妊産婦の民間支援に壁 長崎県内、助成も認知度不足 コロナ禍の家事・育児

母親の仮眠中に赤ちゃんの沐浴を行う家事サポーター=佐世保市内

 里帰り出産を控えたり、遠方の家族の手助けを得られなかったり。新型コロナの感染拡大が女性のお産にも影響を及ぼす中、民間などが提供する「家事・育児支援サービス」が注目されている。長崎県内では利用料金の助成を始めた自治体もあるが、認知度不足や、家事や育児を他人に任せることへの抵抗感が普及の壁になっている。

 佐世保市内の住宅。同市のNPO法人「ちいきのなかま」の家事サポーター、向坂望さん(40)が、6月末に生まれた史伊萱(しいかや)ちゃんをベビーバスに寝かせた。母親の胡さん(33)は別室で仮眠中。優しく湯を掛けられると伊萱ちゃんは大きなあくびをした。
 胡さんは中国出身。夫が仕事で中国に滞在している間に新型コロナの感染が拡大。帰国できなくなり、1人で初めての出産に臨むことになった。「産後に精神的に不安定にならないか」「コロナ禍で買い物に出掛けて感染しないか」…。家族の助けも得られず、不安だった時、かかりつけの産婦人科で同法人の家事サポートを紹介された。
 同法人は昨年、産前産後の女性の希望に応じて料理や掃除、赤ちゃんの沐浴などを代行する事業を本格的に開始。国内でも感染が拡大した3月以降、想定していた家族の支援が得られなくなった人の相談が増加。現在、今月出産を控え、地元への帰省を取りやめた妊婦など数件の依頼が入っている。
 約1カ月利用した胡さんは「相談もできてとても励まされた」と笑顔。同法人の山崎翠理事はコロナ禍での家事、育児支援の役割について「産後は孤立感を抱きやすいのに人と接することを控えなければならない。精神的に落ち着くためには体の休息、回復は欠かせない」と強調する。
 県内ではNPO法人や家事代行業者、シルバー人材センターなどが「家事・育児支援サービス」を展開。コロナ禍で里帰り出産ができない妊産婦を対象に長崎市が8月、佐世保市は9月に同サービスの利用助成を始めたが、申請は長崎市がゼロ、佐世保市も数件にとどまる=いずれも9月29日時点=。利用が低調な要因について長崎市の担当者は、サービス自体があまり知られていない上、「お金を払い家事や育児を手伝ってもらうことになじみが薄い」とみる。
 妊産婦側にも心理的抵抗がある。「ちいきのなかま」の支援を受け、5月に第2子を出産した佐世保市の30代女性は「家のことをお願いするのはハードルが高い」と明かす。それでも利用したのは第1子の産後の苦い経験があったからだ。女性は「夫婦で何とかなると思っていたが体も動かずいっぱいいっぱいだった。初産の人が産後の大変さをもっと理解する必要がある」と話す。
 東京で産前産後ケア事業などに取り組む会社を運営する助産師の浜脇文子さん(同市出身)は、妊産婦のさまざまな困り事を解消できる情報提供の場づくりを官民で進める必要があると指摘。「(家事・育児支援の)利用がないから『ニーズがない』ではない。本当に困っている人に必要な情報を届ける方法を考えるべきだ」と述べた。

© 株式会社長崎新聞社