アイドルドラマーの元祖 ♪ 森高千里の叩くドラムを徹底解説!

1987年 7月25日 森高千里のアルバム「NEW SEASON」がリリースされた日

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ドラムを叩くアイドルの元祖、森高千里

先日、僕は乃木坂46の齋藤飛鳥さんを検索しながらYouTubeをダラダラと閲覧していた。すると、偶然にも彼女がドラムを叩きながら歌う『真夏の全国ツアー2018 “ジコチュープロデュース”』の映像にたどり着いた。前々から噂には聞いていたけれど、実際に演奏している映像を観たのは初めてでちょっと驚いてしまった。生き生きとドラムを叩く彼女… 上手いのである。

そりゃあテクニック的な細かい部分の話はアレだけど、コンサートホールなど大勢の観客を前にして演奏するとなると、素人が学園祭で演奏するレベルとは比べものにならない度胸と実力が必要なのだ。テレビドラマ『映像研には手を出すな!』を観て「あしゅりんカワイイ!」なんて思っていたけれど、彼女が叩くドラムの実力は本物だ。

前置きが長くなってしまったが、アイドルがドラムを叩く元祖といえば、やっぱり森高千里をおいて他にいないんじゃないかなぁ… と僕は断言したい。ということで、今回のコラムは彼女のデビューからドラム演奏に至るまで、僕が感じた思いを語ってみたい。

デビューシングル「NEW SEASON」のビデオに残されたドラムプレイ

1987年に「NEW SEASON」でデビューを飾った森高千里。どことなくあどけなさが残った顔立ちと、すらりと伸びた脚線美という究極の美貌とスタイルに目がいきがちだが、彼女は学生時代から友だちとバンドを組んでドラムやベース、キーボードなどを担当してきた経験もある実力派だ。そのどちらの要素も取り入れた「NEW SEASON」のMVでは、ミニスカート姿で一生懸命に歌う姿と、透明なロートタムとシンバルのセットを叩く姿や、キーボードソロを奏でる様子が、初々しさ満点の映像として残されている。

これは想像だけど、事務所は森高千里の美貌とスタイルで推す戦略を、彼女の要望を考慮してライブハウスのイメージを取り入れたMVを作ったのではなかろうか? どちらにしても、バンドと美貌のどちらも取り入れて中途半端な売り出し方になってしまったのか「NEW SEASON」は、週間オリコンチャートで最高23位(シングル)売り上げ枚数4.4万枚(オリコン調べ)で終わってしまった。映画『あいつに恋して』のヒロインを張って主題歌も歌ったと考えれば、彼女自身も事務所にとっても厳しい結果と言えよう。森高千里が世間一般に認知されるまで、その後2年ほど待つことになる。

南沙織のカバー「17才」でブレイク、コスプレとパンチラは仮の姿?

個人の認知を上げる… 森高千里をアイドルとして確立するため、事務所は南沙織のデビュー曲「17才」をカバーさせて爆発的人気を得ることに成功した。その要因のひとつとして刺激的なコスプレ戦略もあるだろう。その一方、彼女は作詞という形で自己表現をはじめてゆく。シングル曲「ミーハー」「ザ・ストレス」、その後リリースされたアルバム『非実力派宣言』『古今東西』など、次々と発表する楽曲の個性的な作詞センスは、時同じくして世間の目を惹きつけていった。

90年代に入り「私がオバさんになっても」の大ヒットを得た森高千里は、完全にアイドルの地位を確立したことにより、ようやく自らが演奏を手掛けるアルバム制作を許される。1992年リリースのアルバム『ペパーランド』では収録曲のドラム、ギター、ベース、キーボードなどを担当し、ライブで演奏する姿を披露した。デビューからおよそ5年の歳月をかけて、彼女はアーティストとしての自分を取り戻したのである。

自ら楽器演奏を行ったシングル「渡良瀬橋」

さて、90年代に突入後、彼女は楽器演奏にウエイトを移し生音にこだわるサウンド路線の変更を少しずつ試みていた。その集大成が1993年リリースの「渡良瀬橋」だろう。

詞を思い浮かべるため、彼女は地図帳を広げ美しい響きの言葉を探していた。そんな折り、ふと目にした “渡良瀬川” という言葉に着目。自身が1989年に足利工業大学の「定例リーダー公開祭」でライブを行ったことを思い出し「もしかして…」と調べたところ、同市内に渡良瀬橋という橋が本当に在って感動したという。

