NYダウは約1万ドル上昇、トランプ政権4年間の株価を振り返る

10月に入り、4年に1度の米国大統領選への注目は日に日に高まっています。

2017年から始まったトランプ政権下の4年間は、米中対立の激化をはじめとする反グローバリズムの動きが高まり経済への悪影響もありました。一方で大規模な減税政策など経済刺激策も目立ち、結果として米国株式市場は大きく上昇しました。

実際に、トランプ大統領の当選が決まった2016年11月9日の終値はNYダウが1万8,589.69ドル、ナスダックが5,251.07ポイントであったのに対し、2020年10月20日現在ではNYダウは2万8,308.79ドル、ナスダックは1万1,516.49ポイントと大幅に上昇しています。

大統領選を前に、トランプ政権下の4年間のマーケットの動きについて振り返ってみましょう。


大逆転のトランプ大統領誕生とトランプラリーの開始

トランプ大統領の誕生は予期せぬものでした。2016年の大統領選では、当時与党であった民主党のヒラリー・クリントン候補の当選が有力視されており、トランプ氏の当選は「トランプリスク」とされていました。

しかし、投開票日直前の2016年10月28日にクリントン氏の私用メール問題に関してFBIが再調査を決めた「オクトーバーサプライズ」で潮目が変わり、政治経験のないトランプ氏の当選確率が上昇します。

投開票当日は激戦州のフロリダ州やオハイオ州でのトランプ氏勝利が告げられる度にマーケットは売りで反応し、取引時間であった日本市場への影響は特に大きく、11月9日の日経平均株価は一時1,000円超の急落となりました。

トランプ氏勝利直後はリスクと捉えられていたものの、徐々に金融規制緩和など市場への追い風とみられる経済政策が明らかになるとマーケットは一転して上昇基調となり、「トランプラリー」が始まりました。

とりわけ株高をけん引したのは2017年1月の就任演説で発表した大規模なインフラ投資と大幅減税です。特に2017年12月に承認された法人税の大幅減税は約30年ぶりの大規模なもので、35%あった法人税率を21%まで下げ、日本やドイツなど先進諸国を大幅に下回るものでした。

これらの政策への期待から、2018年初頭までにNYダウは1万8,000ドル台から2万6,000ドル台まで一直線に上昇しました。しかし2018年に入ると米中貿易戦争とFRBの利上げの両面から株価は停滞します。

米中貿易摩擦とFRBによる利上げで不安定な相場に

2018年に入ると対中貿易政策と金融政策の両面の影響でマーケットは不安定になりました。

まず対中貿易政策では、米国中心主義を掲げ、対中貿易での赤字を嫌気したトランプ大統領による対中制裁関税が世界に混乱を招きました。2018年の7月にロボットなど818品目340億ドル相当へ25%の関税をかけたのを皮切りに、2019年9月の対中関税第四弾まででほぼすべての輸入品に関税を課すまでにいたりました。

アメリカの政策に対し中国も黙ってはおらず、アメリカからの輸入品への報復関税で対抗しました。この”米中貿易戦争”は報道が出る度に株価へマイナスな材料となりました。

また、トランプ大統領は金融政策を決めるFRB(連邦準備制度理事会) への干渉も目立ちました。転機となったのは1期4年と短い期間ながら米国の景気回復を達成したイエレン議長に代わるパウエル議長の就任でしょう。中央銀行の独立をかかげ経済の過熱を抑制したいパウエル議長と株高にこだわり低金利を要求するトランプ大統領との対立が目立ちました。

とりわけ、パウエル議長が就任した2018年2月5日のNYダウは一時1,500ドル以上の下落と当時の史上最大の下げ幅を記録し、印象的な幕開けとなりました。

パウエル議長は大型減税を追い風に好調な米景気の過熱感を抑えるべく、2018年3月、6月、9月、12月と計4回の利上げを実施しました。特に12月に行われたこの年4回目の利上げは、米5年債の利回りが2年債利回りを下回る”逆イールド”が11年半ぶりに発生し、利上げ慎重論が強まる中で行われました。

