日産の走りの魂が感じられ、実用性も兼ね備えた「ノートNISMO」【I Love コンパクトカー】

日産 ノート e-POWER NISMO S

メーカー直系のコンプリートカー「ノートNISMO」

外観がカッコ良く、運転して楽しく、しかも取りまわし性や居住性といった実用性も優れている。このようにバランスの取れたスポーティなコンパクトカーを探すユーザーにとって、注目度の高い車種がノートNISMOだ。ノートをベースにしたコンプリート(完成された)チューニングカーで、販売店から購入できて車検にも対応する。グレードの一種と考えて良いだろう。

NISMOは日産モータースポーツインターナショナルの略称で、日産のモータースポーツ活動をサポートしている。ただしノートNISMOを開発したのは、日産の特装車を手掛けるオーテックジャパンだ。NISMOは日産車をベースにしたスポーティモデルのシリーズ名になり、少々ややこしい。

ガソリンモデルだけでなく、人気のe-POWER 搭載モデルも設定

ノートNISMOの外観はカッコイイ。フロントグリルや前後のバンパーはNISMO専用にデザインされ、ボディサイドの下側にはサイドシルプロテクターも装着される。

エンジンは複数のタイプを用意した。ベースグレードも搭載する直列3気筒1.2リッタースーパーチャージャー(それでも全車に専用チューニングコンピューターが装着される)、NISMO S専用の直列4気筒1.6リッター(5速MT)、直列3気筒1.2リッターのe-POWER(ハイブリッド)、e-POWER NISMO Sが搭載するパワーアップされたハイブリッドになる。

今はノートの国内販売総数の内、70~80%をe-POWERが占める。そのためにノートNISMOの販売もe-POWERが中心だ。ベーシックなe-POWER NISMOの動力性能は、ベースグレードと同じで最高出力が109馬力、最大トルクは25.9kg-mだが、e-POWER NISMO Sでは136馬力/32.6kg-mに向上する。

e-POWER NISMO Sのチューニングは、車両重量が1700kgを超えるセレナe-POWERと同じだから、1250kgのノートe-POWER NISMO Sはかなりパワフルだ。加速力をノーマルエンジンに当てはめると、V型6気筒3リッターに匹敵する。

ガソリンモデルもe-POWERも専用チューニング

e-POWERに使われる走行モードの制御も異なる。e-POWER NISMO Sの場合、スイッチでSモードを選んでATレバーをBレンジに入れると、アクセルペダルを戻した時の減速力がDレンジよりも強まる。モーターが積極的に発電して、駆動用電池に蓄えるからだ。減速力の拡大により、アクセル操作に基づく速度の調節幅も広がった。

このようにe-POWER NISMO Sでは、モーター駆動のメリットを満喫できる。特に違いが分かるのは、時速40~80km前後で巡航中に、アクセルペダルを深く踏み増した時だ。駆動力を一気に増強させるモーターの性質を強めたから、蹴飛ばされたような加速が生じる。

一方、エコモードを選んでATレバーをDレンジに入れると、電力消費を抑え、なおかつモーター駆動らしい滑らかな運転感覚も楽しめる。走行モードとD/Bレンジの組み合わせで、道路環境や走り方に応じた制御が行われる。

NISMO S専用の1.6リッターエンジンにも楽しいチューニングを施した。最高出力は140馬力(6400回転)、最大トルクは16.6kg-m(4800回転)とされ、高回転指向に仕上げている。5速MT専用車だから、扱いやすい実用回転域の駆動力よりも、ギヤチェンジを駆使して運転する時の機敏な吹き上がりに重点を置いた。

NISMO Sのような高回転で高い性能を発揮するエンジンは、1960年代から1990年頃まで、日本のスポーティカーに多く搭載されていた。中高年齢層のドライバーにとって、エアロパーツを装着した5ナンバーサイズのハッチバックボディも含めて、懐かしく感じられるだろう。

日産 ノート e-POWER NISMO S

スポーティなハッチバックでありながら、ファミリーカーとしても使いやすい

ノートNISMOでは、すべてのタイプに専用のボディ補強を施した。1.2リッタースーパーチャージャーは前後のトンネルステー(ボディ底面中央付近の補強)、1.6リッターのNISMO Sとe-POWER NISMO、同Sには、前後のサスペンションメンバーステーなども加わり、足まわりの取り付け剛性も高めている。これに伴ってサスペンションにも専用チューニングが施され、スタビライザー(ボディの傾き方を制御する足まわりのパーツ)も強化した。

ノーマルタイプのノートe-POWERを運転すると、峠道のカーブを曲がる時に、ボディの重さを意識させる。ノーマルエンジンに比べて車両重量が約200kg上まわるからだ。乗り心地に重厚感はあるが、少しスポーティに走ると旋回軌跡を拡大させやすい。下り坂のカーブを曲がる時は、後輪の接地性が頼りなく感じる場面もある。

その点でe-POWER NISMOは、トンネルステーやサスペンションメンバーステーにより、ボディやサスペンション取り付け部分の捩れなどを抑えた。ボディがしっかりと強化されてサスペンションも正確に作動するため、ノーマルタイプのe-POWERと違ってボディの重さを意識させない。操舵に対する反応の仕方も正確になり、車両との一体感を味わえて運転する楽しさも増している。

乗り心地は低速域を中心に硬めだが、ボディ剛性が高まって足まわりも正確に動くから、大きめの段差を乗り越えた時の突き上げ感は抑えた。スポーティなだけでなく、安心感や質感も高めている。

車内には専用スエード調スポーツシートが装着され、オプションではレカロ製シートも選べる。またノートは、後席がミドルサイズセダン並みに広い。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ3つ弱に達する。スポーティなハッチバックでありながら、ファミリーカーとしても使いやすい。

日産の走りの魂が感じられ、実用性も兼ね備えたモデル

価格はe-POWER NISMOが253万4400円、動力性能を高めたe-POWER NISMO Sは272万1400円だ。e-POWER NISMO Sは18万7000円高いが、クルマ好きにとって、動力性能の違いはそれ以上の価値を発揮する。e-POWER NISMO Sを選ぶのが良いだろう。

ノーマルタイプのe-POWERメダリストは239万6900円だから、e-POWER NISMO Sは32万4500円高いが、動力性能と走行安定性が向上して運転感覚も上質になり、内外装もスポーティにアレンジされるから割安とも受け取られる。販売店に出かけて、ノーマルタイプと乗り比べた上で、e-POWER NISMO Sを検討すると良いだろう。

またマニュアル派には、1.6リッターのNISMO Sも見逃せない存在だ。価格は237万1600円だから、エンジンから足まわりまで専用にチューニングされたことを考えると、格安ともいえるだろう。ノートNISMOには、日産の走りの魂が感じられ、しかも実用性も伴って買い得だ。

[筆者:渡辺 陽一郎]

© 株式会社MOTA