WTCR第5戦:ベルネイ、アズコナ、ビョークが今季初優勝。新星ウルティアは3戦連続表彰台

 2020年も終盤戦に突入したWTCR世界ツーリングカー・カップ第5戦が10月30日~11月1日にスペインのモーターランド・アラゴンを舞台に争われ、ジャン-カール・ベルネイ(アルファロメオ・ジュリエッタ・ヴェローチェTCR/チーム・ミュルザンヌ)、ミケル・アズコナ(クプラ・レオン・コンペティションTCR/ゼングー・モータースポーツ)、そしてLynk&Co艦隊の一角テッド・ビョーク(Lynk&Co 03 TCR/シアン・パフォーマンスLynk&Co)がそれぞれ今季初優勝を達成。さらにビョークの僚友サンティアゴ・ウルティア(Lynk&Co 03 TCR/シアン・パフォーマンスLynk&Co)が、全3ヒートで表彰台に上がる活躍を演じている。

 フランスに続き、イングランドでも実質的ロックダウンが再開されるなど、新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミック第2波に揺れているヨーロッパ。その影響はモータースポーツ界でも不可避となり、イタリアのアドリア・インターナショナル・レースウェイで予定されていた今季最終戦は敢えなくキャンセルされ、11月14~15日の週末はふたたびここアラゴンでの開催が決まるなど、レースウイークの週末は不穏な空気とともに始まった。

 その影は参戦ドライバーたちにも忍び寄り、ヒュンダイのニッキー・キャツバーグ(ヒュンダイi30 N TCR/エングストラー・ヒュンダイN・リキモリ・レーシングチーム)は直前の検査でCOVID-19陽性反応が出たため欠場となり、その代役にTCRドイツ連覇の実績を持つ2019年TCRヨーロッパ王者ジョシュ・ファイルズの起用がアナウンスされた。

 すると予選から波乱の週末を感じさせるかのように、多くのドライバーがエンジン交換、赤旗義務違反、他車へのブロック行為、そしてトラックリミット違反でグリッド降格のペナルティが乱発され、Q3最速を記録した好調アルファロメオのベルネイは4輪脱輪を取られ、レース3は5番グリッドに降格の処分となった。

 最終的にレース1向けのQ1は現役王者ノルベルト・ミケリス(ヒュンダイi30 N TCR/BRCヒュンダイN・ルクオイル・スクアドラ・コルセ)が制して今季初ポールポジションを確保。以下、ジル・マグナス(アウディRS3 LMS/コムトゥユーDHLチーム・アウディスポーツ)、ベルネイ、ガブリエル・タルキーニ(ヒュンダイi30 N TCR/BRCヒュンダイN・ルクオイル・スクアドラ・コルセ)、そして地元のヒーロー、アズコナのトップ5に。

 リバースグリッドのレース2向けとなるQ2は、10番手タイムだったそのアズコナがポールシッターに。そしてレース3はQ1で2番手、Q2で最速といずれもスピードを披露したマグナスが、ベルネイ降格の繰り上がりで最前列からスタートする権利を手にした。

 日曜午前9時を過ぎてスタートが切られたレース1は、抜群の蹴り出しを見せた3番グリッドのベルネイが、1コーナーまでにミケリスのヒュンダイ、マグナスのアウディを抜き去り首位浮上に成功。その背後では随所で発生した集団バトルの混乱を尻目に、7番手発進のウルティアがオープニングラップで2番手に躍進してくる。

 その後は一切の波乱を寄せ付けず10周のレースを走破したベルネイが、2位ウルティア、3位マグナスを従えトップチェッカーをくぐり、前日に33歳の誕生日を迎えながらペナルティでポールポジションを逃したベルネイが、失意を挽回する待望の今季初優勝を獲得。WTCRの前身となるTCRインターナショナル・シリーズで2017年に最後のチャンピオンを獲得した男が、今季移籍先のチーム・ミュルザンヌに最高の恩返しをする結果となった。

