首位狙う楽天、好調の要因は? 元コーチが探る投打の鍵と三木監督の“非常識力”

楽天などでコーチを務めた橋上秀樹氏【画像:パ・リーグ インサイト】

則本昂、岸、松井が本調子ではなく「思ったより投手陣は良くない」

異例尽くめでスタートした2020年のプロ野球も3分の1を消化。前半戦を振り返り、侍ジャパンなど多くのプロ野球チームでコーチを努めた名コーチ・橋上秀樹さんに話を聞いた。

橋上さんは現役時代をスワローズなどで過ごし、引退後は楽天(2005~2009年、2015年)をはじめ、巨人、西武、ヤクルト、さらには日本代表でコーチを務めた。データを活用し、野村克也監督や原辰徳監督、辻発彦監督を支えた名参謀だ。そんな橋上さんが感じた、楽天が今シーズン好調の理由とはどこにあるのだろうか?(取材は8月4日)

――当初の開幕前、橋上さんは楽天をパ・リーグの優勝予想にあげていました。現在(8月4日)の状況をどう見ていますか?
「思ったより、ピッチャー陣が良くないですね。3月開幕を予定していた段階では、もっとピッチャーがしっかりしていると想定していました。則本昂、岸、松井といった投手陣の柱にならないといけない3人が機能していない。則本昂は貯金ができていないし、岸と松井に関してはローテーションとしてはまっていない。しっかり仕事をしているのが涌井と塩見、弓削くらい。僕のなかでは4番手、5番手くらいに考えていたピッチャーが頑張っていますよね。主軸ピッチャー不在のなかで1、2位をキープしているのは、チームとして力があるなと思います」

――橋上さんが楽天コーチだった2015年に、松井投手は先発からクローザーへ配置転換しました。今年から再度先発に挑戦しています。
「本人としては十分に準備をして開幕を迎えているはずですけど、オープン戦の段階から調子が上がってきていなく、調整不足と感じましたね。クローザーと先発ではまるっきり違いますから、調整がうまくいかなかったのかなと思います。だけど、先発としてやってもらわないといけない選手ですからね」

――今シーズンは森原康平投手が抑えを任せられていましたが、救援失敗もあり、現在はアラン・ブセニッツ投手がクローザーに。
「僕はブセニッツの方が後ろの適性があると思っていましたけど、首脳陣は森原に託していましたね。これは球団内で彼の適正を認められて、後ろを任された訳ですから。比較的ちゃんとやっていたと思いますけど、森原にしても後ろの経験がない。なので、1、2回つまずいた時の首脳陣の我慢というか評価というのは、長年クローザーとして実績を残した選手に比べると、早めの配置展開ということはあるでしょうね」

――優勝を目指す上で投手のキーマンは誰でしょうか?
「則本昂、岸、松井、この3人が本来のピッチングを取り戻して貯金を作っていかないといけないですね。今は4番手以降のピッチャーが頑張っていますが、1年間を通してとなると、なかなか厳しいです。今年は変則日程ということで投手陣が重要です。打線が好調なだけに、楽天が持っている本来の投手力をしっかり出せればもっと貯金ができるので、期待したいですね」

三木監督に感じた「今までの球界の常識というものを逆手に取ったような作戦」

――今シーズンから就任した三木肇監督を、どう見ていますか?
「僕は昨年、ヤクルトの2軍チーフコーチだったので、楽天の2軍監督だった三木監督のやり方は対戦時にいろいろと見させてもらいました。三木監督は今まで球界ではあまり見られなかったようなことをいろいろと取り入れているなと感じましたね。例えば、外野の前進守備のシフトにしても、どこのチームもやっていたことではあるんですけど、三木監督のそれは今までの比じゃないくらい極端なものでしたね。『こんなに前まで来るの?』ってくらい前に来るんですよ。

1軍の試合でも、7月31日のロッテ戦で初回2死一、三塁、バッター浅村の場面でダブルスチールを仕掛けました。打点のタイトルがかかっている選手の打席で、ですよ。結局ダブルスチールは失敗して点が入らなかったですけど、今までの野球界の常識で言うと4番バッターでダブルスチールというのは普通はないと思ってしまうんですよね。結果が伴わないとあれこれ言われますけど、逆に『これはないだろう』と言われるところだからこそ、三木監督にしてみればチャンスだと捉えていると思います。そういうところが2軍の試合でも随所で見られました。今までの球界の常識というものを逆手に取ったような作戦ですね」

