クレカデータが示す、GoToトラベルキャンペーンがもたらした驚くべき効果

免許合宿や出張、そして高額な商品券付きの旅行プラン…。抜け穴を利用した様々な「錬金術」が話題となったGoToトラベルキャンペーンは、一種の社会現象となるまでに国民の関心を集めました。

報道ではその使い方や問題点が多く取り上げられていますが、政策本来の目的である旅行業界にはどれほどの効果もたらしているのでしょうか。

今回は民間のクレジットカード利用データから確認していきたいと思います。


GoTo効果で”コロナ前”並に?

今回活用する指数は「JCB消費NOW」です。この指数は、ビッグデータ解析ベンチャーの「ナウキャスト」と、国内大手クレジットカード企業の「JCB」が提供する経済分析サービスです。

JCBカード利用者の個人情報を匿名加工することで利用者のプライバシーを確保したまま、クレジットカードにおける家計の消費動向の手がかりをつかむことが可能となります。

小売・サービスをはじめとした49の消費カテゴリーと、「旅行」カテゴリーにおける前年比の「一人当たりの金額変化」および「消費者数の変化」を確認してみましょう。

コロナ禍直前の2020年1月から最新の2020年10月前半までの旅行データを比較すると、最新の10月前半は、コロナ禍が始まって以来のプラスに転じており、消費者数および一人当たりの金額どちらでみても9月後半と比較して大幅な上昇がみられています。

GoToトラベルキャンペーンがスタートしたのは7月22日です。開始のアナウンスが7月10日であったこともあり、制度浸透やスケジュール調整といった旅行準備のため8月後半までは低調な伸びとなりました。

しかし9月以降は2ケタ増で推移。10月には東京が対象となったこともあって9月後半比で+34.3%と、史上最大の増加幅を記録しました。

他にも顕著な伸びを示したのが「自動車小売業」です。

GoToトラベルキャンペーンでは、マイカーでの旅行も制度の対象となりました。GoToトラベルやGoToイートキャンペーンと同じく、専用のWEBサイトを経由すれば、対象の宿泊プランと、各エリアの高速道路利用料金が一定期間定額で利用し放題の「高速道路周遊パス」が35%引きで入手可能です。

NEXCO中日本が提供する高速道路周遊パス「速旅」では、東京・神奈川・静岡周遊コースが2日間7,400円~9,200円で乗り放題。ここからGoTo割引を適用することにより、最大3,220円引きで利用することができます。

消費増税による需要減の反動に加えて、感染リスクが公共交通機関よりも低く、行動の自由度も高いことがマイカーによる旅行を促し、自動車小売業が恩恵を受けるに至ったのではないでしょうか。

主役の「交通」・「宿泊」の回復は道半ば?

このような「旅行」・「自動車小売業」の動きとは対照的に、本来の主役であるはずの「交通」・「宿泊」の需要回復はいまだ道半ばのようです。

交通も東京が対象となった10月からは大きく上昇しているものの、「自動車小売業」ほどの需要回復には至っていません。

交通需要には、航空旅客や鉄道旅客といったものがありますが、これらはビジネス面のシェアも高いことから、GoToの効果はある程度減殺されていると考えられます。

また、「宿泊」のデータをみると、「旅行」でみられたような大幅な回復は確認できず、いまだコロナ禍の水準以下で推移している様子が伺えます。これには、GoToトラベルキャンペーンが「日帰り旅行」も対象となっているということも要因として考えられるのではないでしょうか。

ただし、「交通」・「宿泊」のデータは利用者のクレジットカードデータからみると、これらはある程度割引された数値となっている可能性もあります。なぜなら、顧客は補助金で割引かれた後の金額のみカードで引き落とされているからです。

また、GoTo対象の旅行ツアーのパック代金に「宿泊費」や「交通費」が含まれており、これを旅行会社が肩代わりしていることも要因として考えられます。

「旅行」区分の回復幅のうち、一定割合は「交通」・「宿泊」に還元されており、数値の見た目以上に回復している可能性もあることに注目しておくべきでしょう。

11月以降は「燃料」にも注目?

GoToトラベルキャンペーンによりマイカー需要が増加したとすれば、今後は「燃料」セクターにも波及効果が及び可能性があるのではないでしょうか。

燃料小売業のセクターは、小幅な回復となっていますが、これは指数の基準となっている1月が、もともと暖房のような防寒需要が高い季節であることも考慮しなければなりません。

今後冬の寒さが深まるにつれて、自動車用だけでなく屋内暖房の需要もあって燃料小売業に効果が波及する可能性があります。現に、コロナ禍中では在宅勤務の流れも起こったこともあり、光熱費のカード決済金額が大幅に上昇しています。

このように考えると、今後は「燃料小売」がマイカー旅行による需要増と、在宅時間の長時間化に伴う暖房のための需要増によって、回復調子が加速する可能性があると考えられます。

<Finatext グループ 1級FP技能士 古田拓也>

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