【解説】五島市長選 野口氏3選 長期課題に市民目線で

 新型コロナウイルス流行の「第2波」で、島内経済の先行きにも不透明感が増す中で行われた五島市長選。市民は30代新人が訴えた「変化」ではなく、野口市政の「継続」による安定した行財政運営を選んだ。雇用拡充やUIターン促進、観光振興などの実績や、新図書館建設の推進などの展望もおおむね評価された形だ。
 「社会増達成」「過去最多の観光客数」などの成果の裏には、国境離島新法施行や世界遺産登録といった“追い風”があった。一方3期目は新型コロナの“逆風”が吹く。経済対策は喫緊の課題だが、想定される「厳しい財政」(野口氏)の中で、過疎が進む支所地区や二次離島を含め、市民の生活を支える施策が置き去りにされてはならない。
 野口氏は、死亡数が出生を大幅に上回る「自然減」対策の必要性にも言及。独身男女の出会いや結婚、子育て支援、高齢者の健康増進など、結果がすぐには現れにくい施策も多い。今後4年間の先をも見据えた、長期的な課題にどう挑むのか、本気度が試される。
 Iターンの中西氏との一騎打ちは、若い移住者が増えている五島ならでは。出身地や年齢にかかわらず、島を愛する島民同士で意見を戦わせた意味は大きい。この選挙が、新旧の住民が島の将来について共に考えるきっかけになり得る。
 中西氏が代弁したように野口市政には「市民の声が行政に届きにくい」との批判もある。新型コロナで閉塞(へいそく)感が漂う今だからこそ、市長が自らの言葉で説明を尽くし、不満を含めて多様な声を細やかにすくい上げる市民目線の政治が求められる。

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