バットを避けるように曲がる横スライダー お股ニキが選ぶMLBを代表する4投手

ナショナルズのパトリック・コービン【写真:AP】

スピン量が多く横に変化するスライダーで打者を手玉にとる4投手とは

【お股ニキが選ぶ3+1・MLB編 第6回 横スライダー】

今シーズンは60試合という異例の“短期決戦”で行われているメジャーリーグ。早くもシーズンは1/3が終了し、中盤に差し掛かった。マーリンズやカージナルスで新型コロナウイルス感染者が複数確認されるなど緊張感が高まる中でも、18.44メートルの距離で繰り広げられる投手と打者の真剣勝負は変わらない。

それぞれの投手が持つ決め球の中から、特に「魔球」と呼べるハイクオリティな球に焦点を当てるのが、「お股ニキが選ぶ3+1・MLB編」シリーズだ。野球の新たな視点を提案する謎の解説者・お股ニキ氏が、魔球の使い手「トップ3」と要チェックの「プラス1」を加えた4投手を独断と偏見で選び、ご紹介する。

今回は、スライダーの中でも水平方向への変化量が多い、いわゆる「横スライダー」だ。垂直方向への変化量が多い「縦スライダー」と投げ分けたりしながら、4シームや2シームの速球と対になる変化球を操り、打者を手玉にとる投手たち。居並ぶメジャー投手たちの中でも、お股ニキ氏が注目する4投手は誰なのか。まずはお股ニキ氏の注釈からご紹介しよう。
(データソースはBaseball Savant、FanGraphs、BrooksBaseballによる。主なデータ項目の説明は最後に付記)

まず始めに、根本的に勘違いしないでいただきたいのは、私はスライダーの全てをスラット型スライダー、つまり質的に速い縦のスライダーや縦のカッターに集約すべきだとは言っていない。少しスピードを遅くしながらスピン量を多くし、大きく横に曲げたり落としたりするタイプも有効である、と言ってきたことだ。今回は、その横スライダーに焦点を当てる。

【1位】パトリック・コービン(ナショナルズ)左投
回転効率20.7% 平均球速81.26マイル(約130.8キロ) Spin Axis 2:16 2398回転
空振り率27.6% 投球割合37.1% 被打率.158 ピッチバリュー/100:1.80

昨シーズン、スライダーでメジャー最多となる161個の三振を奪ったパトリック・コービン。エースのマックス・シャーザーやスティーブン・ストラスバーグと共に投手陣を引っ張り、ナショナルズ悲願のワールドシリーズ制覇をもたらした。

今回、コービンのスライダーを横スライダーに分類したが、実際にはスピードがやや遅いスラッターのような変化量や回転軸でもあるという点に注意が必要だ。やや遅めのスピードで低めのアングルから投げる、緩やかなカットボールのようなイメージ。こうして投げるとボールは鋭く斜めに曲がり落ち、まるでランディ・ジョンソンが投げていたスライダーのようになりやすい。

こうしたボールを投げられるコービンは、投手としての総合力ではシャーザーらには及ばないものの、多くの空振りを奪えるのが強み。特にプレーオフのような短期決戦では、調子が良ければ打者の目線を変えたり、“何も起こさせない”リスクの低い投球が可能となるので、勝ち抜くために必要なピースとなる。

ツインズ・前田健太【写真:AP】

長身揃いのメジャーで光る小柄なストローマンの横スライダー

【2位】マーカス・ストローマン(メッツ)右投
回転効率49% 平均球速84.42マイル(約135.9キロ) Spin Axis 9:12 2838回転
空振り率16.5% 投球割合30.9% 被打率.169 ピッチバリュー/100:2.28

平均身長が190センチ近い長身揃いのメジャー投手の中では、173センチと小柄ながら高い身体能力と運動センス、理想的なフォームから多くの球種を操るマーカス・ストローマン。似たような握りやリリースで2シームやカットボールを投げ分けるが、大きくブーメランのように曲げる横スライダーも質が高い。ダルビッシュ有や大谷翔平、コーリー・クルーバー、アダム・オッタビーノらのフリスビースライダーと同系統の横スライダーであり、特に指標も高いため選出した。

ジョニー・クエトのように足を上げてから再び降ろして投げるなど、様々なモーションでタイミングを変えながらも高い再現性の高い投球を誇っており、メッツに移籍後は割合を増やしたカットボールとの対比も素晴らしい。

【3位】前田健太(ツインズ)右投
回転効率34.1% 平均球速82.72マイル(約133.1キロ) Spin Axis 11:10 2513回転
空振り率21.8% 投球割合31.48% 被打率.155 ピッチバリュー/100:2.5

ダルビッシュと並んでスライダーの天才の前田健太。そのスライダーは2シームのように握って人差し指で回転を与える独特なもので、リリース時の微妙な調整で縦スライダー気味にもカッター気味にも横スライダー気味にも、自在に操ることができる。「スラット理論」の完全な体現者でもある。

昨年は縦スライダー気味のものより、時速82マイル(約132キロ)程度にややスピードを落として大きく曲げるタイプのものを、シーズン途中から多く投げていた。その結果、スライダーの指標は上がり、低い被打率(.155)と高い空振り率(21.8%)を記録した一方で、他の球種はやや悪化。先発時には打順が3巡目くらいになると捕まることが増えた印象だ。その後、少しバランスを変え、若干スラット型スライダーに戻したようにも見える。

横スライダー気味であれ、スラット気味であれ、質が高いマエケンのスライダーだが、特に横スライダーはポップフライが多くなる傾向があり、カッター気味のものや縦スライダー気味のものと投げ分けることができたら効果的だ。その投げ分けやリリースの仕方はマエケンのYouTubeで公開されているので必見だ。私が主宰するオンラインサロン「NEOREBASE」でも解説している。

ヤンキース・田中将大【写真:AP】

故・野村克也氏が“一流の変化球投手”と高く評価、プラス1は田中将大

【プラス1】田中将大(ヤンキース)右投
回転効率30.6% 平均球速81.89マイル(約131.8キロ) Spin Axis 9:43 2390回転
空振り率15.1% 使用割合36.33% 被打率.192 ピッチバリュー/100:2.0

横スライダーでは、同僚アダム・オッタビーノが投げるブーメランスライダーと迷ったが、田中将大のスライダーを選出することにした。

高卒1年目から故・野村克也氏に“一流の変化球投手”と評価され、球団創設間もない楽天で2桁勝利を挙げた田中のスライダーは、元々はザック・グリンキーのような縦スライダー的な質が強かった。メジャーでもスプリットと共に効果を発揮していたが、2018年のシーズン半ばからややスピードを落として変化量を大きくし、横スライダータイプに変更したようだ。

スラーブのような要素が入った横スライダーは、空振り率は若干下がったもののピッチバリューなどは上昇しており、スライダー単体での改良という意味ではまずまずの成果を発揮している。一方で、本来の武器であるスプリットの質が悪化。元々4シームの質には課題があるタイプだけに、このスライダー頼みとなることが少なくなく、相手に癖やサインなどで球種を読まれたり、試合の中で慣れられたりすると対応されることもあった。

田中と前田はかなり似たタイプの投手だが、変化球の改良や推移まで似ている点が興味深い。先発投手としてどこまで総合力を高めるような進化を見せてくれるか、今後も注目だ。

【動画】お股ニキも絶賛する左腕コービンのスライダー! 昨季はメジャー最多の161奪三振

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(お股ニキ / Omataniki)

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