トランプ大統領の新型コロナ感染で日経平均は下落。今後の為替市場の見通しは

結果論として、マスクを拒否し、マスクをつけないことを推奨し続け、マスク無しでの遊説を各地で続けていたトランプ米大統領が新型コロナウイルスに感染することは必然であったのかもしれません。

トランプ大統領の感染は、市場にどんな影響を与えるのでしょうか。

<写真:アフロ>


史上最悪のテレビ討論会

史上最悪とも言われる9月29日(火)の第1回米大統領候補テレビ討論会後、市場関係者の評価は、「双方のけなし合い討論会に勝者無し」との見方が強まりました。とはいえ、市場関係者には米共和党支持者が多いので、その分は割り引いて評価しなければいけないかもしれません。

第1回討論会を迎える前の懸念として、バイデン元副大統領の年齢が挙げられていました。トランプ大統領の間髪入れずの恫喝トークに、バイデン候補は沈黙が続いてしまうとの予想もあったぐらいです。

しかし、トランプ氏のヤジ・恫喝に臆することなく応対していたことで、年齢の懸念を払しょくできたのではないかと筆者は考えています。この懸念を払しょくできたことで、どちらに投票するか決めかねていた米国民には、バイデン候補が優勢だったかのように見えたかもしれません。

どちらが優勢か判断できない、TV討論会後の煮え切らない状況の中、日本時間10月2日(金)13時54分、にトランプ大統領が「自身とメラニア夫人の新型コロナウイルス陽性」をツイッターで公表しました。既にトランプ大統領は、側近中の側近であるホープ・ヒックス大統領顧問の感染を受けて、自主隔離を発表していました。本人の陽性発表の衝撃は大きく、日経平均は一時1%を超える下落となりました。

米9月雇用統計、回復ペースは鈍化

この日の午前中まで、市場の注目が米9月雇用統計一点に集中していたと筆者は感じていましたが、トランプ大統領感染報道で、誰も米雇用統計の話をしなくなってしまった。

8月に比べ、米サンベルト地域での新型コロナの第2波懸念がやや小さくなってきていた9月の米雇用統計が発表されました。事業所調査ベースの非農業部門雇用者数増減は、市場予想の85万9000人増人に対して、かなり弱い66万1000人増にとどまりました。ただ、8、7月分の上方修正が合計で14万5000人増だったので、ヘッドラインほどは弱くなかったと市場は後で気付いたかもしれません。

筆者は、米雇用統計調査週(12日を含む週)の8月と9月の米失業保険継続受給者数の増減から、170万人程度の増加を見込んでいましたが、大きくはずれる結果となってしまいました。

雇用回復はワクチン次第か

雇用者数増減の内訳を見てみると、政府関連雇用者数が減少しています。国勢調査に向けた臨時雇用の減少や、大半の学校がオンライン授業に移行する中、州・地方の教育関連雇用者数が減少している影響のようです。新型コロナウイルス警戒で、引き続き、出歩く人が少ないのか、サービス業雇用者数の回復ペースも鈍化しています。

冬到来を前に、例年のインフルエンザ感染拡大懸念に加えて、今年は新型コロナウイルス感染拡大懸念もあり、加えて、米企業からは連日のようにレイオフ発表もあり、米雇用回復ペースの鈍化は必至かもしれません。米雇用回復はワクチン開発の進捗にゆだねられていると言っても過言是は無いでしょう。

また、現在、米共和党と米民主党の間で議論されている米追加経済対策の行方にも注目が集まっているでしょう。議論の長期化や対策の遅れは、さらなる雇用者数減少につながる可能性が高いと思われます。

いつもの相場だと、米非農業部門雇用者数が予想よりも悪いと、為替相場はドル売り反応、米金利相場は米国債利回り低下となるのですが、今回は一方的な方向に動くことはありませんでした。

米非農業部門雇用者数が予想よりも悪かった一方で、家計調査に基づく米9月失業率は、市場予想の8.2%に対して7.9%と大幅改善となりました。9月の記事でも述べましたが、この失業率については、新型コロナウイルス感染拡大状況において、「雇用されているが休職中」との分類が、データのゆがみにつながっているようです。ゆがみを除くと約8.2%くらいでしょう。

一瞬米ドル売り、すかさず米ドル買い

為替市場はまちまちな反応で、予想より悪い米雇用者数増加なのか予想より強い失業率なのか、選ぶことはできなかったように思われます。米雇用統計のどの項目に反応するかは趣味の問題でしょうが、これまで筆者が見てきた限りでは、最初は雇用者数増減に反応し、次に失業率に反応する場合が多いように思われます。

ニュースソースのヘッドラインの出てくる順番がそうだからかもしれません。したがって、狭い範囲で売ったり買ったりを繰り返しているAIやジョバー(ジョビング・プレーヤー)がドル売り反応したと思ったらすぐにドルを買い戻しておしまい、といった動きでした。

既に、東京タイムでのトランプ大統領感染報道で、ドルも株式先物も散々売られ、米金利先物は散々買われたので、週末に向けての調整という理由で、一方的に動かなかったのかもしれません。

10月に入り、やっと市場は米大統領選に注目

これまで何度も触れた通り、筆者は2018年11月の米中間選挙以降、米国の州ごとの世論調査を分析し、「民主党の候補はバイデン氏」、「トランプ大統領は2020年大統領選で敗北」と予想してきています。

10月5日時点でもそう思っています。おそらく極めて少数派であったと思われますが、第1回米大統領候補TV討論会を受けて、そして、トランプ大統領の新型コロナウイルス感染を受けて、「トランプ氏絶対再選」との予想の一部に、日和見スタンスが見られてきている気がしています。つまり、やっと11月3日(火)米大統領選への関心度が高まってきたということです。今後も、さまざまな憶測やフェイク・ニュースが飛び交い、相場が乱高下する可能性が高いでしょう。

私から、読者の皆さんにお伝えしておきたいことは一つだけです。「米国時間11月3日(日本時間11月4日)に米大統領選の結果は判明しないことはほぼ確実であろう」、ということです。

激戦州であるスイング・ステートのミシガン州やペンシルベニア州、ウィスコンシン州では郵便投票〆切を11月3日必着としていましたが、裁判所の判決で「11月3日投函分まで有効とすべき」になっています。つまり、3日に開票作業を終えることはできないということです。従って、本来、米大統領選が終わるべき3日以降も市場混乱が継続することは必至と思われます。

もう今から、「11月3日に決着がつかない可能性」ではなく。「11月3日に決着はつかない」と見ているべきではないかと筆者は考えています。

<文:チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄>

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