BoP調整の影響も受け、今季ここまで好調を維持するアルファロメオ・ジュリエッタ・ヴェローチェTCR
ジル・マグナス(アウディRS3 LMS/Comtoyou DHL Team Audi Sport)はR1の3位に続き、R3でもポールから後退するなどレースペースに苦しんだ
R3に向けポールポジションを失ったジャン-カール・ベルネイ(アルファロメオ・ジュリエッタ・ヴェローチェTCR/Team Mulsanne)だが、R1で会心の勝利を手にした
リバースグリッドのレース2も緒戦の展開をリピートするかのようなレースとなり、ポール発進だった2018年TCRヨーロッパ王者アズコナが終始レースを支配する

■クプラ・レオン・コンペティションTCRが世界戦初勝利

「昨日のペナルティを理解するのは大変だった。何か間違ったことをしたら同意できるが、誰もがリスクをとっていた。でも今は未来について考えたい。僕は今朝から成すべきことに集中していたし、小さなチームとして達成していることを本当に幸せに感じることができる。グリッド上で実現しているレベルと競争力を心から誇りに思う」と、喜びを語ったベルネイ。

 続くリバースグリッドのレース2も緒戦の展開をリピートするかのようなレースとなり、ポール発進だった2018年TCRヨーロッパ王者アズコナが終始レースを支配。その背後では、4番グリッドだったイバン・ミューラー(Lynk&Co 03 TCR/シアン・レーシングLynk&Co)がタルキーニとルカ・エングストラー(ヒュンダイi30 N TCR/エングストラー・ヒュンダイN/リキモリ・レーシングチーム)を仕留めて、2番手で1コーナーへと突入していく。

 同じように7番手だった僚友ウルティアも自身の前戦を再現してオープニングで3番手へと浮上し、そのままのポジションでフィニッシュラインへ。これでアズコナは自身初のWTCR勝利を飾ったばかりか、地元マニュファクチャラーが投入した2020年デビューの新型『クプラ・レオン・コンペティションTCR』にも初の世界戦勝利をプレゼント。そして今季ワールドステージ復帰を決めたハンガリーのゼングー・モータースポーツにとっても、5年越しのWTCR初優勝獲得となった。

「僕のホームレースで勝てただけでも信じられないのに、最初から良いスタートを決めて完璧な勝利を飾ることができた。最初から言っているように、この新型クプラはスタートがとても簡単で速いんだ。ゼングー・モータースポーツとクプラにとって今季はとても大変なシーズンだったから、この勝利はその努力に値するものだと思っているよ」とアズコナ。

 続くレース3もフロントロウ2番手からスタートしたLynk&Coのビョークがターン1で先手を取ると、オープニングラップのヘアピン進入で姿勢を乱したヒュンダイのエングストラーが、ネストール・ジロラミ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.DE・ミュニッヒ・モータースポーツ)を巻き添えにクラッシュ。これでいきなりのセーフティカー導入となる。

 リスタート後は3番手だったウルティアもアウディのマグナスを仕留めて早々に2番手へと浮上し、終盤はWTCC世界ツーリングカー選手権最後の王者であるビョークを追い詰める勢いを見せフィニッシュ。3位には8番手スタートからオーバーテイクショーを演じたタルキーニが入っている。

 この週末を通じて優勝争いに絡めなかった選手権首位ヤン・エルラシェール(Lynk&Co 03 TCR/シアン・レーシングLynk&Co)と、同ランキング2位のエステバン・グエリエリ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.COM・ミュニッヒ・モータースポーツ)は26点差で最終戦へ。数字上はトップ11人までタイトルの可能性が残された1戦は、前述のとおり11月14~15日にふたたびここモーターランド・アラゴンで雌雄を決する。

「この先も、このマシンとならより多くの勝利を手にすることができるはず」と、期待を語ったR2勝者のミケル・アズコナ
R3のスタートで優位を手にしたテッド・ビョーク(Lynk&Co 03 TCR/Cyan Performance Lynk&Co)が、久々の復活劇を演じた
ウルグアイ出身で、シングルシーターからTCRに移行してまだ3年のサンティアゴ・ウルティア。Lynk&Coの抜擢に応える走りを披露した
参戦車中最大の60kgを搭載したFK8型ホンダ・シビック・タイプR TCRは奮わず。「重さの影響が甚大だった」とエステバン・グエリエリ

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