『パピチャ 未来へのランウェイ』アップ多用しヒロインの心情増幅

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 映画は本来、大きいスクリーンで観るもの。だから、優れた映画監督ほどクローズアップの使用には慎重を期す。ところが、本作では冒頭からクローズアップが多用される。しかも、ヒロインたちは舞台のような派手なメイクで自らの女性性を強調するのだ。「暗黒の10年」と呼ばれた1990年代の内戦下を舞台にしたアルジェリア映画だ。ファッションデザイナーを夢見る大学生のヒロインが、イスラム原理主義による女性弾圧に立ち向かう姿を描く。

 クローズアップは顔だけではない。手の動きやアクセサリー、衣装なども大写しになる。正しくは、“寄り”の画面が多用されるのだ。とはいえ、カメラがむやみに近いわけではなく、被写体がゆがまないレンズが選択され、常に深度の浅い画面の中で奥行きを使う立体的な演出が繰り広げられる。つまり、この監督はアップの使い方を心得ているのだ。これが初長編となる女性監督で、内戦時に家族とフランスへ移住した自身の経験が投影されているという。

 久しぶりにアップが効果的な映画を観たと言ってもいいかもしれない。ハリウッド映画によくある無意味なアップとは違い、アップの連続がヒロインの振幅の激しい心情をさらに増幅させることで、彼女の行動やエネルギーが観る者に迫ってくる。強い女性を描くヒロイン映画は近年増えているが、そのどれとも似ていない。リプリーもララ・クロフトも尻尾を巻いて逃げ出すほどのスーパーヒロイン映画だ。★★★★★(外山真也)

監督:ムニア・メドゥール

出演:リナ・クードリ、シリン・ブティラ

10月30日(金)から全国公開

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