――野手陣についてはどう見ていますか?
「攻撃に関してはある程度想定内ですね。非常に難度の高い攻撃をしています。ここまでは浅村の活躍が非常に目立ちますが、茂木やロメロなどの中心バッターが機能していることが大きいですね。1人だけではこんなに点が取れないですから。浅村の前後を打つバッターの出塁率が高く、それで浅村にチャンスで回ってくる回数も多いです。彼自身も確率よく得点圏のランナーを返している。そういうところが浅村自身の成績にも出ているし、チームの攻撃力、成績にも大きく出ていますよね」

――橋上さんは西武のコーチ時代に浅村選手の指導をされていましたが、どのような選手ですか?
「浅村は点を取るためのバッティングが頭の中に入っている選手。常にヒットを打たなければとか、強振しなければという考えではなく、例えばランナー3塁でセカンドが下がって守っていたらセカンドゴロを打って1点取るということをします。点を取るための打撃というか、状況に応じた打撃をよく分かっている。打点王のタイトルを取ったこともあるのは、そういうところだと思いますね」

――今シーズンはステフェン・ロメロ選手や鈴木大地選手などの補強も効いています。
「的確に補強しているし、獲得した選手が機能しています。特に、ロメロの活躍が大きいですね」

楽天へ抱く大きな期待「今年は優勝争いを繰り広げてくれる」

――楽天が強力打線というイメージはあまりありませんでしたが、今シーズンこれだけ楽天打線が好調な理由は?
「確かに投手のイメージの方が強かったかもしれないですね。ただ、茂木とか能力の高いバッターは多かった。けれど、ポジションとか守備面、故障とか含めて、自分の打撃能力がいまいち発揮できていなかったんですよね。それがいろいろなものがクリアになったことで、本来持っている打撃が出てきているんじゃないかなと思います」

――7年目の内田靖人選手も調子がいいですね。
「僕が思うには、遅いですね。コーチとして楽天に戻った2015年の時だって、すでにかなり期待されている選手でしたけど、なかなか他の選手の兼ね合いもあって出場機会に恵まれなかった。ずっとファームの主軸としてやらざるを得ない状態でした。去年まで2軍監督だった三木監督はファームでずっと内田を見ていたから期待して起用しているだろうし、それにしっかり応えている感じはありますよね」

――内田選手は昨オフ浅村選手に誘われて一緒に自主トレを行ったそうです。
「そうなんですね。浅村っていうと逆方向の打球のイメージが非常に強い。最近の内田の打撃内容を見ていると、逆方向の打撃が非常に多いように思いますね。この間の西武戦(7月19日)での満塁ホームランもそうでした。ボールを長く見る。ポイントをキャッチャー寄りに引き付けて逆方向に飛ばす。そういったところは浅村の打撃の影響を受けているのかなとも思いますね。僕がコーチとしていた頃は、比較的引っ張る、プルヒッターのイメージが強かったんですよ。空振りも多くて、変化球への対応力も低かったところが1軍に定着できなかった理由でした。それが、ポイントを近付けて長く見て逆方向に打つことで、コンタクトする確率は上がってきたと感じます」

――新人の小深田大翔選手も注目です。
「小深田には期待していますよ。茂木の状態がいいので思ったより起用されていないですが、使われていればそれなりの成績を残せたと思います」

――これから優勝に向けて、楽天の打者のキーマンは誰でしょうか?
「ここまでを見ていると、やはり浅村ですよね。現在は浅村、茂木、ロメロなどがかなりよくやっているので、彼らが調子を落とした時にカバーできる選手が必要。ブラッシュとかの状態がもう一つなので辰己、島内、内田らが支えられるようになると強いですね。投手陣もいいピッチャーが揃っていますし、今年の楽天は優勝争いを繰り広げてくれると期待しています」(「パ・リーグインサイト」本間奈保子)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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