外貨建て年金保険に加入を検討する41歳独身女性。メリットデメリットは?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、41歳、公務員の女性。外貨建て年金保険に加入を検討していますが、ベストな選択か迷いがあるそうです。改善点はあるのでしょうか? FPの鈴木さや子氏がお答えします。

外貨建て保険で70歳から年2万ドルもらえるように計画しています。しかし、年金の免除申請期間が長かったことや、奨学金返済800万(育英会の借金は優良な投資だと思っています)に加えて、突発的な浪費癖もあり、今のプランが正解なのか不安があります。ガン家系ということもあり、健康保険も入るべきとは思いつつ、決めきれずにずるずると40 歳を超えてしまいました。ベストな選択が出来ているかどうか、改善点はどこか、プロの見立てを教えていただけたらと思います。よろしくお願いいたします。

【相談者プロフィール】

女性、41、準公務員、未婚

子どもの人数:なし

同居家族について:なし

住居の形態:賃貸

毎月の世帯の手取り金額:32万円

年間の世帯の手取りボーナス額:140万円

毎月の世帯の支出の目安:22

【毎月の支出の内訳】

住居費:5万5,000円

食費:2万5,000円

水道光熱費:2万5,000円

教育費:1万5,000円

保険料:11万5,000円

通信費:7,000円

車両費:1万4,000円

お小遣い:3万円

その他 :2万円

【資産状況】

毎月の貯蓄額:2万円

ボーナスからの年間貯蓄額:100万円

現在の貯蓄総額:280万円

現在の投資総額:440万円

現在の負債総額:300万円


鈴木:老後の生活に備えて、外貨建て年金保険を検討されているのですね。浪費癖もあると書かれていますが、貯蓄も投資もされていますし、きちんと資産形成を意識されているようです。とはいえご不安な思いも多い様子。一旦現状を整理して、今後どう備えればよいか考えていきましょう。

バランスシートで現状を把握

老後への備えも大切ですが、備えにお金を回す前に今の資産状況が健康である必要があります。お金の健康状態をチェックするツールが「家計のバランスシート」です。ご相談者のバランスシートを見てみましょう。

バランスシートでは、資産と負債の差が本当の意味での「純資産」で表されます。ご相談者の場合は、資産合計720万円から負債合計300万円を差し引いた420万円が「純資産」です。

資産に入れる数値はあくまで現在価値となるため、運用資産であれば現在の評価額、貯蓄性保険であれば現在の解約返戻金額がバランスシートに入ることに注意が必要です。

もし720万円の内訳に、貯蓄性保険などで将来もらえる予定の金額を入れた金額が入っている場合、解約返戻金はそれより少ないと思われますので、資産合計金額はもっと少ないでしょう。純資産も下がります。また、検討されている外貨建て年金にもし加入されたとしても、しばらくは解約返戻金が払込保険料よりも低いため、資産は減ってしまいます。

この結果から見えることは、少々負債の割合が高いということ。保険加入の前にすべきことがありそうです。

まずは奨学金の返還を

負債の割合を減らすために、まずは奨学金について少しでも繰上返還をし、早めに負債をゼロにすることを目指しましょう。

現預金の280万円から、万が一のための生活予備資金(生活費10カ月分)を残したお金を返還にあてると良いですが、もし投資されている資産のうち売却できるものがあれば、一部返還にまわせますね。

たとえば、預貯金から80万円、投資の一部を売却して120万円分返還すると、残りは100万円。これから月2万5,000円を奨学金返還のために積立貯金すると、年30万円を返還でき、およそ3年超で全額返還が可能です。

外貨建て年金保険のデメリットもきちんと理解しよう

年金の免除期間が長かったことが不安とありますが、年金額が減ることを危惧されていると推測します。まずは「ねんきんネット」を使って、実際にどのくらいの年金がもらえるか試算してください。そして65歳時点でいくらのお金があれば安心なのか考えましょう。その安心に思える金額を、いくつかの手段に分けて備えることをおススメします。

