想定外の2位表彰台。一夜にして息を吹き返したRAYBRIGの“ビッグチェンジ”《第3戦GT500決勝あと読み》

 スーパーGT第3戦鈴鹿は、予選順位からは想像もつかないような決勝レースが展開された。そのなかで、予選で8番手に沈みながらも、決勝では序盤から好走を見せ、今季初表彰台となる2位を獲得したRAYBRIG NSX-GTの躍進が目立った。

 序盤、8番手スタートの牧野任祐が魅せた。オープニングラップに1台をパス。最初のセーフティカー(SC)後にはKEIHIN NSX-GTも攻略して上位に進出。その後も前方から脱落してくるマシンをすかさずとらえ、各車のルーティンピットが始まる前には2番手に進出していた。

 牧野は前日の予選Q2でミスをしており、それを取り返したい気持ちがあったことは想像に難くない。

 だが、気持ちだけではこれほどの躍進はあり得ない。なにしろ前日の予選後は「クルマのフィーリングも正直、良くない。予選に関しては前回の富士の時の方がクルマは決まっていた」と語っていたほどだったのだ。

 じつは予選後の土曜夜、RAYBRIG陣営では長いミーティングがもたれていた。

 山本尚貴いわく「開幕2戦が終わった段階でのネガティブな部分と、同じ部分で悩んでいた」という。

「だったら、手をつけていない部分をやるしかないんじゃないか」と、これまで積み上げてきたセットアップをイチから見直す話し合いが持たれたのだ。

「ギャンブル的なと言ったらおかしいけど、いままでウチがやってないことをやったから、ちょっとドキドキだった」と伊与木仁エンジニアは決勝後に振り返る。

 セット変更の詳細は語られなかったが、伊与木エンジニアはそのヒントをこう言葉にする。

「鈴鹿で速く走るにはセクター1から2、この前半区間のバランスがタイムを決めると思っています。そこに対して、車高領域+空力の領域で、どういう風に当て込むか、という話です」

「フロントを低くしてレーキを付けたらS字で(よく)曲がってくれるかと言ったら、そういうわけではなくて、やはり下面に流れ込む空気のボリュームを保つことも重要。そのためにバンプラバーやパッカーがあるわけですけど、Class1レギュレーションになって今年からそこが規制されている。予選順位も後ろになってしまったし、それらを見直そうか……というような話です」

 果たして決勝日はウォームアップ走行からマシンの感触は良く、このセット変更が奏功して決勝でも1周目から上位に進出することができた。

 後半スティント、ピットアウトしてMOTUL AUTECH GT-R・松田次生の背後にピタリと付いた山本は「勝つことしか考えていなかった」という。

「伊与木さんとしては悩みもあっただろうし、(これまでの蓄積をリセットするという)結構つらいこともさせたかもしれないけど、だからこそ結果でちゃんと返したいという思いは強かった。それは任祐も同じだったと思う」

 だが、次生に追いついたところでまたしてもSCが導入されてしまう。「周回を重ねてクルマとタイヤに変化が起き始めてからは、ペースを上げられなくなってしまった」と山本。

 伊与木エンジニアは「SCが出てタイヤが冷えると、どうしてもドライバーはウェービングをしたい。それでラインを外すとマーブル(タイヤかす)を拾ったりするし……」と説明。どうやらピックアップが起きてしまっていたようだ。

 それでも3番手とのマージンには余裕があり、2位でフィニッシュすることができた。リカバリーを果たしたRAYBRIGは、ランキング3位に浮上。トップからは15点離れており、また後続も“ダンゴ”状態ではあるものの、充分にタイトル争いができるポジションにつけた。

 今回、セットアップに大幅変更を施した決勝では、課題点も同時に浮かび上がったという。

「ピックアップもありましたし、フロントタイヤの磨耗も厳しかった。そのあたりはしっかり考え直していけたらと思います」(牧野)

 また、山本は「今年はテストがない状態で、どれだけ良い持ち込みのセットアップを作れるか。そして持ち込みを外した場合は、レースまでに修正できるチーム力が必要。それがないと、上にはいけない」と言う。

 今回、2018年チャンピオンチームのRAYBRIGがその修正力を見せつけたわけだが、山本はこう続けた。

「その点から見ると、やっぱりトムスというチームは改めて強敵だと思います。しぶとい」

 山本が名指しするトムスの2台がランキングトップをロックアウトした状態で、シリーズはコースの性格がガラリと変わるツインリンクもてぎへと向かう。しかも、夏開催・300kmという“未知なるもてぎ”だ。再びチーム力が試される舞台で、各車はどんな戦いを見せてくれるのだろうか。

RAYBRIG NSX-GT

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