台風1年…箱根・仙石原、温泉供給いまだ途絶え

昨秋の台風の影響で1年以上温泉が出ない状況が続いている「伊藤山荘」=箱根町仙石原

 昨年10月の台風19号で記録的な豪雨に見舞われた神奈川県箱根町では、仙石原地区の一部で温泉の出ない状況が続いている。供給源である大涌谷の斜面崩落で流失した配管の復旧が終わっていないためだ。新型コロナウイルスの影響も受ける宿泊施設の関係者は「温泉は頼みの綱。一日でも早く元に戻ってほしい」と訴える。

 台風19号時の総雨量が千ミリを超え全国最多となった箱根町では、崖崩れや土石流が多発。大涌谷にある温泉供給設備も被災し、配管が各所で寸断、流失した。

 「箱根温泉供給」によると、同社が温泉を届けている強羅、仙石原地区の別荘や保養所、旅館など約230軒全てに提供できなくなったが、配管の交換などを進め、昨年中に約170軒へ順次再開。しかし、急斜面となっている被害現場の一部で復旧工事が難航し、被災から1年が過ぎた今も仙石原の約60軒には供給ができていないという。

 その影響で、自慢の温泉が出ない状況が1年以上続いている民宿「伊藤山荘」では、応急措置としてボイラーを使って湯を沸かし、湯の花を入れるなどしているが、コロナ禍も重なって客足が激減。オーナーの伊藤恭二さん(77)によると、「客数は例年の1割程度」と、かつてない苦境にさらされている。

 書き入れ時であるはずの夏場やそれ以降も「電話予約の客に温泉が出ないことを伝えると、取りやめる人がほとんど」と伊藤さん。「『温泉が出るようになったらまた利用します』というリピーターの声が心の支え」だが、「持続化給付金などでどうにか耐えてきたとはいえ、このままでは厳しい」と内情を打ち明ける。

 箱根温泉供給は「急斜面で作業が困難なことから、工事業者の選定に時間がかかった。6月に作業を始めたものの、7月の長雨で作業ができない日が続いた」と事情を説明。「当初見込んでいた年内の復旧は難しいが、一日も早い供給再開に向けて取り組んでいく」と強調する。復旧時期は来年1月末ごろの見通しという。

© 株式会社神奈川新聞社