ようやくIPO申請にたどり着いたAirbnbの2020年の軌跡

 先の記事では、スタートアップに端を発するテック企業の中でも、未上場で評価額が10億ドルを超える企業を伝説の一角獣の名前に倣って「ユニコーン」と名付けることに加え、ユニコーン企業の輩出数を一つの指標として、世界各国・各都市が「スタートアップ・エコシステム」の構築を進めていることを紹介した。

 その中で、日本においても最も馴染み深いユニコーン企業の一つが、自宅の部屋を外部の人にシェアリングするサービス、いわゆる民泊を全世界で展開するAirbnbではないだろうか。サンフランシスコで行われた大規模なカンファレンスに際して、ホテルが満室で予約できない参加者に部屋を貸したことがきっかけで、”Airbed and Breakfast”という社名とともに創業されたAirbnbは、現在では世界のほとんどの国で宿を提供するホストがおり、旅行業界やホテル業界に大きなインパクトを与えた。Airbnbはいまだ未上場ながら、その評価額は$18billion、日本円で約1兆9000億円ともいわれており、民間調査会社CB Insightsによると、世界中のユニコーン企業の中では5番目だとされている。

 Airbnbは2020年8月に、新規株式公開(IPO)を申請したと発表している。2019年時点で既に2020年の新規上場を見据えていたとされるAirbnbの2020年の流れを順に追っていこう。

Covid-19が事業への大きな打撃に

 Covid-19(新型コロナウイルス)の流行が、旅行者を対象に民泊を提供するAirbnbの事業に直撃した。コロナ禍前には、220の国と100,000の都市、290万人のホストを有し、さらに毎月14,000人ずつホストが増えることで、世界のあらゆる地域で利用できるサービスとなっていたが、国内外の移動が全世界的にできなくなった3月以降、既存のビジネスモデルでは収益を確保できない状態となった。

全従業員の25%をレイオフ

 そんな中、5月5日にAirbnbの創業者でありCEOを務めるBrian Cheskyが、全従業員に対して以下の内容を含んだ連絡を送った。その内容はこちらから確認することができる。

・ビジネスへの大打撃と経営戦略の見直し

 一連の影響によって旅行は姿を消し、コロナが収束したとしてもいつ復活するか、どのような形で戻ってくるか正確にはわからない。2020年は2019年の収益の半分以下になると考えられており、追加で20億ドルの調達を実施するとともに、ビジネス戦略の見直しによってAirbnbを根本的に変える必要がある。

・従業員のレイオフ

 ビジネスをより選択し集中させるため、7,500人の従業員のうち約1,900人がAirbnbをやめなければいけない。これは全体の約25%を占めている。

・退職に伴うサポート

 給料の約3ヶ月分の退職金の支給や、保険の継続的な提供、再就職の支援などを実施する。Airbnbは人間の帰属を大事にしており、帰属の元となるのは愛である。

国内旅行客の回復と業績の好転

 6月に入り各国のロックダウンが解除され始めると、国内や地域内での旅行需要が回復し、Airbnbの利用者も増加に転じた。5月17日から6月6日にアメリカ国内での予約件数が2019年同時期を上回った。さらに地域内での旅行を促進するべく、6月11日に世界各地域の自治体とのパートナーシップ締結と、地域内の経済を活性化する”Go Near”キャンペーンを発表した。

新規株式公開(IPO)を申請

 8月19日、新規株式公開(IPO)に向けて申請したことが公式に発表された。経営状況や財務状況は公表されていないようだが、年内のIPOを目指しているようだ。

 Airbnbの経営陣にとってみれば以前は順風満帆にみえた2020年が、コロナ禍によって暗転し、従業員を削減するという苦渋の決断をしながらもIPOにこぎつけた 、 ジェットコースターのような1年だったに違いない。個人的にも国内外で頻繁にお世話になっているサービスであるため、ユーザーとして2020年末を平和に終えて欲しいと願っている。

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