【MLB】世界最高級の速球を“第2の球種”に使う贅沢…ダルビッシュにみる進化とは?

カブス・ダルビッシュ有【写真:AP】

フォーシームの空振り率44.7%、先発投手に限れば1位に

カブスのダルビッシュ有投手はここまでリーグトップの7勝を挙げ、日本人初のサイ・ヤング賞獲得への期待も高まっている。その抜群の投球に、MLB公式サイトも注目。「ダルビッシュの新しいファストボールは打者にとって悪い報せだ」とのタイトルで、先発投手では1位というひとつの指標も挙げた。

記事の小見出しでは「11種類の球種を操る男はついに全滅させる剛速球を手に入れた」と掲載。ダルビッシュはすでに60マイル台(100キロ前後)から90マイル台(150キロ前後)と幅のある11種の球種を操ることに触れた上で、総額1億2600万ドル(約133億円)にふさわしい速球を手に入れたとしている。

その裏付けとしてデータを提示。今季ここまでダルビッシュのフォーシームに対し、打者は47回スイングし、うち21回が空振りだった。Whiffレート(空振り率)44.7%という数値は、フォーシームでスイングを25回以上誘った350人以上の投手の中で5位。規定に到達している先発投手に限れば1位であると言及している。

さらに細かくみると、ダルビッシュは2ストライクの状況で40回フォーシームを投げ、そのうち13回で三振を奪取。追い込んでから投じた球が三振になった率を表す「Putawayレート」でも、規定に到達している先発投手の中では1位であるとも触れている。フォーシームで結果が決まったのは24打数あり、うちヒットはシングル5本のみで被打率.208という数字も残している。

ダルビッシュは今季、キャリア最速となる速球の平均95.9マイル(153.7キロ)を計測。記事でも、以前から速球はMLB平均以上の平均球速を記録し、平均スピンレートでもMLB先発全体で最高級の数字を常に記録してきたと好要素を挙げている。ただ一方で、これまでは速球がそこまでの威力を発揮していなかったとして、MLB公式のマイク・ペトリエーヨ記者が1年前に書いた記事を引用している。

「投球全体の28%以下しか投げていないにも関わらず、31本打たれたホームランのうち39%近くはフォーシームが占めている。また(フォーシームの)被長打率.622は先発投手全体で10番目に高い数字だ」

速球進化にも関わらず以前に増して「速球投手」らしくない組み立て

さらに記事では、昨季からのダルビッシュの成長を紹介。米スポーツ専門メディア「ジ・アスレチック」のサハデブ・シャルマ記者によると、カブスのスカウティング・データベースが進化し、ダルビッシュの球種の改良に役立ったという。昨季、速球の被打率.350、被長打率.750と相性が悪かった左打者との対戦を改善する必要があったとしており、そのためにダルビッシュはゲリット・コールやジャスティン・バーランダーを研究したことを挙げている。

その研究の結果、回転効率を高める必要があるとして、握りを変えたことを指摘。時計の文字盤で1時の位置にあった人差し指と中指を12時の位置に変え、7時の位置にあった親指を6時の位置に変えたと細かくポイントを挙げている。この改良により、打者から見てより「浮き上がる」ようになったと言及している。

記事では、速球が進化したにもかかわらず、投球の組み立ては以前にも増して「速球投手」らしくない組み立てになっている点にも注目。投球割合の60%以上をカットボールとスライダーが占め、初球に速球を投げる回数は昨年のおよそ半分ぐらいになっているいう。これによって、ダルビッシュは速球を奇襲として使うことができる強みを挙げ、世界最高クラスの球速と回転をもつ速球を第2の球種として使う贅沢を有しているとまとめている。(Full-Count編集部)

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