街乗りやセカンドカーに最適! コンパクトで小回りが利いて運転しやすい電気自動車「Honda e」

Honda e (ホンダ e)

リーフ1強のEV情勢に変化が起こる

これから年末に向けて、新型車が数多く登場する。コンパクトSUVのトヨタ ヤリスクロス、ワゴンのスバル レヴォーグ、軽自動車のホンダ N-ONEなど、さまざまなカテゴリーにわたる。この中で意外にマイナーなのが電気自動車(EV)だ。

2019年度(2019年4月から2020年3月)に日本国内で登録された小型/普通乗用車の内、約40%にモーターを使う駆動システムが搭載されていた。メーカーによってはモーターの搭載比率が50%に達するが、大半はエンジン駆動を併用するハイブリッドだ。

エンジンを搭載しない純粋な電気自動車は少数に限られ、大多数が日産 リーフになる。リーフは2020年に入って、コロナ禍の影響を受けながらも1ヶ月平均で約1000台を登録した。三菱 iミーブは10台以下だから、リーフが圧倒的に多い。

この状況が今後は変わりそうだ。純粋な電気自動車のHonda e(ホンダ・イー)が発売されることになった。エンジンは搭載せず、充電された電気を使ってモーターのみで走る。

デコボコを抑えて滑らかに仕上げられたコンパクトボディ

Honda eのボディは5ドアハッチバックで、サイズはコンパクトだ。日本仕様の数値は未発表だが、欧州仕様は既に公表されて全長3894mm×全幅1752mm×全高1512mm、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は2538mmとされる。

全長はホンダ フィットに比べて約100mm短いが、全幅は1700mmを超えて3ナンバー車になる。それでもドアミラーまで含めた車幅は抑えた。ドアミラーの部分にカメラを装着して、後方の様子をインパネ両端の6インチモニターに映すサイドカメラ・ミラーシステムを全車に標準装着するからだ。カメラのサイズは、鏡を使う通常のミラーに比べて小さいから、実質的な車幅も抑えられる。

電気自動車だから、開口部の大きなラジエターグリルは備わらず、ボディのデコボコを抑えて滑らかに仕上げた。ヘッドランプとリヤコンビネーションランプは丸型で、ボディ前後の表情が似ている。

外側のドアノブも、デコボコを抑えるために通常は格納され、キーを持って近付くと自動的にポップアップする。触れるとロックを解除できる仕組みだ。

ボンネットやサイドウインドウの下端は低めで、前方と側方の視界も良い。斜め後方はボディ後端のピラー(柱)が少し遮るが、サイズがコンパクトで水平基調のデザインだから、ボディの四隅は分かりやすい。

Honda e (ホンダ e)

ノーマルモードとスポーツモード2種類の走行モード

Honda eの駆動用モーターやプラットフォームは、すべて新開発されている。駆動用モーターの最高出力は113kW(154馬力)、最大トルクは320Nm(32.6kg-m)とされ、車両重量は欧州仕様の場合で1500kg少々に達するものの、動力性能には十分な余裕を持たせた。

ノーマルモードとスポーツモードの設定にも注目したい。ステアリングホイールに減速セレクターが装着され、ノーマルモードは4段階、スポーツモードは3段階に切り替えられる。アクセルペダルを戻すと、減速エネルギーを利用して駆動用モーターが発電を行い、駆動用電池に充電する仕組みだ。

この時にはブレーキペダルを踏まなくても減速が行われ、最大減速の度合いはノーマルモードが0.1G、スポーツモードは0.18Gだ。信号の手前で行う緩やかな減速が0.1G前後だから、0.18Gはアクセルペダルを戻しただけで速度を積極的に下げる。ブレーキペダルをあまり踏まず、アクセルペダルで速度調節が可能だ。

駆動用リチウムイオン電池の容量は35.5kWhで、1回の充電で走行可能な距離は、WLTCモード走行で283km、JC08モードでは308kmになる。

ちなみにリーフの場合、駆動用電池の容量が40kWhと、62kWhのグレードがある。価格の求めやすい40kWhでは、最高出力が110kW(150馬力)、最大トルクは320Nm(32.6kg-m)とされる。1回の充電で走行可能な距離は、WLTCモードで322km、JC08モードは400kmだ。

