五島市のこれから 野口市政3期目(上) 新型コロナ禍の観光 往来と感染防止、どう両立

タブレット端末で、空白が目立つ予約表を見詰める中本さん=五島市武家屋敷1丁目、旅館中本荘

 任期満了に伴う五島市長選で現職の野口市太郎氏(64)が3選を果たした。雇用創出や移住、子育て支援などを軸とした人口減対策や医療・介護体制の整備、二次離島を含めた交通、教育サービスの維持など従来の課題に加え、新型コロナウイルス禍からの経済復活という難問にどう挑むのか。厳しい財政運営が予想される中、島の浮沈が懸かる野口市政3期目の現状と課題を考える。

 8月下旬、島の豊富な食材を生かした料理が自慢の旅館中本荘。副代表の中本智章さん(40)に、旅行会社から電話が入った。
 「キャンセルですね、分かりました」。月末に福岡から訪れる予定だった10人分の宿泊がゼロに。この数カ月でありふれた光景だ。中本さんは「経営は厳しいが、家族や従業員を感染リスクから守れて、ほっとする部分もある」と複雑な表情を浮かべた。
 3月から宿泊客が減り始め、4~5月は約40日間休業。再開後も県内のクラスター発生などが響き、書き入れ時の8月のキャンセルは100泊以上に上った。感染防止を優先して国の観光支援事業「Go To トラベル」への登録を見送り、1日1組の利用に限定。タブレット端末で管理する予約表の空白が、厳しい経営状況を物語る。
 市旅館ホテル組合長として、市内の観光や農水産、交通などの各団体と市が意見を交わす「緊急経済対策会議」にも出席。ただ会議は出席者による現状報告が主で、より具体的な対策についての議論が深まっていないと感じた。中本さんは観光業への市の支援に感謝しつつ、「組合としても、今のうちに観光分野の魅力向上に取り組みたい。コロナ前『以上』を目指し、市長にはリーダーシップを発揮してほしい」と求める。
 市観光物産課によると1~6月の市内への入り込み客は4万9820人(前年同期比57%減)。5月だけで見ると、年間客数が過去最多を記録した前年の1割にとどまる。個人客は7月ごろから増え始めたが、旅行商品の企画開発などに時間を要する団体客は「9、10月以降に戻るのでは」と同課。県内や九州など近隣からの誘客を目指すが、県内でもクラスターが発生するなど予断を許さない。
 離島医療の脆弱(ぜいじゃく)さから、島外からの来訪に不安を抱く市民は今も少なくない。野口市長は当選後の会見で「すぐそばにコロナがある前提で感染対策に気を付けつつ、人の往来を復活させる」と、市民に「ウィズコロナ」への理解を求めた。
 市は関連団体と連携し、感染対策を徹底する市内の宿泊や飲食業者に、「安全宣言ステッカー」を貼ってもらう取り組みを進める。来島者だけでなく、市民の安心感も高める狙い。市民の「安全」「安心」を図りながら、事業者の生き残りを懸けた試行錯誤が続く。

© 株式会社長崎新聞社