「投高打低」の中日、5試合連続完投勝利の大野雄に表れた明らかな“変化”とは?

中日・大野雄大【写真:福谷佑介】

深刻な得点力不足…試合平均得点3.31は12球団ワースト

7年連続Bクラスと辛酸を舐めてきた中日。与田剛監督2年目のシーズンを迎えた。昨季規定打席に到達した5選手を中心とした打撃陣と、被打率.238、WHIP1.25がリーグ1位という投手陣の戦力の底上げを図り、挑んだシーズン。ペナントレース前半戦の得点と失点の「移動平均」から、チームがどの時期にどのような波だったかを検証する。(数字、成績は16日現在のもの)

「移動平均」とは、大きく変動する時系列データの大まかな傾向を読み取るための統計指標。グラフでは9試合ごとの得点と失点の移動平均の推移を折れ線で示し、「得点>失点」の期間はレッドゾーン、「失点>得点」の期間はブルーゾーンで表している。

中日の得失点推移グラフ【図表:鳥越規央】

とにかく得点力不足が如実にグラフにも表れている。今季の1試合平均得点3.31は12球団ワースト。9試合の得点平均が8月中旬まで4点を上回ることがなかった。8月6日には最大借金9まで落ち込んだものの、7日から23日までは15試合で11勝3敗1分と巻き返し、借金返済まであと1まで迫った。この復調に大きく貢献したのが投手陣の健闘。その核となったのが大野雄で、7月31日のヤクルト戦から5試合連続で完投勝利の球団タイ記録を達成。球団新記録に挑んだ9月8日の巨人戦では、対戦相手の菅野に打線が沈黙したため敗戦投手になったが、この試合でも完投で2失点のハイクオリティスタート(HQS、7回以上で自責点2以下)を記録している。連続完投した6試合での大野を、それ以前の成績と比較した。

6月19日~7月24日(登板6、0勝3敗)
防御率4.04 被打率.293 WHIP1.37 奪三振率9.08 P/IP18.0

7月31日~9月1日(登板6 5勝0敗)
防御率1.17 被打率.142 WHIP0.61 奪三振率8.83 P/IP13.1

奪三振率に大きな変化はないが、被打率が半減。また1イニングあたりの投球数を示すP/IPは18球から13球へと減少。特に8月23日は112球で完投を達成するなど、早い段階でアウトに打ち取る投球で完投を重ねていたことがわかる。

守護神R・マルティネスが奮闘、9回の失点確率は12球団で最小

次に、中日の各ポジションの得点力を両リーグ平均と比較し、グラフで示した。昨年のグラフと比較して、昨季の弱点が補えたのかどうかを検証してみる。

中日のポジション別得失点(2019年)【図表:鳥越規央】

グラフでは、野手はポジションごとのwRAA、投手はRSAAを表しており、赤色なら平均より高く、青色なら平均より低いということになる。

中日のポジション別得失点(2020年)【図表:鳥越規央】

大野雄を中心とした先発投手陣は、リーグ平均に比べプラスの貢献。大野雄以外で唯一の完投経験者ある入団2年目の梅津は、先発7試合でクオリティスタート(QS、6回以上で自責点3以下)率57.1%、奪三振率8.93。同じく2年目の勝野は、9月21日現在で先発7試合中4試合でQSを達成、奪三振率6.75。またY・ロドリゲスも最速156キロのストレートを武器に奪三振率9.73、QS率60%を記録するなど、3人の23歳の若手先発投手陣が頭角を現し始めた。ただ、梅津とロドリゲスは現在、登録抹消となっている。

救援投手陣に関して特筆すべきデータも。完投試合を除いて6回までリードをすると、22勝2敗2分、勝率.917となっている。さらに、9回の失点確率9.6%は12球団で最小の数値である。クローザーR・マルティネスの安定のピッチングの賜物ということだろう。

野手でのプラス評価は一塁のビシエドのみで、他のポジションでのアドバンテージを獲得できていない。また打順別でも5番のみがプラスと、リーグ最小得点の攻撃陣を物語るグラフとなっている。

中日の打順別攻撃力【図表:鳥越規央】

そんな中、ファームでは8月28日から1分はさんで10連勝を記録。根尾、石川昂を3、4番に据えたオーダーで、将来の軸を担うプロスペクトの育成に取り組んでいる。このようなチーム状況であるからこそ、1軍での実戦経験による育成に切り替えのタイミングを見極める時期なのではないだろうか。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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