<いまを生きる 長崎コロナ禍> 大学無償化“対象外” 学業と生活…3浪学生の現状

 「お金がないと勉強できないんでしょうか」。長崎大3年の男子学生(23)は今、経済的に追い込まれている。3年の浪人生活を経て医学部に入学。家庭の事情でお金がない生活は承知の上だったが、新型コロナウイルスの影響で困窮ぶりに拍車がかかった。国は4月から低所得世帯向けに「大学無償化」の新制度を始めたが、大学生の対象は2浪まで。「同じ学生をなぜ区別するのか」。彼の心の中には諦めと不満が渦巻いている。

要望書を手に大学側に学費減免制度の拡充を直訴した学生=長崎市内

 福岡県出身。高校1年の時、父親が「理不尽な暴行事件」に巻き込まれ、生活が一変した。父親は今も仕事ができない体のまま。加害者には支払い能力がないと判断され、高額な治療費が家族に残った。その後、母親も体を壊した。
 そんな両親の姿を間近にし、医師を目指すことを決めた。将来は地元で働き、家族を支えるつもりだ。奨学金を借りて高校を卒業。1度目の受験に失敗後、予備校の特待生枠(授業料免除)を勝ち取るなどし、3浪の末、医学部に入った。
 学費と生活費は奨学金とアルバイト代で賄い、ぜいたくとは無縁の生活だった。そんな中、新型コロナが直撃。3月以降、塾のバイトを失い、月5万円ほどの収入がゼロになった。

  ◇大学に直訴

 その後、国と大学の緊急支援で計30万円が支給され「助かった」。そう思ったのもつかの間、前期の学費でほぼ消えた。医学部独自の支援も用意されていたが、申請期間中に把握できておらず、後に知った。
 後期の学費は約27万円。今は払えるめどが立っていない。来年3月までに納めなければ除籍になる。前年の成績で判定する大学の学費減免制度の選考からは漏れた。奨学金をさらに借りる手もあるが、高校分と合わせ大学卒業時点で800万円近い借金を背負うことになる。「これ以上借りると将来返せるかどうか」。授業や実習も多く、時間の条件が合うバイトは見つかっていない。
 9月下旬、減免制度の拡充などを求める要望書を手に大学側に直訴した。対応した職員は「全てを救うのは難しい。大学としては一人だけを救うのではなく、広い視野で制度を考えていく必要がある」と述べた。
 面談を終えた学生は小さな声で言った。
 「自分のような支援の網から漏れた学生はどうしたらいいんでしょうか」

  ◇一律支援を

 国は4月、住民税非課税世帯とそれに準じる世帯を対象に、学費減免や給付型奨学金などを支給する制度を新たに導入した。新型コロナの影響で収入が減った学生も基準を満たせば利用できるようになっている。
 だが、対象は「高校等を卒業後2年以内に大学等に入学」という条件があり、在学生の場合は2浪までになる。今回の学生は3浪のため対象外。長崎大の担当者は「個人的な意見」とした上で、こう話す。「(2浪までの条件がなければ)彼の経済状況をみればおそらく対象になるだろう。(3浪以上も)学生という立場に変わりはなく区別するのはどうなのか。ただ国が決めた話なのでどうにもできない」
 3浪以上の学生に対して柔軟な対応はできないのか-。文部科学省は対象を「卒業後2年」とした根拠について、短大や専門学校(2年制)の卒業生が20歳以上で就労し納税者になっている側面を挙げ「その方たちとのバランスを考慮した」と説明。現時点で対象拡大の検討は「考えていない」とした。
 困窮学生らを支援する労働組合「ブラックバイトユニオン」(東京)共同代表の荻田航太郎さん(26)は2浪での線引きを「不合理」と批判。学生の教育を受ける権利を守るという視点が重要だとし「各大学に対応を任せるのではなく、困窮する学生は国が一律に支援すべき」と訴える。

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