リーフの車両重量は40kWhのXが1510kgだから、Honda eと同等だ。動力性能の数値もほぼ等しく、加速力などは互角と思われる。差が生じるのは、1回の充電で走行可能な距離だ。リーフは駆動用電池の容量も大きく、WLTCモードでは、ホンダeに比べて約14%長く走れる。

優れた小回り性能に、高い走行安定性

Honda eの特徴は、駆動方式にも見られる。開発の初期段階では、リーフやフィットと同様の前輪駆動(FF)だったが、市販モデルは後輪駆動だ。駆動用電池は床下(前後輪の間)に搭載され、モーターは車両の後部に配置した。

この方式によって前輪の最大切れ角が大きくなり、最小回転半径は4.3mに収まる。軽自動車の平均が4.4~4.5mだから、Honda eの小回り性能はかなり優れている。

またホイールベースの割に全長は短く、前後のオーバーハング(ボディがホイールから前後に張り出した部分)も切り詰めた。そのために外観に塊感が伴い、カーブを曲がる時などは慣性の影響を受けにくい。

後輪駆動の採用で前後輪の重量配分は50:50とバランスが良く、駆動用電池を前後輪の中央、しかも床下の低い位置に搭載したから、走行安定性でも有利になった。重心が下がると、車線変更などの姿勢変化も穏やかになり、乗り心地にも良い効果をもたらす。

Honda e (ホンダ e) インテリアカラー:ブラック

リラックス空間の中に5枚並んだ液晶パネル

内装では、インパネに5枚並んだ液晶パネルが注目される。両端はサイドカメラ・ミラーシステムの画面で、インパネの中央と助手席の前側には、2枚の12.3インチワイドスクリーンが備わる。この両方にカーナビ情報や各種のコンテンツを表示できる。

インパネには木目調パネルが使われ、光沢を抑えてリアリティを追求した。手触りも良くリラックスできる雰囲気がある。

前席も同様で、シート生地には適度な伸縮性が伴い、乗員の体を柔軟に受け止める。フロントピラーの角度を立てたので、前席は乗降性が良い。

後席は車両の後部にモーターなどのユニットを搭載したので、取り付け位置が前寄りだ。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ1つ分に留まる。駆動用電池を床下に搭載したから、床も高めになって座面との間隔も不足した。そのために後席に座ると、膝が持ち上がって腰が落ち込み少々窮屈だ。

後部にモーターを搭載したから荷室の床も少し高く、路面からリヤゲート開口下端部までの寸法は730mmになる。一般的なハッチバックを100mmほど上まわるが、スズキ ハスラーやダイハツ タフトと同等だから、極端な高さではない。

先進的な通信機能

Honda eは各種の装備も充実している。衝突被害軽減ブレーキは、センサーにミリ波レーダー、単眼カメラ、超音波ソナーを使い、歩行者、自転車、車両を検知する。誤発進抑制機能も前後両方向に対応した。全車速追従型クルーズコントロールなどの運転支援機能も充実する。

通信機能は先進的だ。インターネットに常時接続できて、車内Wi-Fiも使える。ホンダパーソナルアシスタントも採用され「OKホンダ」と呼びかけると起動する。カーナビの検索などを頼むと、モニター画面でキャラクターのイラストが動き、クルマと話をしている感覚になる。

スマートフォンを使って、発進前に充電状態でエアコンなどを作動させることも可能だ。予め冷暖房を利かせておけば、発進後の電力消費量を抑えられる。スマートフォンをキーとして使い、走行することも可能になった。このほか大型ガラスルーフのスカイルーフも標準装着される。装備の充実度は高い。

Honda eはセカンドカーや街乗り目的に最適のキャラクター

電気自動車の場合、1回の充電で走行可能な距離が短いという指摘を受けるが、日産の販売店では「リーフは短距離を移動するセカンドカーとして使われることが多い」という。日本の場合、総世帯数の約40%が集合住宅に住み、自宅に充電設備を設置しにくい。所有できるのは必然的に一戸建てで、2台のクルマがある世帯のセカンドカー需要が増える。

ファーストカーがあるなら、電気自動車が1回の充電で長距離を移動できる必要はないだろう。駆動用電池の劣化で走れる距離が著しく短くなるのは困るが、そこを防げれば、電気自動車は小さくて小回りが利き、運転しやすい方が実際の用途に適する。走行距離を伸ばす代わりに、車両重量が増したり、ボディが大きくなったり、価格が高まるとむしろ使いにくい。Honda eはこの点に重点を置いて開発された。

[筆者:渡辺 陽一郎]

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