地図の上に広がった点と点が繋ってゆく…渡良瀬川、八雲神社、床屋の角、公衆電話など、次々と湧きあがってくる言葉の美しい響きから物語を膨らませてゆく彼女。奇跡的ともいえるイメージの連鎖によって完成した「渡良瀬橋」は、多くの人の郷愁を誘う名曲として世に放たれたのだ。

持って生まれたセンス? 森高千里のドラムは上手いの、下手なの?

ここからは僕が気になった森高千里のドラムについて解説したい。まず「渡良瀬橋」を聴いて欲しい。ミディアムテンポのバラードだ。YouTube森高チャンネルにMVがあるので映像で観ることをお勧めする。一聴すると、何の変哲もないリズムが刻まれていると感じるだろう。フィル(小節が切り替わるときに入る装飾フレーズ)も特筆には値しない。ところがだ! これを実際同じように叩こうと思ったらそう簡単にいかないのである。秘密はビート感だ。

 渡良瀬橋で見る夕日を
 あなたはとても好きだったわ

という最初の部分、歌詞の後にくるフィルの【タンタタ】がすごい。

「なにを言っているの? この人は?」と思われるかもしれないが、このフレーズって普通こんな風に明確で歯切れよく叩けないものなのだ。ちょっと跳ねた感じに叩けるのは、彼女自身が元から持っているセンスであり、ドラムを叩いていたお父さんの影響もあるかもしれない。

次に、彼女がMVでドラムを叩いている姿を見てほしい…彼女が振り下ろすスティックの速さと引き上げる速さが全く同じなのだ。安定したビート感の秘密はここにあって、それは村上 “ポンタ” 秀一氏も絶賛したところでもある。

ポンタさんは歌伴のときシンバルの余韻が気に入らなくて、ワザと割ったシンバルを使って余韻をコントロールしたと言っていたけれど、彼女は天性の才能で遠鳴りのような余韻の短いシンバルを叩き分けている。これはハイハットにも同じことが言えて、彼女は音の微妙なニュアンスを自在にコントロールできるのだ。

あともうひとつ、2番に移った最初の部分。

 床屋の角にポツンとある
 公衆電話おぼえてますか

ここは、1番ではやらなかったちょっと引っかかるバスドラフレーズがある。基本フレーズは全体を通して8ビートの、【ドン・タンドンドン・タン・】だけれど、この8小節に限っては「床屋の角にある」のあとバスドラをひとつ抜いて「ポツンとある」にかかる小節の頭に16分音符を加えるのだ。文字で2小節分を表現すると、こうなる。

【ドン・タンドン・・タン・ドド・タンドンドン・タン・】

耳を澄ましてよく聴いてみて欲しい。同じように「公衆電話おぼえてますか」の頭でも「ドドッ」という16分バスドラフレーズを入れている。これは1番と2番の歌詞フレーズを要因としたリズムアレンジだけれど、自分の詩に対する思いがこういう細かい気遣いに現れているのだろう。

この他にも「歌詞のリズムに合わせたフィル」とか「叩いたフレーズの音の粒立ち」とか書ききれないことがいっぱいある。ぜひその他の楽曲もドラムに注目して聴いてみて欲しい。また新たな発見があるかもしれない。

誰にも真似のできない唯一無二のドラムさばき!

森高千里… いまも変わらぬ美しさと脚線美で魅了する彼女だけど、独特な詞の世界観と演奏の感性に対し、名だたるミュージシャンたちが賛辞を惜しみなく贈る存在でもある。つい美しさとキュートさに目を奪われてしまうけど、ぜひ彼女のドラム演奏にも着目して欲しい。決して派手な演奏ではないけれど、誰にも真似のできない唯一無二のドラムさばきは、聴き込むことでジワジワと感じられるはずだ。

カタリベ: ミチュルル©︎たかはしみさお