将来に備える手段の一つが、外貨建て年金保険です。年2万ドル受け取るプランを検討されているとのことで、老後資金の不足分すべてを、この保険で賄おうとされているのではないでしょうか。

外貨建て年金保険のメリットとして、円よりも予定利率が高いこと、老後に受取る金額が確定されていることがあげられます。しかし一方で、保険料を払い込んでいる間はしばらく元本割れしていることや、確定している金額は「ドル」など外貨なので、年金受取時に円高になると、予定よりも受け取る円は少なくなってしまう、といったデメリットもあります。その他、払込保険料も為替の影響を受け、増減をするため、家計管理がしづらいという点もデメリットです。

老後に向けた資産形成はいくつかの手段に分けて

これらのデメリットを十分に理解しており、メリットに魅力を感じるのであれば、老後資金を作る手段の一つとして、一部取り入れるのは良いですが、すべてを外貨建て年金保険で準備するのは得策ではありません。

前述したように、保険に加入すると、しばらくの間元本割れするため、バランスシート上の「資産」は減ってしまいます。そこで保険以外の手段として、iDeCoやつみたてNISA、預貯金を組み合わせることをおすすめします。特に、掛金を払っている期間中、個人年金保険料控除よりも税金が多く戻るiDeCoはぜひ活用を。もし毎月1万2,000円掛金を払った場合、年間2万8,800円(※所得税率10%の場合)節税できます。19年間では54万7,200円にもなるため、できるだけ早く始めるのが良いですね。

資産形成プランの一例を提案

老後に備える資産形成プラン例をお伝えします。

・iDeCo:月1万2,000円
・預貯金(自動積立定期など):月2万円
・つみたてNISA:月3万3,000円
・その他保険などの手段:月2万円

合計 8万5,000円

これらを19年間積立て続けると、元本だけで1,938万円となります。iDeCoやつみたてNISAで購入した投資信託の運用実績によってはもう少し高い金額にもなるかも知れません。

外貨建て年金保険の保険料が11万円とした場合、上記との差額は25,000円となります。前述した奨学金返済に充てる分の貯金として普通預金に貯めておくと良いですね。そして完済後もそのまま貯金を続け、資産を増やしましょう。

病気への不安に備えるには預貯金と保険を活用

病気になった場合にかかる医療費は預貯金を使いますが、貯蓄額が心もとないと、治療の選択が狭まる可能性があり不安ですね。まずはしっかり貯め、不足しそうな分を民間の医療保険を活用して備えましょう。

医療費の目安として「高額療養費制度」を使った場合の自己負担額があげられます。この制度を使うと、どんなに医療費がかかっても一定額以上のお金が戻ります。たとえばひと月に窓口で20万円支払ったとしても実質負担額は最大でも月8万円台(※標準報酬月額28万円~50万円の場合)。さらにお勤め先に「付加給付」があれば、さらに還付を受けられますので調べてみましょう。

しかし高額療養費制度は、健康保険の対象となる治療にかかったお金が対象なので、保険がきかない治療や差額ベッド代、入院時の食事代、交通費といった自己負担は生じます。こうした自己負担に備えるために、ガン家系とのことで、ガンだけを保障するガン保険への加入を検討しても良いでしょう。

ガンと診断されたら一時金を受け取ることができるタイプが、色々かかる自己負担分にお金を使えるのでおすすめ。保険料は会社によって異なりますが、終身保障で毎月2,000円~3,500円くらい、10年の保険期間であれば1,000円台で入れるところもありますよ。

老後に向けて、色々な手段を組み合わせて、コツコツ貯蓄、そして投資を続けていきましょう。そしてなにより健康で働き続けられる自分でいることが、一番の老後対策なので、たまの浪費で心もスッキリして幸せになれるのであれば、私は良いと思います。お金を使うことに罪悪感は持たずに、なによりご自身を大切にして、楽しく資産形成をしていって下さいね。

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