65歳夫か同居の子供、どちらの扶養に入った方がいい?扶養者の所得が大きいと節税メリットも大きいが…

主婦にとって常に頭をよぎるのが「扶養問題」ですが、今回は公的年金を受け取り始めた夫がいる60代主婦のお悩みについて一緒に考えてみたいと思います。


夫と子供 どちらの扶養に入った方がいいのか?

筆者は日頃からファイナンシャルプランナーとして個人の方から家計の悩みや不安について相談にのっています。年齢に関わらず、4月以降はコロナの影響でオンライン相談が増えています。今回もオンラインで受けたご相談です。

現在60歳のAさんは専業主婦、働いていないので収入はありません。夫は65歳になり、まもなく公的年金の受給が始まるとのことです。子供は31歳、会社員の娘が一人います。会社の近くで一人暮らしをしていたのですが、コロナの影響でテレワークメインになったため実家に戻って同居することになりました。

Aさんの頭に、このまま夫の扶養でいるのがいいのか? それとも子供の扶養に入った方がいいのか? といった疑問が浮かんできたそうです。税金や年金、健康保険まで総合的に考えてベストな判断をしたいと相談に来られました。

まずはAさんご夫婦の状況を確認しておきましょう。現在、Aさんは夫の扶養に入っています。夫は12月から老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給することになり、年間で約210万円になるということです。Aさんご自身は無収入で、2年後の62歳から特別支給の老齢厚生年金を年間で約20万円受け取る予定。健康保険については、夫が勤めていた会社の健康保険組合で任意継続被保険者となっていましたので、被扶養者として加入をしています。ただし、退職後2年間しか加入できないため、年内で脱退することになります。来年以降、夫は国民健康保険への加入を考えていますが、Aさんは夫と子供のどちらの扶養に入り健康保険はどうするのがいいのか? についてお悩みでした。

扶養は3つの制度で考える必要がある

Aさんの扶養については3つの制度で考える必要があります。

●税金
●健康保険
●子供の勤務先からの扶養手当

扶養者の所得が大きいと節税メリットも大きい

税金の扶養は、年間の合計所得が48万円(2020年分以前は38万円)である要件がありますが、Aさんの所得はゼロなので該当します。夫は65歳から公的年金を年間約210万円受け取ることになり、所得税率は5%となります。そのため、配偶者控除38万円に所得税率(5%)をかけた1万9,000円が夫の税金軽減額となります。

なお、Aさんの子供は給与年収約500万円とのことですから所得税率は10%です。60歳の親を扶養に入れた場合、38万円の控除があり3万8,000円の税金を軽減することができます。住民税についても同様です。控除に対して税率をかけた金額を計算しますが、所得税と違い、一律10%の税率となります。したがって所得の大きさに関わらず税金軽減効果は等しくなります。なお、子供がAさんを扶養に入れる場合には、Aさんの生活費を負担していることが前提条件となることを付け加えておきます。

健康保険は健康状態を考えて検討すること

Aさんの夫が加入を予定している国民健康保険には「扶養」という考え方はありません。つまり加入者数が増えれば保険料も増えることになるのです。それに比べて子供が加入している健康保険は会社独自の健保組合ですから、扶養にはいることができればAさんは保険料を負担しなくて済みます。

健保組合に被扶養者として認定されるには審査があり、税法上の扶養とは条件や考え方が異なります。Aさんの子供が加入する健保組合のルールでは、被保険者の3親等以内の親族であること、1年間の収入が180万円未満(60歳以上)、同居の場合には被扶養者(Aさん)の収入が被保険者(子供)の1/2以下であることや生計維持状況の確認があります。

これらの条件を満たしているので、Aさんは子供の扶養にはいることを検討することにしました。(ちなみに、Aさんの夫は年収が約210万円のため子供の扶養にはいることはできないことも確認できました。)

一見すると子供の扶養にはいれば、保険料を払うことがないのでメリットが大きいと思いがちです。しかし高額の医療費がかかった、あるいは介護保険を利用する場合には注意も必要です。

と言うのも、高額療養費制度や高額介護サービス費など高額な費用がかかると、自己負担に上限額が設けられる制度があります。この自己負担上限額は世帯収入で決まるため、子供の年収が高いと自己負担の金額も増える側面があるのです。Aさんにお伝えしたところ、今後、医療費がかかりそうな場合には扶養を外れることを検討されるそうです。また、Aさんが扶養にはいることで子供が医療費控除で税金の還付を受けられるメリットがあることも付け加えておきました。

最後になりますが、会社の扶養手当については、会社ごとのルールのため子供から勤務先に確認をしてもらうことになります。家計全体からみた時のメリットとデメリットを知りたいと相談に来られたAさんでしたが、来年からは子供の扶養に入ることを家族と話し合われるそうです。家族にとってベストの選択ができますように願っています。

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