人の心はお金では買えないとわかってはいるのに...結婚もしたけれど迷い続ける35歳女性

愛情はお金では買えません。それがわかるまで苦労したという女性がいます。そしてそのことを把握してもなお、恋愛を深めていく方法がわからないそう……。


人間関係の築き方がわからなくて

「私、寂しいのが本当にイヤだし怖いんです。ひとりでいたくない。だから常につきあっている彼もいてほしい。私から別れたいと思ったことがないんですよ」

そう言うのはマリコさん(35歳)です。彼女は4歳のころ母に死なれました。ずっと病死だと思っていた母が、実は自死だったと知ったのは大人になってからです。

「それを知ったとき、ぼんやりした記憶がよみがえってきました。隣の部屋で祖父母と父が『まさか自分で……』『こんなことになるとは』と話していたような気がするんです。原因はおそらく父の愛情不足じゃないでしょうか。祖父母は同じ敷地の別棟に住んでいましたが、母は“嫁”としてとても苦労したみたい。父は生活費もろくに渡さなかった時期もあったようですし」

母の死後、父は祖父母と協力して懸命に育ててはくれましたが、マリコさんは常に孤独感を抱えていたといいます。

「父には恋人がいたんじゃないでしょうか。ときどき帰ってこないことがありました。大人になるまで、私は誰にも心を開かない子だったような気がします」

“いい子”でいるほうが得策だと無意識に感じていたのかもしれません。彼女は成績がよく、高校も進学校に進み、東京の大学に合格して上京しました。

「アルバイトをする必要がないくらい、父は送金してくれていました。昔からそう。お金や物はくれるけど、愛されて満たされてはいなかった。大学時代は私、お金で友だちを買っていたような気がします」

親が送ってくれたお金で友だちに奢って一緒に時間を過ごしてもらう。そんな日々だったとマリコさんは唇を噛みしめました。

「地方から出てきた負い目もあって、どうやって人とつきあったらいいかわからなくて。だから友だちに奢ることしかできなかった」

男性関係にも悪影響が

そんなマリコさんですから、好きな人ができたときもお金で歓心を買おうとしました。

「学生時代、サークルの先輩を好きになったんです。でも先輩はアルバイトに忙しくて、デートに誘ってもなかなかうんと言ってくれない。ただ、私もお金で気持ちを買うのはいけないという気もあったので、あるとき、『先輩。たまたまアルバイト代が入ったのでいつもお世話になっているから焼き肉奢りますよー』と軽く言ったんです。そうしたら先輩、食いついてくれました」

アルバイト代が入ったというのはもちろんウソですが、先輩は疑わなかったようです。それをきっかけに、マリコさんはときどき先輩を誘っては奢り、誕生日には彼がほしがっていた高価な万年筆をプレゼントしました。

「お金が人をダメにするって本当ですよね。その後、先輩に彼女がいると聞いて抗議したんです。そうしたら先輩、『だってきみとはつきあってないじゃん』って。私はてっきりつきあっていると思ってた。だって週に1回は会っていたし、先輩が私の部屋に泊まりに来ることもあったんですよ」

すると彼は、「お金持ちのお嬢さんの時間つぶしにつきあっただけ」とひどい言葉を残して去っていきました。

「私は優しさと愛情がほしかっただけ。でもそれはお金では買えない。どうしたらいいかわかりませんでした」

ついつおお金を払ってしまいそう

大学での成績もよかった彼女は、有名企業に就職しました。もう親からの送金には期待できません。きちんと自立しなければと思いながらも、彼女は同期との会合にもつい自分が支払ってしまいそうになったりしたそうです。

「お金を払うとかえって友情や愛情はついてこない。それはわかったけど、じゃあ、どうやって人間関係って築けるのだろう、どうしたら好かれるのだろう。それがわかりませんでした」

一生懸命、仕事を覚え、自分の意見もはっきり述べると、彼女は上司に信頼されるようになっていきました。出過ぎてはいけないと思って控えめにしていたので同僚や後輩からも慕われたといいます。

「人間関係のコツみたいなものがやっとわかってきたんですよね。だけど恋愛はできない。好きになるとやっぱり歓心を買いたくて、すぐに奢ったりしてしまう……。そこで、ある上司に相談したんです。彼は10歳年上、バツイチ独身でした」

何がどうなるか人生はわからないものです。その彼とマリコさんは恋愛関係になりました。

「本当は私、上司としては信頼していたけど男性として魅力を感じていたわけではないんです。ただ、彼はすごく私を大切にしてくれた。お金を介在させなくても愛されることはあるんだとわかった気がしました」

体調や気分を気にかけてくれたり、毎日のように連絡をくれたり。会社では素知らぬ顔をしていましたが、プライベートでふたりがつきあっていることはすぐに周りにも知られました。

結婚したものの…

「29歳のとき、みんなに祝福されて結婚したんです。愛されて結婚するのは幸せなことだと心から思いました」

ところがこの結婚、3年足らずで破綻します。彼女はとうとう彼を愛することができなかったからだそう。

「愛されているだけだと気持ちが萎縮していくというか、自分の気持ちの発露ができないというか……。外でボーイフレンドに貢いでいるのが夫にバレて離婚しました」

夫が離婚理由を明らかにしなかったため、彼女は社内で悪く言われることもなく仕事を続けています。元夫は今もいい相談相手だそう。

離婚してから3年、彼女は相変わらず「いい恋愛の築き方がわからない」と嘆いています。人の心はお金では買えない。それはしっかり把握したのに、恋愛を深めていく方法が見えないと言うのです。ただ、これは彼女だけの問題ではないのかもしれません。人は誰でも多かれ少なかれ、そう感じているのではないでしょうか。

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