3連覇が遠のく西武はなぜ苦戦? データも示す埋められなかった“秋山翔吾の穴”

西武・辻発彦監督【写真:荒川祐史】

リーグ連覇を果たした一昨季、昨季から平均得点が1点以上減少

菊池雄星、浅村栄斗と2年連続で投打の大駒が抜けながらも、パ・リーグ連覇を達成した西武だったが、今年は5年連続で1番を務めた秋山翔吾抜きで今季のペナントレースに挑むことになった。そんな西武のペナントレース前半戦の得点と失点の「移動平均」から、チームがどの時期にどのような波だったかを検証する。(数字、成績は9月27日現在)

「移動平均」とは、大きく変動する時系列データの大まかな傾向を読み取るための統計指標。グラフでは9試合ごとの得点と失点の移動平均の推移を折れ線で示し

「得点>失点」の期間はレッドゾーン
「失点>得点」の期間はブルーゾーン

で表している。

西武の得失点推移【図表:鳥越規央】

2018年は1試合平均5.54、2019年は5.29とリーグ随一の得点力で脆弱な投手陣を補ってきた西武だったが、今季の平均得点は4.30とリーグ3位に甘んじている。平均失点は4.61とこちらは3年連続リーグワーストと改善されていないため、得失点が大きくマイナスになっており、それを色濃く反映している推移グラフと言えよう。

6、7月は得点が増えれば、それにつられるかのように失点も増加するというバイオリズムだったためか、なかなか勝ち星が稼げない状況に。ただ8月14日以降、救援陣の防御率が3.73に改善し、試合終盤での踏ん張りが効くようになり、連勝も目立つようになってきている。

ポジション別得点では山川とメヒアの一塁だけが突出

次に、西武の各ポジションの得点力を両リーグ平均と比較し、グラフで示した。

西武のポジション別得失点【図表:鳥越規央】

グラフでは、野手はポジションごとのwRAA、投手はRSAA(失点ベース)を表しており、赤色なら平均より高く、青色なら平均より低いということになる。

2019年シーズンはセカンド・浅村の抜けた穴を外崎修汰が補って余りある活躍をしたことにより大きく得点力が減少するということはなかったが、やはり秋山の抜けた穴はそう容易く埋められなかったようだ。

また多くのポジションで大きなアドバンテージを獲得していた攻撃力も、今季は山川穂高やエルネスト・メヒアが入るファーストだけが突出している。かろうじて森友哉が入るキャッチャー、栗山巧が入る指名打者でプラスの貢献が見える程度だ。

西武の打順別攻撃力【図表:鳥越規央】

また、打順別の強弱を表すグラフでは、上位打線のマイナスが目立つ。1番打者の出塁率が.269、2番打者も.312では致し方ないだろう。そのためか初回得点確率も22.6%でこれは12球団ワーストとなっている。そのため54%の試合で先制点を許してしまい、先発投手に安心感を与えられず苦戦している。

先発投手のQS率はリーグワースト、なかなか1番は定まらず

また、その先発投手もクオリティスタート(QS)率34.5%とリーグワースト。ノーヒットノーランまであと一歩の快投を披露した高橋光成や、ルーキーで先発として2連勝した浜屋将太など若手の台頭も見え始めているが、まだまだ駒不足の感は否めない。

辻監督の今季の構想としては秋山に代わる「1番・中堅」として金子侑司を起用する算段だったが、オープン戦でも打撃の調子が上がらず、開幕は1番に新助っ人のスパンジェンバーグ、9番に金子を配置した。7月5日に金子が登録抹消となると、1番には鈴木将平を起用。起用されてから6試合連続安打、14試合連続出塁と期待に応えていたが、その後ぱったりと出塁が途絶え、9月5日には足首を負傷し登録抹消となってしまった。9月に入ってからは外崎が1番に入ることが多くなったが、その外崎も9月以降の出塁率が.260と、今年の西武は1番が“鬼門”となっているようだ。

鬼門といえば、昨季攻守に大車輪の活躍を見せてMVPにも輝いた森友哉が今季は開幕から苦戦している。その要因を探ると、それまで.300を下回ることのなかったBABIP(フィールド内に飛んだ打球がヒットになる割合)が今季は.294にとどまっている。空振り率やコンタクト率に大きな変化がないことから、打球の質に大きな変化が生じたか、もしくは森に対するシフトに効果があったかなどの要因が考えられる。

川越誠司、高木渉、山野辺翔、柘植世那といった若手がそろそろレギュラークラスを脅かす存在にならなければチームの新陳代謝が進まないだろう。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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