃音は、長年ヨーロッパでステップアップを果たしており、多くのF1を狙うライバルたちと切磋琢磨してきた。2019年、激戦のユーロフォーミュラ・オープンでチャンピオンを獲得すると、それを手土産に、いよいよ多くのF1ドライバーが通ってきたFIA-F2参戦を果たした。

 ただ、バーレーンでのテストの後、同じくバーレーンで予定されていた開幕戦は新型コロナウイルスの影響で延期。長い“オフ”を過ごした後、ようやく7月3〜4日にオーストラリアでシーズンを迎えられることになった。とはいえ、ウイルス感染防止対策がとられ、チームスタッフも最小限に限られ、公式メディア以外の立ち入りも禁止、無観客レースという状況のなか、合計4レースをレッドブルリンクで戦うハードスケジュールだ。

 7月3日の走行初日、万璃音はフリー走行からやや意気込んだか、セッション開始後の早い段階でスピンを喫してしまう。走行時間が限られているなかで、セッションごとにこなしていかなければならないテストメニューがあり、一度のミスが大きく最終結果に影響してしまう。この日の予選では、2セットめのタイヤでスピン、コースアウトし赤旗中断を招いてしまい、予選22番手で終えた。

 7月4日のレース1は、悪い流れのなかで悪夢のような結末となってしまった。グリッドに向かう段階で電気系トラブルが発生し、フォーメーションラップ開始直後に動くこともできず、出走することなくレースを終えてしまったのだ。

 ただ7月5日のレース2は、21番手からスタートを切ると、万璃音は大奮闘。3回のセーフティカーが出る荒れたレースで、自身にとって今年最初のレースを17位完走で終えることになった。

 2週連続開催ということもあり、万璃音はそのままオーストリアに留まり、独自に国内でシミュレータートレーニングができる場所を確保。寸暇を惜しんでトレーニングに励み7月10日からの第2大会に臨んだ。気持ちを切り替え臨んだ万璃音は、フリー走行から好感触を得て、その後の予選では序盤6番手につけたが、最後のアタックで小さなミスを犯し、最終的に11番手グリッドからのスタートとなった。

 7月11日のレース1では、序盤からハイペースで上位を追うものの、タイヤ交換時にタイヤが外れず大幅にタイムロス。サスペンションのトラブルも発生し、16位でレースを終える。翌日のレース2では、またもスタート直後に電気系トラブルが発生。いきなりすべての電源が落ちてしまい、戦うことなくレースを終えることになった。万璃音にとっては、不完全燃焼の開幕2ラウンドとなってしまった。

佐藤万璃音(トライデント・レーシング)
佐藤万璃音(トライデント・レーシング)

■「F1ドライバーへの切符を手にするつもり」ポジティブな要素も

「開幕戦からの4レースは、電気系トラブルに翻弄された2週間でした」と万璃音は開幕2戦を振り返った。

「自分自身、フリー走行の早い段階で無理をしてスピンしたことも、週末のリズムを作り上げることを難しくした原因です。予選でもプッシュしすぎた結果のスピン。気持ちに焦りがなかったといえば、嘘になります。決勝レース1は電気系トラブルで走れずに終わり、ライバルたちより1レース分遅れをとりましたが、レース2でのペースそのものは悪くなかったので、第3戦に向けての自信は高まりました。そして翌週の予選では、トップ8に入れるポテンシャルはあったものの、最終コーナーのミスでコンマ1秒ほどロスし、11位に終わりました。レース1は大雨から次第に乾いていく難しいコンディションでした」

「1スティント目のペースは良かったものの、タイヤ交換時にタイヤが外れず大幅にタイムロス。ピットアウトした後にはサスペンションのトラブルが発生し、フロントから激しいバイブレーションが出てしまいました。そのため2スティント目はペースもあがらず、タイヤのデグラデーションも響き、最終的に16位まで順位を落としてしまいました」

「レース2ではスタート直後にVSCとなり、再スタートしようとした矢先、電気系のトラブルですべての電源が落ちてしまい、そのままリタイアとなりました。本当に悔しい週末でした」

 とはいえ、F1という大きな夢に向けてFIA-F2の2020年シーズンは始まったばかりだ。「結果だけみれば、自分のポテンシャルをまったく発揮することなく終えた残念なオーストリアでの2連戦でした」というが、「速さという点に注目すれば、予選でのパフォーマンスの向上は、シーズンオフのテストと比較しても大幅な進歩を遂げており、チームにとってポジティブな内容だったと思います」と前向きな要素を見つけられた様子。

「FIA-F2は、F1グランプリのサポートレースということもあって、路面のラバーグリップの状態がフリー走行、予選、レース1、レース2でそれぞれ大きく異なり、セッションごとに1秒速くなることを想定して、ドライビングをアジャストしていかなければならない難しいレースです。これまで自分が戦ってきたカテゴリーのように、単に速く走るだけではダメで、いかにタイヤを温存しつつトップグループと同等のペースを維持し、最後の勝負に賭けるというタイヤマネージメントが要求される我慢の戦いでもあります」

「それがF1グランプリの世界で要求されることだというのであれば、それを経験で身につけていくしかありません。ここでチャンピオンを獲得するのに3〜5年かかるという意味は、ドライバーのレベルも揃っているし、それだけ厳しいレースだと実感しました。この中で勝ち抜いて自分はF1ドライバーへの切符を手にするつもりです」

「今年も昨年以上に精一杯頑張りますので、皆さん応援よろしくお願いします」

 万璃音が言うとおり、FIA-F2を含め、いまやヨーロッパのジュニアフォーミュラでは、すぐに優勝やチャンピオン争いをすることなど非常に難しく、何年かの計画を立てて参戦しなければならない。まだ挑戦はスタートしたばかりだ。

レッドブルリンクでの佐藤万璃音

© 株式会社三栄