GTワールドチャレンジ・ヨーロッパに挑んだ富田竜一郎に聞く参戦緒戦の手ごたえ

 8月8〜9日、イタリアのミサノでGTワールドチャレンジ・ヨーロッパのスプリントカップ第1ラウンドとなるミサノ戦。2020年からヨーロッパで活動を開始した富田竜一郎が乗り込んだベルジャン・アウディクラブ・チームWRTの31号車アウディR8 LMSがレース1で2位表彰台を獲得したほか、トップ争いを展開するなど印象的な活躍をみせた。そんな富田に、改めて渡欧の経緯、そして第1ラウンドを振り返ってもらった。

■「ヨーロッパへ来てよかった」

──2020年からGTワールドチャレンジ・ヨーロッパにに参戦されていますが、改めてその理由を教えてください。富田竜一郎(以下RT):以前からル・マンやニュルブルクリンク、スパ等の24時間レースへいつか出場してみたいという気持ちをもっていました。いつか海外で通用するドライバーになりたいという、レース活動を始めたころからの夢を描いてきたなかで、目標が曖昧になり、結果としてレースに対するモチベーションを大きく失っていることに気づきました。そんな思いを悩んでいるときに、ある方から「一度海外のレースに出てみたら?」というご提案を受け、スーパーGTで所属していたAudi Team Hitotsuyamaの一ツ山亮次代表に相談したところ、WRTに繋いでいただきました。

 Audi Team Hitotsuyamaには2018年から所属し、鈴鹿10時間やWTCRに参戦する機会を与えていただいたなかで、世界のドライバーとの戦いに刺激を受けたことも自分にとっては大きな転機となりました。WRTという世界に名が知られるチームで走れるチャンスは、そう巡ってくるものではありません。運命の巡り合わせだと思い、今季の挑戦を即決しました。結果的に思い切ってヨーロッパへ来てよかったと思っています。

──新型コロナウイルスの影響で外国人ドライバーが日本へ渡航するのは厳しい状態が続きます。日本からも渡航制限でヨーロッパに来ることも容易ではなかったと思いますが、どのような手続きで渡航できたのでしょうか?RT:日本からの出国に関しては特に問題はなく、『渡航先の入国および滞在制限に注意してください』とのことでした。難しかったのはイタリアへの入国と滞在で、日本と同様に14日間の隔離が義務づけられています。それを回避するために、WRTがプロフェッショナルドライバーとしてチームに招聘するため、隔離制限を免除してもらえるような書簡をチーム、主催であるSRO、そしてFIAが発行してくれて、無事に入国と滞在が可能になりました。なによりチームがさまざまな機関へ迅速に掛け合ってくれたおかげです。

──WRTというチームに加入しましたが、日本のレースと組み立て方やチームオーガニゼーション等の違いがあったかと思います。その差を教えていただけますか?RT:データというものをものすごく大事に扱って、集積している印象を受けました。常にクラウドでエンジニア同士が共有しているので、仮にチームスタッフが別の場所にいても、すぐに対応できる体制がとられており、そのあたりは日本のレースではないシステムかなと思います。ただそれ以外は日本と大きな違いはないと感じました。

──WRTはフランス語圏のベルギー人を中心に、フラマン語、英語などを使う多国籍なクルーで構成されています。チームとのコミュニケーションは英語かと思いますが、語学の習得は事前に日本でされたのですか?RT:僕はまだそこまでうまく英語を話せません。今回の渡欧にあたり、英会話教室に通ったりもしましたが、基本的には昨年までのチームメイトのリチャード・ライアンから教わった英語でなんとかコミュニケーションをとっています。細かなニュアンスを伝えるのがまだ現状だと難しく、その点は改善すべき点かと思っています。

──チームメイトのケルビン・ファン・デル・リンデの印象は?RT:ケルヴィンはものすごくフレンドリーで明るく、つきあいやすいです。そして何よりドライビングと、レースに対して非常に真摯な姿勢が印象的です。僕がヨーロッパで初めて走るレースにおいて、それなりに走れているのにはケルヴィンのサポートがかなり大きく作用していると思います。彼は僕が分からないであろうことや、困るであろうことをていねいに教えてくれますし、何よりもアウディR8 LMSというマシンについて非常に深い理解をしているところに感心しました。他にもヨーロッパのレースにおいて、何が重要かも含め、さまざまなことを教えてくれました。自分の持っているものを他人に与えるドライバーは少ないのですが、彼はその数少ないひとりだと思います。

富田竜一郎が乗り込む富田/ケルビン・ファン・デル・リンデ組WRTの31号車アウディR8 LMS
富田竜一郎が乗り込む富田/ケルビン・ファン・デル・リンデ組WRTの31号車アウディR8 LMS
GTワールドチャレンジ・ヨーロッパのスプリントカップでデビューレースながら2位表彰台を獲得した富田竜一郎とチームメイトのケルビン・ファン・デル・リンデ
富田竜一郎が乗り込む富田/ケルビン・ファン・デル・リンデ組WRTの31号車アウディR8 LMS

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