トラブルを抱えながら驚愕の上位進出。ヘビー級GRスープラ2台の悔しさと、ぶつかり合う“自信”/第5戦GT500決勝分析

 12番グリッドから2位表彰台に上り詰めたWAKO’S 4CR GR Supra。11番グリッドから4位に入ったKeePer TOM’S GR Supra。波乱の第5戦富士決戦を終えると、この2台がわずか1ポイント差でGT500のランキングトップ2を形成することとなった。

「じつは予選のときからエンジンがずっと不調で、決勝前のウォームアップでも『これはダメかも』という話になっていたんです」

 そう打ち明けるのは、キーパーの平川亮だ。

 搭載ウエイトハンデ42kgに燃料リストリクター2ランクダウンで挑んだ今季3度目の富士だったが、その状況での好走ぶりからは想像もつかない問題を抱えていたのだという。

 スタートを担当したニック・キャシディがオープニングラップで4つポジションを上げ、その後も1コーナーでの3ワイドを制すなど、ピットインまでに5番手に浮上していたキーパー。さらにピットを終えて平川がコースに出ると、2番手にまで順位を上げていた。驚異の挽回である。

 トップのDENSO KOBELCO SARD GR Supraとの差もじりじりと詰めていくが、ほどなくしてパワーを絞ってエンジンを守るマップに切り替えなくてはいけなくなったという。

「その瞬間に、ごぼう抜きされたような感じです」と平川。

「でもそのあと『このままじゃダメだ!』と訴えて、無理くり(エンジンマップを)変えさせてもらってパワーの出るモードに戻したんです。それで100号車(RAYBRIG NSX-GT)を抜き返すことができました」

 バトルのなかで最高速は伸びているようにも見えたが、「あれはスリップとか、ダウンフォース量とかですよ。トップスピードではエンジンの判断はできないです。スリップを使えば、簡単に10km/h近く上がるんで」と平川は説明する。

2020年スーパーGT第5戦富士 KeePer TOM’S GR Supra(平川亮/ニック・キャシディ)

 なお、年間2基の使用が許されるエンジンは、このラウンドまで1基目。“寿命”ギリギリのところで戦い、なんとか4位に滑り込んだ形だ。「走り切れたこと自体がラッキーだったと思います。なんとか最後までエンジンをもたしてくれたTRDがすごいです」。

 安堵の反面、平川はエンジン不調さえなければ「勝てていたか、最悪でも2位だったと思う。タラレバを言っちゃだめですが、そしたらどれだけ楽になっていたことか……」と悔しがる。

 それほどまでに、エンジン以外のクルマの状態は「今季一番よかった」(平川)のだ。僚友au TOM’S GR Supraがノーポイントに終わり、関口雄飛が「セットアップを攻めすぎていたのもあったのですが、まだタイヤの内圧が上がっていない状態でブレーキがロックし、フラットスポットができてしまった」とリリースでコメントを残したのとは対照的である。

 マシンに手応えを感じる平川の口調には、3年ぶりのタイトル奪還に向けた自信も漂う。

「次の鈴鹿は(ウエイトハンデ的に)まぁ無理ですね。でもそのあとのもてぎ、富士は連勝するくらいのつもりです。そうじゃないと、今年のこの僅差な状況ではダメですから」

「でも(連勝は)全然いけると思いますよ、GRスープラなら」

■決勝ペースは「トムスより自信がある」とワコーズ坪井翔

 一方、搭載ウエイト47kgに燃料リストリクター1ランクダウンで富士に挑んだワコーズは、その状態ながら公式練習で3番手と、順調なスタートを切ったように見えた。

 だが、その3番手タイムをたたき出した坪井翔は「正直、直したいところがたくさんある状況でのタイムだったので、まさか3番手になるとは思っていませんでした」と驚いたという。

 公式練習から予選に向けては、セット変更を散々悩んだというか、「変えてしまうとネガも出そうだった。タイヤ(のスペック)は変わるので、結局クルマは変えずに行ったのですが、うまくハマらなかったですね」と坪井。

 大嶋和也が担当したQ1は、突破できなかった。だが「本当に苦しく、決勝ペースもよくなかった」(坪井)前戦もてぎでの乗りづらさはなくなっていたことで、予選結果をそれほど不安視はしていなかったという。決勝のペースには、ある程度自信を持っていたからだ。

 決勝では、大嶋がスタートを担当して8番手まで順位を上げ、ピットへ。ここでの素早い作業と「タイヤのウォームアップも良かった」(坪井)ことで、5番手に浮上する。狙いどおりの展開だ。

2020年スーパーGT第5戦富士 WAKO’S 4CR GR Supra(大嶋和也/坪井翔)

 レイブリックをパスした坪井の前には、平川を追いかけるARTA NSX-GTの野尻智紀がいた。

「8号車(ARTA)とは同じくらいのペースでした。GT300がうまく絡んだところで2台に追いついたんです」という坪井は、52周目のダンロップコーナーで野尻を、そして最終パナソニックコーナー立ち上がりからホームストレート前半で平川を続けざまにパス。2位にまでポジションを上げてレースを終えた。

「まさか12番手スタートで2位になれるとは思ってなかったです。僕らの武器は決勝レースでの強さ。そこは思う存分発揮できたと思う。課題は予選の一発ですね。今回も予選順位がもっと前なら優勝のチャンスもあったので、そういう意味では悔しさも残るレースだった」と坪井はレースを総括する。

 これでランキングトップに立ったワコーズ。次戦の額面ウエイトは94kg、燃料リストリクターは3ランクダウンの領域に達する。

「僕、そもそも燃リス状態でレースするのって、今回が初めてなんです。だから3リスダウンって言われても、よく分からないんですよね(笑)」と自身2年目のGT500を戦う坪井は言う。

「当然鈴鹿の予選はかなり厳しくなると思いますけど、前回(第3戦)も予選はよかったので自信を持っていける部分はあります。ポイントも僅差なので同じようなハンデのマシンはまわりにたくさんいる。そのなかでひとつでも前(のグリッド)にいき、僕らの強みである決勝の良さをうまく発揮できれば、チャンピオンシップも近づいてくると思います」

 ワコーズ陣営の武器として度々「レースでの強さ」を強調する坪井に、「トムスの2台より決勝で強い自信はあるか?」と聞くと、間髪を入れずにきっぱりと「はい」と言い切った。

「当然トムスの2台もすごく速いですが、今回の富士に関しては結果的にトムス2台より決勝も良かったですし、着実にその強みを伸ばしていけば、充分勝てると思います」

 今季一番の仕上がりに手応えを持つキーパーと、決勝ペースに自信を見せるワコーズ。シーズン最重量ラウンドとなる第6戦鈴鹿、ランキング上位陣が見せる“ヘビー級の頂上決戦”は激しさを増しそうだ。

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