陰の実力者

 菅義偉首相が好む歴史上の人物は豊臣秀長という。秀長は3歳年上の兄、豊臣秀吉を見事に補佐したことから「理想のナンバー2」と評される▲秀長は人心の掌握にたけ、戦をすれば手堅く、内政にも手腕を発揮した。公正な人柄で、大名間の不平やあつれきを調整する役割を担った。自らは表に立たず、天下人の兄を補佐して生きることに徹した▲菅首相は7年8カ月にわたり官房長官を務め上げた。その間「陰の実力者」として政権を仕切り、安倍晋三前首相を支え続けた。秀長に学ぶところは多かったのでは、と想像する▲共同通信の世論調査で菅内閣は支持率66%の「好発進」となった。優先すべき課題は「新型コロナウイルス対策」と答えた人が64%で最多だ。「国難」に当たり、菅首相の危機管理能力に期待する国民の切実な思いが透けて見える▲自民党内では、高支持率に乗じた早期の衆院解散・総選挙を望む声が高まっている。だが菅首相は、まずは「仕事をしたい」と語った。その信念を貫けるのか、注目だ▲秀長は秀吉より7年早く死去し、トップの座に就くことはなかった。もし秀長が秀吉の跡を継いでいれば豊臣政権の滅亡はなかった、とみる向きは強い。表に出た「陰の実力者」に国運を託すトップの器量はあるのか。国民が目を凝らしている。(潤)

 


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