笑顔と歓声に溢れたBaseball5体験会 元燕・宮本慎也氏が感じた可能性とは

体験会「Baseball5 in 港区」の様子【写真:荒川祐史】

10月11日に体験会「Baseball5 in 港区」を開催、約150人の子どもたちが参加

野球のようで野球とはひと味違う、新感覚のアーバンスポーツ「Baseball5」の熱気が、少しずつだが確かに日本で広がりつつある。10月11日、港区スポーツセンターで「Baseball5 in 港区」が開催され、小学4年生から5年生まで約150人の参加者が、スピーディかつエキサイティングな競技の魅力に触れた。

2017年に世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が発表した“手打ち野球”の進化版は、ボール1つあればプレーできる手軽さと、可能な限りルールを簡素化した分かりやすさが受け、ヨーロッパやアフリカ大陸など野球やソフトボールと馴染みが薄かった地域で急速に普及。そして早くも、2022年にセネガルで開催予定だったユース五輪の正式種目に採用された(コロナ禍により2026年に開催延期)。

すでに世界70以上の国と地域でプレーされているBaseball5だが、日本で初めて講習会・体験会が開催されたのは2019年のことだった。女子野球の六角彩子選手がキューバを訪問し、WBSC公認インストラクターの資格を得るなど、日本でも本格普及に乗り出そうとした矢先に新型コロナウイルスが感染拡大。今年予定されていた第1回ワールドカップが来年に開催延期となり、それに伴う日本代表選考プロセスも一時ストップしてしまった。

各地で予定されていたイベントや体験会も軒並み中止となったが、少しずつ日常生活を取り戻す歩みに合わせ、この日の「Baseball5 in 港区」開催が実現した。

Baseball5とは、バスケットボールでいう「3on3」のような競技で、1チーム5人の構成。グラウンドの広さは18メートル四方で、一塁・二塁・三塁・ホームと4つのベースが置かれている。バットやグローブといった道具は使わず、必要なのはボール1つだけ。投手や捕手はおらず、打者は自分がトスしたボールを手のひらか拳で打ち、プレーを始める。ファウルやホームランはアウト。3アウトで攻守が入れ替わる5回戦制だ。展開が早く、ものの15~20分もあれば1試合が成立する。Tシャツ、短パン、スニーカーといったラフな格好が“正式なスタイル”。公式戦では男女混成チームである必要があるのも特徴だ。

「Baseball5 in 港区」に参加したのは、都内にある複数の少年野球チームが結成した20チームに、一般公募で集まった40人を加えた約150人。さらには、東京オリンピックで港区がホストタウンを務めるジンバブエ共和国の在日大使館チームも加わり、国際色豊かなイベントとなった。

スペシャルゲストとして、元ヤクルトで野球解説者の宮本慎也氏が登場。プロ通算2133安打、ゴールデングラブ賞10度を記録した宮本氏は、2004年アテネ五輪、2006年第1回WBC、2008年北京五輪にも出場。引退後は、幼稚園や保育園を訪問してティーボールの普及に努めた。この日、イベント冒頭のトークショーで自身の現役時代を振り返りながら、参加する子どもたちに「野球を楽しいという気持ちを忘れずに。高い目標を持つとしんどいことも多いが、楽しむことだけは忘れないで」とアドバイスを送った。

元ヤクルトで野球解説者の宮本慎也氏【写真:荒川祐史】

宮本氏が期待するBaseball5の効果「公園でやっても『危ないからやるな』とは言われない」

待ちに待ったイベントがスタート。屋内アリーナに2面用意されたBaseball5用のコートでは、終始笑顔と歓声が途切れなかった。打者が打ったボールを捕って一塁へ送球してアウトを取る。野球と同じルールだが、いつもより狭いグラウンドで、よく弾むボールを使い、守備では5人全員が野手となると、どうやら勝手が違ってくるようだ。

ボールを捕ってからの送球が強すぎて、ベースカバーに入った選手が弾いてしまったり、打球に気を取られて誰もベースカバーに入らず、一塁走者に一気に生還を許したり。マイクを片手に会場を歩き回りながら、子どもたちに「思いきり打てよ。ちょろちょろセコイことはするな」「頭を使えよ」と軽妙なツッコミを入れていた宮本氏だが、笑いの中にも的確なアドバイスを送り、子どもたちが競技の持つ魅力により多く触れられるようにサポートした。

「誰も走者がいないのに、どうして一塁方向へ打つんだ?」
「近い距離で強く投げたら相手は取りやすいかな?」
「守備の正面に打つのと、間に打つのはどっちがいいだろう?」
「走者を先の塁に進めないためにはどうしたらいい?」
「ミスはしょうがないから、その後のプレーを考えよう」

宮本氏の言葉に耳を傾け、自身の頭で考えるようになった子どもたちは、次第に一塁送球を下手投げにしたり、近くのベースカバーに入ったり、前進守備の後ろに落ちるような打球を打ったり、工夫を凝らしながらプレーするようになった。子どもたち同士で掛け合う声も増え、かつて空き地で野球を楽しむ子どもたちの姿が再現されているようだった。

子どもたちと楽しい時間を共有した宮本氏は、Baseball5が持つ可能性について、こう語る。

「競技人口が減っている中で、野球が10年、20年先、今と変わらないメジャーなスポーツかというと、ちょっと怪しい部分があると僕は思っています。だから、Baseball5だったら気軽に始められるし、ちょっと広めの公園でやっても『危ないからやるな』とは言われないでしょう。まずはそういったところから始めて、じゃあバットで打ったらどれだけ飛ぶんだろう、グローブを持ったらどれだけ捕りやすいんだろう、と興味を持ってもらえればありがたいですね。

やっぱり野球がルールが難しいので、Baseball5のように普段の遊びとして親しめるところから慣れてもらうのもいい。ぜひ小学校や幼稚園から取り入れて、Baseball5や野球が子どもたちがプレーするスポーツの選択肢に入ってくれればと思います」

野球やソフトボールの普及を促す役割を持つ一方で、野球が持つ敷居の高さや堅苦しさがなく、手軽かつスピーディに楽しめる競技そのものも魅力的なBaseball5。年齢性別を問わないレクリエーションとしても、世界に続いて今後、日本でも競技人口を増やす可能性は高そうだ。

百聞は一見にしかず。まずは「Baseball5」が何なのか、WBSC公式ホームページ(https://baseball5.wbsc.org/ja.html)、全日本野球協会公式ホームページ(https://www.baseballjapan.org/jpn/baseball5japan/)で動画をチェックしてみよう。

【動画】グローブもバットも使わない? 野球とはひと味違う「Baseball5」を楽しむ子供たちの実際の映像

【動画】グローブもバットも使わない? 野球とはひと味違う「Baseball5」を楽しむ子供たちの実際の映像 signature

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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