金融引き締め姿勢が嫌気され、利上げが行われた12月19日の週のNYダウは6.9%下落し、2018年のNYダウは年間の騰落率をマイナスで終えました。

10年半ぶりの利下げを皮切りにNYダウは史上最高値へ

2019年の相場は米アップルの業績下方修正、米経済指標の悪化などで景気後退感を嫌気して大幅に下落して始まりましたが、年初が底となり上昇の目立つ1年となりました。

FRBが年初の株安を受けて方針を転換し、前年とは一転して利上げの終了を示唆したうえ、金融引き締めのために続けていた資産圧縮プログラムも終了させる観測がされると、リスクを取る姿勢が強まりました。

FRBの利下げ路線への転換期待からNYダウは2019年7月に再度史上最高値を更新し、2万7,000ドル台を記録しました。8月に約10年半ぶりの値下げが実行された後は、追加利下げに慎重な見通しが見られ大幅に反落する場面もありました。

しかしトランプ大統領の金融緩和圧力もあり、FRBは9月、10月にも連続で利下げを行い、NYダウは年末に2万8,000ドルを突破。再び史上最高値を更新して1年を終えました。

新型コロナウイルスによる急落からのV字回復

2020年初頭のNYダウは2019年の勢いそのままに史上最高値を更新し続け、1月に初の2万9,000ドルを突破し、3万0,000ドルに到達するかに注目が集まっていました。

しかし中国武漢を震源地とする新型コロナウイルスの世界的流行が見られると2月の下旬から事態は急変。NYダウは1日で一時3,000ドル超の下げ幅を記録する日もあるなど混乱の相場となり、わずか1ヶ月の間に1万ドル以上の急落となりました。

各国で緊急の金融政策が行われる中、アメリカのFRBは3月4日に0.50%、14日に1.00%の2度の緊急利下げを行い、マイナス金利政策を再開しました。さらに大規模な債券購入プログラムなど迅速な金融緩和を行ったことで株式市場は急回復、NYダウは9月に一時2万9,000ドル台を回復しました。

コロナ禍でも高い成長力を維持するGAFA銘柄が相場をけん引するナスダックは、史上最高値を大きく更新し一時1万2,000ポイントまで上昇しています。

急速に株価が回復する場面では、新興株式取引アプリのロビンフッドを使って投資を始めたミレニアム世代の投資家、“ロビンフッダー”も注目を集め、株式市場は幅広い層で盛り上がりを見せました。

経済の回復は道半ばで失業者数も依然高止まり、今冬には新型コロナウイルスの第2波到来も心配される状況ではあるものの、マーケット的にはトランプ大統領の思い通りに推移する結果となりました。

米大統領選でマーケットはどうなる

就任後の4年間で株式市場に貢献したトランプ大統領ですが、今回の大統領選では窮地に立たされています。

注目が集まった大統領候補テレビ討論会では劣勢を覆せず、10月2日にはトランプ大統領自身が新型コロナウイルスに感染する事態となりました。その結果、大統領選のバイデン候補勝利者確率が60%台後半を記録する場面もあり、現在でも優勢の状態が続いています。

マーケットの観点では特にトランプ大統領感染の報道時にはマーケットも売りで反応し、リスクオフに傾くように思われましたが、現在ではバイデン候補の圧勝を織り込む形でのリスクオンの様相となりつつあります。

今後の注目点は大統領にどちらが選ばれるかよりも、バイデン候補勝利かつ議会の上院下院共に民主党となる“トリプルブルー”が実現するか、トランプ大統領が敗戦した場合に敗北宣言をせずに勝敗が決するのに時間がかかるのではないか、といったことに徐々に移っていくことも予想されます。

また、欧州を中心に新型コロナウイルスの感染が再び深刻化していることや、10月後半に多くの企業が予定している決算発表など、大統領選以外の要因が相場に影響を与える可能性もあるのでそちらにも注意が必要です。

前回は投開票日約10日前から劣勢を跳ね返し、見事な逆転勝利を果たしたトランプ大統領。今年も最後まで目が離せない展開になりそうです。

<文:Finatextホールディングス アナリスト 菅原良介>

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