今からなれる日本代表! 新競技「Baseball5」を公認インストラクター六角彩子が解説

女子野球の現役選手として活躍しながら、Baseball5の普及にも努める六角彩子【写真:編集部】

全世界で競技人口急増中 手打ち野球の進化形「Baseball5」とは

2019年に日本に紹介された新感覚都市型スポーツ「Baseball5」。野球やソフトボールに似た、1チーム5人で行われる手打ち野球の進化版のようなスポーツだが、ゴムボールが1つあればバットもグローブもいらない。服装はTシャツ、短パン、スニーカーなど動きやすければ普段着でオーケー。さらに、ホームから外野フェンスまで18メートル四方のスペースが確保できれば、屋内外を問わず、ショッピングモールの広場でも、駅前広場でも、場所を問わずにプレーできる手軽さが売りだ。

5イニング制の試合は早ければ15分もあれば終わってしまう。スピーディな展開で、プレーする人も見る人も飽きさせない魅力が、野球やソフトボールになじみの浅いアフリカ大陸などで受け入れられ、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が2017年、競技の誕生を発表して以来、すでに70か国以上でプレーされており、2026年のユースオリンピックでは公式種目に加えられた。

チーム構成は男子2人、女子2人、残りの1人は男女どちらでも可。投手はおらず、打者は自分でトスしたボールを手で打ち、打球はホームから13メートル四方の内野でワンバウンドさせないといけない。ホームランはなく、ファウルはアウト。3アウトで攻守交代。ルールも極めて明快だ。

とは言うものの、Baseball5は本当に誰でもできるスポーツなのだろうか。Baseball5公認インストラクターの資格を手に入れた女子野球日本代表の六角彩子(埼玉西武ライオンズ・レディース)に聞いた。

「子どもたちにはやり方とルールを説明すれば、すぐに試合を始められるくらい簡単です。バットを使わないから強い打球が飛ぶこともないし、ボールも柔らかい。危なくないのがいいですよね。求められるのはパワーよりもスピード。だから、強い打球が打てない女子でも全然大丈夫。野球をしたことがない人にとっては、いくら自分の手で打っていいと言っても、前から飛んでくるボールを打つのは難しいと思います。でも、打者は自分でトスしたボールを打つので、空振りすることもほとんどないんですよ」

もちろん、競技者の年齢も問わない。子どもたちを対象としたイベントで、こんな発見もあったという。

「元々は野球の普及にも繋がるように、まずはボールに触れてほしいということで、ユース向けに作られたスポーツなんですが、意外と子どもたちと一緒にプレーしてみた監督、コーチ、保護者の方といった大人たちの方が燃えることも多いんですよ(笑)。よく大人からも『すごく楽しかったです!』という声をいただきますね」

Baseball5の原型は、キューバの街角で楽しまれていたクワトロ・エスキーナという手打ち野球にある。そのルーツが、かつて空き地や公園で手打ち野球を楽しんでいた大人たちを、童心に戻すのかもしれない。また、子どもたちの安全性を考えて採用されたゴムボールだが、実は大人にとっても嬉しい利点があるようだ。

「大人になると肩が痛い、肘が痛いと始まってきて、遠くに重い物を投げるのが結構難しくなってくる。でも、Baseball5のボールは小さくて軽いので、肩や肘を壊した経験がある方が投げても、ほとんど負担を感じないくらいなんです。だから、故障で野球やソフトボールを諦めなければならなかった人でも、野球に似た興奮をBaseball5で味わうことができると思います」

生涯スポーツとしての可能性も秘めている。子ども同様、高齢者にとっても安全性に優れているため、草野球をするには体の負担が大きいと感じる人にも、Baseball5はうってつけのスポーツと言えそうだ。また、チームは男女混合が必須条件となるため、家族や親戚、近所の仲間でチームを作って、レクリエーションとして楽しむこともできる。

Tシャツ、短パン、スニーカーというラフな服装で手軽にプレーできるBaseball5【写真提供:WBSC】

野球初心者でも経験者でも競技層を選ばず 今からでも間に合う日本代表の座

これまで行ってきたイベントでは、すでに野球をしている子どもたちが対象となることが多かったが、サッカーやバスケットボールなど他競技に親しむ子どもたちにも是非体験してほしいという。それというのも、Baseball5が新競技として楽しめると同時に、どの競技にも必要な俊敏性や判断力を養うことに優れているからだ。

「野球に限らず、いろいろなスポーツのウォーミングアップにすごくいいと思います。Baseball5は、5人全員が内野の守備に就くので、ホームには誰もいません。例えば、ランナー二塁で打球がサードゴロだった場合、サードが打球を捕って一塁へ投げて、はい終わりとなってしまうと、セカンドランナーがホームまで走ってしまう可能性がある。だから、サードは一塁へ投げた後、すぐにホームへベースカバーに入るとか、違う選手がホームへ向かうとか、いろいろな動きがあります。そういったことを自分で考えて準備しておかないといけないし、実際に起こるプレーの中で状況を見ながら何をするべきか判断しなければいけない。周りを見る目、一瞬で考えて判断する力、そういうものが養えるんじゃないかと思います」

とは言うものの、やはり野球のルールを理解し、スキルを持つ人の方が、Baseball5も上手にこなすのではないか。「いや、初心者がプロ野球選手に勝つ可能性も十分にありますよ」と六角は笑顔を見せる。

「手に持ったバットで前から飛んでくるボールを打つ技術と、自分でトスしたボールを手で打つ技術は全然違います。プロ野球選手も手で打つ打ち方はしないので、その感覚は結構違うと思います。しかも、内野で必ずワンバウンドさせないといけないので、ホームランを打てばいいわけじゃない。だからといって、弱すぎてもダメ。このあたりの加減が、今、世界で一番強いキューバの選手が本当に上手なんですよ。打つ時に思いきり振りきって打てるんですよね。Baseball5のコツみたいなものがあるので、それを掴んだ人にはプロ野球選手でも勝てないと思います」

Baseball5に興味を持った人に、朗報が1つ。今から競技を始めても、日本代表になれるチャンスがあるのだ。今年開催が予定されていた「第1回WBSC Baseball5ワールドカップ(W杯)」が、コロナ禍により来年6月に延期となった。これに伴い、W杯予選となる「第1回WBSC-ASIA Baseball5 アジアカップ」も来年1月に延期され、アジアカップに出場する日本代表を選ぶ「日本代表デジタルチャレンジ」も一時中止となっている。

「まだ、全然間に合います! 日本に紹介されたばかりのスポーツなので、Baseball5を知らない人が多い。その分、代表になれる可能性は高いですよね。18歳以下のユースの部とオープンカテゴリーの部と分かれているので、興味がある人は募集が再開したら、ぜひチャレンジしてほしいですね」(佐藤直子 / Naoko Sato)

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