不動産投資歴20年、最初の2物件で身につけた「ポートフォリオ」とは

不動産コンサルタントとして活躍し、現在は株式会社アセットビルドの代表取締役も務める猪俣淳さん。23歳で自宅マンションを購入し売却益を得ていた彼は、39歳から本格的な不動産投資を開始しました。その初期にどんな物件を買い、どんな投資術を駆使したのか。当時の話を伺います。


実績がなく、ローン審査に通らなかった投資スタート期

――前回伺った通り、39歳で不動産投資に踏み切った理由は「老後の不安」だったのですね。

そうですね。ながらく私は実需系の不動産売買仲介をしていましたが、当時としては珍しくファイナンシャルプランナー的な視点でそのご家族の人生設計を踏まえながら仕事のご依頼をいただくというスタイルで、何年にもわたりお付き合いしている方がたくさんいました。そして、その延長線上には、老後の問題はやはり避けては通れないわけで。

だいぶ昔から家を買おうと言っていたのに主人が趣味にばかり浪費するうえに全然協力してくれなくて……と突然住宅を探しに来られた上場企業部長の奥様は、半年後に迎える定年で社宅を追い出されるということで慌てて相談に来られましたが、この時点の預貯金がわずか50万円(クルマはベンツでした)。残す現金と住まいのバランスを取る必要がありますねとアドバイスしましたが、結局退職金のほぼすべてを吐き出して背伸びした物件を営業された会社から購入したと後から聞きました。

この方と同世代の別の男性、自社管理物件の入居者は「実は、体を壊してしまい、職も失い、家内も出ていってしまって、貯金も底をついたので、来月からの家賃が払えないんです」と、ある日突然アパートの鍵を返しに来社されたました。それで、明日からどうするんですか?と問いただすと、「橋の下でもどこでもねぐらを探すしかないよなぁ」と。

また一方で、「俺は若い時からコツコツと物件を買ってたから、部下にも上司にもおごってやって仕事するのもラクだったし、今もラクなんだよね」という、やはり先のお二人と同年代の方もいて。

不動産の仕事は、お客様の人生の節目に立ち会う事が多く、本当に多くのご家庭を目の当たりにします。

そういった人生の先輩方のリアルな悲喜こもごもを見る中で、遅まきながら双子の子どもを授かった自分自身の将来設計と経済的基盤の確立をいよいよ真剣に考えるべき時が来たということで、不動産投資を本格的に始めたのです。

――最初はどんな物件を買ったのですか。

まず目をつけたのが、練馬区にあった中古の4階建て物件です。RC造(鉄筋コンクリート造)で、物件価格は3億円でした。この物件は良いと思ったのですが、金融機関のローン審査が通らずあきらめました。

――実績が少ない状態でいきなり3億円の物件だと、なかなかローン審査も厳しいですかね。

その通りです(笑)。それまで実需の不動産売買の経験はあっても、投資の経験、つまり家賃などを得て収益を上げる経験はゼロですから。金融機関もOKしてくれない。ちなみに、次にいいと思った物件も、神奈川県の大船駅から徒歩5分の立地、3階建のRCで1億5,000万円でした。ただ、こちらもローンはつきません。

1軒目に選んだのは、築30年以上ながら空室率3%の「安定物件」

――それでどうしたんですか。

致し方なく、選ぶ物件の予算を下げましたよ。そうして最初に購入したのが、神奈川県横浜市金沢区にあった木造アパートです。2001年に購入しましたが、昭和45年築だったのですでに30年以上の築年数が経っていました。土地60坪ほどで物件価格は約3,200万円。ここで15年返済のローンが出たんです。

――なぜこの物件を選んだのですか。

横浜ならではの坂の上にある物件ですが、最寄駅(追浜駅)から徒歩9分の近さですし、当時の家賃も23㎡で4万3,000円と、周辺の家賃相場に比べて破格の安さでした。そのため、常時満室で稼働していた安定物件だったのです。横浜市立大学や関東学院大学も近く、ともにメインキャンパスとなっている。日産自動車を始め、大規模な工業団地もあり、居住者のニーズは問題ないと思いました。

――そういった見立てがあったのですね。

昔、このエリアの担当店舗の店長もやっていましたから、土地勘はあったんです。加えて、土地も約60坪の正方形で建て替えがしやすい。早めにローンを完済したら新築アパートに建て替えるのも良いかと考えていました。

――購入後はどうでしたか。

結果的に10年運営して空室率は3%と安定していました。年間賃料は、約413万円(戸当たり賃料4万3,000円×全8戸×12ヶ月)。物件購入価格に対する表面利回りは、約13%でした。派手な数字ではありませんが、悪くなかったと言えます。

1軒目と組み合わせてバランスを取る

――なるほど。

この1軒目で大まかな仕組みが分かったので、1軒目の購入から2年後の2003年に2軒目を買いました。80坪の敷地に30坪6世帯の木造2階建アパートが2つある「2棟一括物件」で、物件価格は5600万円です。横浜市営地下鉄の駅からほぼ平坦な道のりで、徒歩8分ほどの距離。京浜急行線の人気ターミナル駅からも徒歩圏内の好立地でした。

――投資を始めて3年で2軒のペースですね。

はい。2軒目を買った大きな目的もあります。1軒目のローンが15年返済と短かったので、もう少し長いローンの出る物件を購入して、自分の投資におけるポートフォリオを“ならす”ことでした。

――どういうことですか。

まず1軒目の物件を保有していたおかげで、2軒目のローンでは、物件価格+諸費用を含んだ5750万円のローンを同じ銀行が出してくれました。物件自体の利回りを見れば2軒目の方が1軒目より低いのですが、2軒目の物件は金利が低い上にローン期間も20年と長く取れました。その結果、ローン借入れに対する返済負担は低くなります。そして2軒合わせると、全体の利回りも高くなります。

――1軒目の成果を実績にして2軒目のローンを有利にし、さらに全体のバランスをよくしたということでしょうか。

そうですね。不動産投資は1軒1軒の成果や数字を見るだけでなく、複数の物件を合わせた全体のポートフォリオで投資分析をすることが大切だと思います。最初の2軒の投資も同様で、1軒目の物件は利回りこそ高いものの、融資期間が短くキャッシュフローが薄い一方、土地値なうえに元本返済が進む速度が速く担保枠が出やすいという側面もあって2軒目のローン審査を有利にする材料になりました。その上で2軒目を購入し、全体でのキャッシュフローを上げていったのです。

猪俣さんが考えるポートフォリオによる不動産投資については、次回さらに詳しく伺います。

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