なぜ人は高値で株を買ってしまうのか

9月も終わりになり、さすがに朝晩は寒いくらいになってきました。新型コロナウイルスの感染拡大も続いていますが、株式市場は堅調な地合いが続いています。

米国では先駆したハイテク銘柄などに調整となっているものも見られますが、世界的な金余りのなかで売り急ぐ動きも見られません。ナスダック指数も下がったとはいえ、10,000の大台はしっかりとキープしています。


株はオークション

株式市場でよく使われる日経平均やダウ平均は、一体、いくらが適性なのでしょうか?株式にかかわらず、「市場」があるものに関しては「市場」でついた値段がその時々では「適性」とされる見方があります。この論理から言えば今ついている価格が常に適性であるということなのですが、本当にそうなのでしょうか?

株式市場で、ある株式が欲しいという人がいれば、通常のオークションと同じで売りたい値段で買うか、人より高い値段で買うしかありません。毎日決まった時間に株券をオークションにかけているのが、株式市場なのです。ただ、絵画やマグロのオークションと違い、株券は同じ価値のものが多数存在し、保有者も多いので、様々な価格で売りたい人と買いたい人が交錯しています。

株価から計算されたものが株価指数で、我々が普段使っている日経平均とかTOPIX(東証株価指数)です。投資家はこの指数を見て、高いとか安いとか一喜一憂しています。

一体、いくらなら高いのか安いのかは一概に言えません。将来的に日経平均が30,000円になるという人にとっては、23,500円という今の水準は「安い」のかもしれません。一方、明日は23,000円になってしまうだろうと考える人にとっては、23,500円は高いということなのでしょう。

なぜ高値でつかんでしまうのか

人によって高いとか安いという見方が違うからこそ、売り手がいて、買い手がいます。毎日株価を見て一喜一憂していると、上がれば下がるということをつい忘れてしまいます。そして、高いモノを高いと思わず買ってしまったり、安いものを安いと思わず、売ってしまったりということがあるのです。

もちろん、どうしてもお金が必要だとか、今日中に株券が必要だというように、やむにやまれぬ売り買いもあるでしょう。しかし、通常は高くなると思うから買う、安くなると思うから売る。そうは言っても、思った方向にいかずに、高いところで買って安いところで売り、損をしてしまうことがあります。

株式投資で失敗する、うまくいかないという場合は、高いところで買ってしまったということです。では、なぜ高いところで買ってしまうのでしょうか?

「押し目」なのか「下落の始まり」なのか

一番多いケースは、上昇が続いている株を見つけ、「今日まで上がっているのだから、まだ明日も明後日も上がる」と考え、十分に上昇した後に買ってしまうケースです。そして同じように多いのは、十分に上昇した株が少し下落すると「安い」と感じてしまい、慌てて買ってしまうケースです。

例えば、5,000円から10,000円まで上昇した株があるとします。元々5,000円だったものが2倍になったのだから、十分に上昇したということです。もちろん、何か業績の変化などで買われる理由があったのでしょうが、それにしても比較的短期間に上昇したとすれば、ずいぶんと買われたことになります。

この株が10,000円から9,000円まで下落したとすれば、どうでしょう。本来は10,000円という水準が高い水準なのですが、それに比べると1割安くなったということで慌てて買うという人も多いのです。つまり、8,000、7,000円まで下がると思う人が少ないのです。

高値覚えと安値覚え

9,000円で買ったはいいが、値が上がらないということになり、さらに5,000円や6,000円で買った人は今なら9,000円で売れる、8,000円で売れるということで売る人が多くなり、株価がさらに下がります。

逆に、8,000円まで急落したとすれば、元の木阿弥とはいかないものの5,000円まで下がってしまうと思う人が増え、一気に下がった分下げ止まるというケースも多くなります。

このように、高くなってから注目した株であれば「高いのが当たり前」と思ってしまって、下落の始まりが「ちょっと下がっただけ」と勘違いしてしまいます。これを「高値覚え」といいます。

逆に、元々安い株が少し高くなると「高い」と思って買えなくなることもあります。「安いのが当たり前」と思っているので、上がり始めた株に投資ができなくなってしまうのです。これを「安値覚え」といいます。

ワークマン株で大失敗

筆者もワークマン(7564)の株で失敗をしたことがあります。2017年に分割を考慮し、今の株価に調整すると1600~1800円くらいでした。

それが、「雨に強い靴」などが売れているということで、一気に4,000円くらいまで上昇しました。すでに「売れている」ということも知っていたので、さすがに2倍になるのは高いなと思っていたら、その1年後にはなんと株価は10,000円台まで上昇しました。

これは、「安値覚え」の典型的な例となりました。儲け損なったということで以前述べた「笑って済ませる失敗」ではあったのですが、何とも悔しい思いをしました。

株価の価値判断は非常に難しいですが、思い込みをなくし、しっかりと業績などを調べ、割高なのか、割安なのかを判断することも大切なのです。

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