辞意表明で”支持率爆上げ”、次期政権で株価は”大幅プラス”になるのか

安倍首相の電撃辞意表明により、内閣支持率が異例の急上昇を示しています。

最新のJNNにおける世論調査によれば、9月時点の安倍政権の内閣支持率は62.4%となりました。コロナ禍において持病が悪化する中、職務を継続していたという辞任理由が明らかとなった後の世論調査ということもあり、前月比では+27.0%と大幅な上昇を記録しています。

政権末期は通常、徐々に国民の支持を失い、最終的には低い支持率での首相交代が行われるのがこれまでの傾向でした。そして、新しい首相に代替わりするタイミングで、再び高い内閣支持率となる、いわゆる「ハネムーン効果」が発生していました。

このハネムーン効果に近い現象は、金融市場において「ご祝儀相場」と呼ばれる現象として現れます。首相交代のタイミングで、「一時的に株価が上昇しやすくなる」という経験則です。

アベノミクスを承継する姿勢を見せる菅氏が次期首相として半ば確実視されていることもあり、次期政権が高い支持率で幕引きを迎えた安倍政権を承継する形となれば、足元の支持率が短期で大幅に下落する環境とは言いがたいかもしれません。

このように考えていくと、次期政権のスタート時にはハネムーン効果で「ご祝儀相場が弾む」ことが予想されますが、中長期的な視点では株価と内閣支持率に因果関係があるのでしょうか。

<写真:代表撮影/ロイター/アフロ>


内閣支持率は株価に影響を及ぼさない?

第二次安倍内閣が発足した2012年末から現在までの内閣支持率と日経平均株価データを比較してみます。政権発足直後の2013年には高い支持率に伴う形で、株価の上昇が発生しているようにも思われますが、2014年から2017年末にかけては、支持率と日経平均株価はそれほど関連性のある動きとはいえないでしょう。

統計数理研究所の川崎能典氏が2016年に公表した「内閣支持率と株価収益率の因果関係分析」によると、1978年3月から2015年11月までの内閣支持率と株価収益率を比較した結果、内閣支持率が株価収益率への因果性がみられないことが明らかになっています。なお、この結果は首相就任直後の「ハネムーン効果」を考慮しても変わることはないようです。

つまり「ご祝儀相場」や内閣支持率がもたらす株価への影響は軽微で、大きな影響を及ぼさないという見方が有力であるようです。

金融政策と政治が一体化している現代

一方で、2018年以降をみると、日経平均株価データと内閣支持率が似た動きをしているようにも見えます。内閣支持率と株価動向の連動性を支持する市場参加者も確かに存在しており、その根拠としては、近年「金融政策と政治が一体化している」という背景がある点を挙げています。ここ2年の傾向でいえば、たしかに連動する基調となっているようにも思われます。

確かに、統計数理研究所の調査は1976年からの調査であり、アベノミクスのように金融政策が主軸に置かれた期間が短いため、支持率と株価の関係が過小評価されている可能性も無いとは言い切れません。

「緩和的な金融政策を継続する」と主張する政権が、長期・安定的に営まれているとすれば、市場は将来の金融政策を織り込みやすくなるといえ、緩和政策に有利なポジションを取りやすくなるといえるでしょう。そして、仮にその内閣の支持率が急落すれば、次の政権で緩和的な金融政策に見直しが入るリスクもないとはいえず、安心感を持ったポジションを取ることが難しくなってしまいます。

これは「長期政権と経済成長率」の関係からも同様のことがいえます。一般的に、長期政権時は経済成長率が高い傾向があるといわれていますが、日本においては、佐藤栄作氏(2798日)に対して経済成長率が年率約10%、吉田茂氏(2616日)の9%、池田勇人氏(1575日)の12%と、高い年平均成長率を誇る例が多くみられます。

高い年平均成長率は株価にとってもプラスになる要因といえます。また、長期政権を維持するためには高い内閣支持率が伴うことが不可欠です。そうすると、内閣支持率と株価には、金融政策の重要性が高まっている昨今においては、間接的な影響力を高めているとも考えることができ、無視できない要素であるとも考えられます。

もっとも、内閣支持率の動向から短期的な株価の変動を予測するのはナンセンスです。例えば、この度のコロナ禍では、3月のコロナショックで大幅に下落してから大きく戻している一方で、内閣支持率は低調で推移していました。安倍首相の辞意表明までは後手気味な対応を批判する国民の声も根強く、支持率は30%代で推移していました。

タイミングごとに支持率と株価の動向をみると、全く別の因果関係で発生した要因が、時期が重なったことで因果関係があると錯覚してしまうこともあります。内閣支持率と株価の関係は、中長期の投資判断において参考程度にとどめておくべきであるといえるでしょう。

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