BC栃木・西岡剛がシーズン残り1か月で契約したワケ 同僚・川崎宗則から受ける刺激

栃木ゴールデンブレーブスの西岡剛(左)と川崎宗則【写真:荒川祐史】

コロナ禍で見直したNPB復帰への道「思い切って来年に勝負をかけよう」

ルートインBCリーグ栃木に、西岡剛が帰ってきた。シーズンは6月20日に開幕したが、西岡が正式契約を交わしたのは、今季も残すところ1か月となった9月1日。なぜ、ここまで契約が遅くなったのか、なぜ、この時期になってもプレーすることにしたのか、疑問に思う人も多いだろう。

自分が納得するまで野球を続けようと考えている西岡は「野球をやる以上は、上のレベルを目指したい」とNPBへの復帰を諦めていない。独立リーグ1年目となった昨季終了後には、NPBの12球団合同トライアウトを受験。オファーは届かなかったが、今季以降の復帰を目指してオフは身体のメンテナンスと厳しいトレーニングに費やした。「3月末の開幕に合わせて身体を作っていた」というが、そこへ降りかかったのがコロナ禍だった。

「トライアウトの後、本当は開幕に合わせて身体を作っていたんですけど、新型コロナウイルスの影響もあって、まずは家族の安全を一番に考えて行動することにしました。その中でNPBの開幕が遅れ、独立リーグの開幕も遅れることになった。その瞬間に『NPBを目指すのは今年じゃない。思い切って来年に勝負をかけよう』と切り替えました。僕自身、ここまで結構怪我を積み重ねてしまっているので、こういう年になった以上、しばらくは思い切って身体のケアをすることにしたんです」

20代の頃は“スピードスター”として鳴らした西岡も、今年で36歳。最近は選手寿命が延びているとは言え、決して若いとは言えない年齢だ。コロナ禍で開幕が遅れ、行動が制限されるというマイナス要素を逆手に取り、身体を“オーバーホール”した。

その上で「今までとはトレーニング方法も思いきり変えて、来年に勝負をかけるための身体作り」に着手。社会状況と自身のトレーニング状況などを考えて、9月1日の契約に至った。もちろん、自身のわがままを許し、待ってくれた栃木には感謝の気持ちでいっぱいだ。

チームは早々にプレーオフ進出を決めたが、レギュラーシーズンは10月11日に最終戦を迎える。西岡にとっての今季は約1か月。この間、何を目標に掲げて試合に臨むのだろうか。

「僕自身のことを言えば、来年に向けての過程として、試合勘を取り戻したいというのはありました。実戦から約9か月離れると、いくら練習で140キロ、150キロの球を打っても、試合の中で立つ打席とは違うので。そして、トレーニングを変えた成果が実戦でどうに現れるか。パワーアップした実感はあったので、最初は楽しみ半分、不安半分でした。でも、9月8日からほぼ全試合出させてもらって、こうなってくれるといいなと思うプレーができているので、今は不安が少しずつ取り除かれて、楽しくなってきました」

取り巻く状況を総合的に考えれば、西岡がNPBに復帰できる可能性は低い。西岡自身「僕がNPBに戻れるパーセンテージはものすごく低いと思います」と承知の上。だが、可能性がゼロにならない限り、上を目指していく姿勢は変わらない。「実際、上を目指して野球をやるのは楽しいですよ。目指すものがあるっていうことは」と前を見続けるのは、「根本に野球が好きだという想いがあるから」だと話す。

二塁手・西岡を成長させた2人の遊撃手、川崎の存在は「昔のプレーとイメージが甦る」

そして今年はもう1つ、野球が楽しい理由が増えた。それが同じく9月1日に正式契約した川崎宗則の存在だ。3歳上の「ムネさん」とは、2006年の第1回WBCで日本代表としてともに戦い、二塁・西岡、遊撃・川崎の二遊間で世界一に輝いた。

二塁手・西岡を語る上で、欠かせない遊撃手が2人いるという。それが、ロッテの名遊撃手・小坂誠氏(現ロッテ育成コーチ兼走塁コーチ)と川崎だ。

「僕がセカンドを守っている時に楽しくプレーできたショートの方は、小坂さんと川崎さんです。プロ駆け出しの頃、小坂さんは僕のプレーに合わせ、僕自身の良さを引き出して下さいました。代表で二遊間を組んだ川崎さんは、これまで唯一、感覚だけでプレーを楽しめた方。川崎さんがいると、昔のプレーとイメージが甦ってきます」

川崎とはプライベートでも親交は深いが、日本代表を除き、同じチームでプレーしたことはなかった。「いつか一緒にやりたいね」と話していた夢が、栃木で実現。それは「野球が大好き」という2人の想いが引き寄せたものだと思っている。

「お互いに若い時に出会って、歳を重ねて、でもまだ野球を続けている。それは2人とも野球が好きだから。今まで案外、一緒にプレーできずにいて、それも仕方ないと思っていたんですよね。それがコロナの影響でマイナス要素もいろいろあった中で、2人とも野球が好きというポジティブな想いを持ち続けたからこそ、この栃木で混じり合ったんだと思います。僕にとっては奇跡的な感じなんですよ」

栃木でも元気いっぱいのプレーで野球と向き合う川崎に「僕が一番刺激をもらっていると思います」と言う。9月22日の茨城戦では二塁・西岡、遊撃・川崎の二遊間が実現。10月4日の神奈川戦でも二遊間を組むことになっている。

2人が加入したことでチームの若手選手も大いに刺激を受けているようだ。ベンチの雰囲気が一変された、早々にプレーオフを決めていたチームが一層引き締まったといった声が、西岡の耳にも届くという。

「NPBの選手でもメジャーの選手でも、元々は野球が好きで始めたはず。ただ、やっぱり仕事になると楽しむことが難しくなる。プレッシャーがかかってメンタル的にも落ちて、苦痛になってくるんですよね。楽しむべき状況と、緊張感を出すべき状況と、そのバランスや切り替えを分かっているのは、川崎さんや僕ら経験者でもある。適度な緊張感を保ちながら、練習や試合を楽しむ。そこを若い選手には感じてほしいですね」

たかが1か月。されど1か月。来季に向けた自身のステップアップ、NPBを目指す若手選手に伝えたいメッセージなど、さまざまなエッセンスが凝縮された日々を過ごしていく。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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