得失点差はマイナスでも貯金12の謎… データが示すロッテの強さの要因とは?

ロッテ・井口資仁監督【写真:荒川祐史】

ジャクソンの退団、荻野とレアードの離脱など厳しい状況だったロッテ

現在2位につけ、首位ソフトバンクを追いかけているロッテ。得点よりも失点が多いにもかかわらず、2桁の貯金を作っている。そんなロッテのペナントレース前半戦の得点と失点の「移動平均」から、チームがどの時期にどのような波だったかを検証してみよう。(数字、成績は9月20日現在)

「移動平均」とは、大きく変動する時系列データの大まかな傾向を読み取るための統計指標。グラフでは9試合ごとの得点と失点の移動平均の推移を折れ線で示し

「得点>失点」の期間はレッドゾーン
「失点>得点」の期間はブルーゾーン

で表している。

ロッテの得失点推移グラフ【図表:鳥越規央】

今季のパ・リーグは開幕カード以降、同一球団と6連戦が続く変則日程で始まった。ロッテは開幕カードで昨季得意としていたソフトバンクに2勝すると、同一カード6連戦が始まった2カード目のオリックス戦で6連勝と大きく勝ち越して開幕ダッシュに成功。ただ、その後の楽天→西武→日本ハム→西武→楽天と続くカードでは11勝18敗と、貯金をすべて吐き出した。

この期間、先発防御率5.34、救援防御率5.19と投手陣が不安定であるのに加え、打率.237、OPS.679、平均得点3.86と打撃陣も奮わずにいた。また、セットアッパーとして期待をかけていたジャクソンが突然の退団、昨季チーム最高のOPSを記録した荻野貴司の離脱、レアードの帰国とバッドニュースも相次いだ。

そんな状況を攻撃面で打開するキッカケとなったのは21歳のプロスペクト、安田尚憲の4番起用だ。それ以前は打率.172、OPS.539と燻っていたが、4番に入ってからの10試合で打率.351、OPS.861と「生まれながらの4番打者」だと思わせる活躍を見せる。

そして、2度目のオリックス6連戦で4勝1敗1分とまたも大きく勝ち越したことが起爆剤となったのか、8月を16勝8敗、9月も11勝7敗と貯金を作っている。勝つ時は僅差、負ける時は大敗という展開が多く、それも得失点差がマイナスであるにもかかわらず、9月20日時点で貯金12となっている要因と言えるだろう。

際立つマーティンの奮闘ぶり、安田や井上、中村奨もプラスの貢献

次に、千葉ロッテマリーンズの各ポジション各ポジションの得点力を両リーグ平均と比較し、グラフで示した。

ロッテのポジション別得失点【図表:鳥越規央】

グラフでは、野手はポジションごとのwRAA、投手はRSAA(失点ベース)を表しており、赤色なら平均より高く、青色なら平均より低いということになる。

昨季、内外野で獅子奮迅の活躍を見せた鈴木大地が抜けた穴を、FAで獲得した福田秀平が埋める算段だったのだろうが、福田はこれまで28試合の出場にとどまっている。ただ、前述のサード安田に加え、ファースト井上晴哉、セカンド中村奨吾はリーグ平均よりもプラスの貢献を見せている。そして、核となっているのがライトのマーティン。OPS.906、本塁打22本はチームトップで、特に8月の月間10本塁打はソフトバンクの柳田悠岐と並んでリーグ1位。2番打者としても大きなアドバンテージを獲得している。

ロッテの打順別攻撃力【図表:鳥越規央】

また1番打者のOPS.737はリーグ2位で、上位打線が好調であることもチームに好影響を与えているものと考えられる。印象的だったのは、8月16日にプロ入り初スタメンで1番に入った和田康士朗。この日の第1打席から第3打席までの全てでヒット→盗塁→得点を記録する。8月19日の試合では四球で出塁した後、次打者の中村奨吾のシングルヒットでホームに生還するなど快足ぶりが注目の的である。18盗塁はリーグ3位。出塁率が向上すればチームにとって大きな核弾頭となることだろう。また、和田の守備範囲の広さ、マーティンの肩は外野守備の強化にもつながっている。

投手陣に関しては、吉井理人投手コーチの運用が巧妙である。過密日程である今シーズン、どのチームも投手運用に難儀しているが、ロッテに関しては3連投した投手は1人もいない。また火曜から日曜を1つの区切りとしたとき、その区切りの中で4回以上登板した投手も0人である。

先発、救援両面で絶妙な運用を見せているロッテベンチ

また、先発投手についても絶妙な運用を見せている。8月26日に、前日先発で勝利投手となった美馬学投手の登録を抹消。9月4日のソフトバンク戦で勝利投手となった石川歩投手を翌5日に抹消すると、美馬学投手が登録されて先発し勝利投手となった。6日の同戦でも勝利投手となった二木康太投手は、9月14日のオリックス戦で完封すると、翌15日に抹消。この日再登録された石川が先発して8回途中3失点と好投した。

優勝争いのライバルとなるソフトバンク戦にローテーションの軸となる3投手をぶつけつつ、しっかりと計画的な「夏休み」を設定するという“ホワイト”な運用を行った。こうした運用の成果が、救援投手陣のプラス評価につながっていると考えられる。

特に17試合でいまだに防御率0.00の唐川侑己、被打率.198のハーマン、リーグトップの23セーブをあげる益田直也と勝ちパターンは鉄壁。そこに、巨人から澤村拓一投手が加入。移籍当日に即出場登録していきなり登板、3者連続三振という鮮烈なパ・リーグデビューを果たした。

さらに、9月21日には2011年まで中日に在籍し、その後メジャーリーグ8年間で59勝をあげたチェン・ウェイン投手が加入。井口監督は先発としての起用を明言したが、現時点でリーグ平均よりもややマイナスとなっている先発投手陣にとって効果的な補強となれば、1974年以来となるリーグ優勝も現実味を帯びてくるだろう。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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