コロナ禍 「もやい船」縮小も 精霊流し、自治会の対応

竹などで伝統の「もやい船」を例年通り造る西山2丁目自治会の関係者=長崎市

 15日はお盆の伝統行事、精霊流し。例年、大勢の観光客でにぎわう長崎市は新型コロナウイルス感染防止のため、人が多く集まる場所での見物の自粛や「3密」回避などを呼び掛けている。こうした中、合同で故人を送る「もやい船」について、市内の自治会の対応も割れている。

 下西山町自治会(約170世帯)は、今年は「もやい船」を出さず、各世帯の供え物などをわらで包んだ「こも」をワゴン車で流し場まで運ぶことに決めた。
 「精霊流しは故人を極楽浄土へ送る大切な行事。初盆の家からは、『船で流してほしい』との声や残念がる声もあった。心苦しいがコロナは先が読めない」。大蔵隆久会長(74)はため息をつく。
 例年、全長約40メートルの大きな「もやい船」を出している立山5カ町運営委員会(約570世帯)も今年は見送る。高齢者が多い中、「3密」を避けられず、リスクが高いと判断した。「こも」も受け付けない。「立山の船は江戸時代から脈々と続いており、誇りも思い入れもある」と立山1丁目自治会の井村啓造会長(74)は肩を落とす。地域の伝統を絶やさないよう、約60センチの小さい船を5カ町の有志で運ぶという。
 中止の自治会がある一方、「もやい船」を造る人の行動歴を把握し、人数を最小限にするなど対策を取った上で、船を出す自治会もある。
 伊良林1丁目自治会(約170世帯)は、例年の2連から1連に船を縮小。その上で、船を製作する人や船の引き手を制限する。飲み物を入れる共用のクーラーボックスを今年は使わず、各自の小さい保冷バッグを購入するなど対策を徹底。横田庄平会長(76)は「町内の人には、伝統ある船がここまで続いた自負がある」と話す。引き手は当日、フェースシールドを着用する予定だ。
 西山2丁目自治会(260世帯)は、ほぼ竹と縄でできた「もやい船」を例年と同じように造り、流す。石谷忠義会長(70)は高校3年の時に近所の友人を集めて伝統の「もやい船」造りを復活させて以来、毎年製作に携わる。だが、「もやい船」造りを知る地域住民も高齢化し、年々、減少。「若い人が造りに来ないので継承が難しく、いったんやめたら途絶えてしまうのではないか心配。次の世代に伝えていくのが私たちの仕事」。例年通りのスタイルを継続する理由をこう語る。
 精霊流しの歴史に詳しい、同市長崎学研究所元所長の土肥原弘久さん(62)は「自治会それぞれの決定は長崎の多様性の表れで、自分の町に愛情があるからこそ。形は変わっても、根底にある、み霊を送るという気持ちは変わらない」と話す。

下西山町自治会は「もやい船」を取りやめ、ワゴン車で「こも」を運ぶことにした=長崎市

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