定年退職をしたあとも、65歳くらいまでは再雇用などで働いている人がほとんどです。さらに、2021年4月から企業は、70歳までの就業の機会確保というのを努力義務付けられました。
では、実際に定年退職をしたあと、いつまで働けばいいのでしょうか?
アンケートなどをみると、できるだけ働きたいと言う人が圧倒的に多いのです。内閣府の「高齢社会白書」(平成29年度版)によると、現在仕事をしている高齢者の約4割が「働けるうちはいつまでも」と回答しています。そして70歳くらいまでと回答している人をあわせると約8割の人が高い就労意識を持っています。
どうして70歳まで働こうと思うのか。その理由については、内閣府の「老後の生活設計と公的年金に関する世論調査」(平成31年)のデータを見てみましょう。
「経済的にゆとりのある生活を送りたいから」と言う答えが1位で約29%、次が「働き続けないと生活費が足りないと思うから」が2位で約25%です。こうみると約半数の人が、経済的な理由で長く働きたいと思っているようです。経済的な理由がない人は働かなくてもいいのか? そこで、長く働くことのお金以外のメリットはあるのか、また、高齢者向きのあたらしい働き方についての提言をしたいと思います。
老後資金をまったく心配していなかったAさんが選んだ道
私は、定年前後の人を中心とした取材をし、お話しを伺ったたりしています。その中で印象的だったのが、Aさんです。Aさんは、日本を代表する大手企業の子会社の代表まで勤めて、60歳の定年でスッパリと仕事を辞めたそうです。定年後は何をしようかとあまり考えず、働く予定もなく退職しました。
とにかく、退職前の数年間は、とても忙しくて自分の将来について考える余裕はありませんでした。「退職後は、何も考えないで、とにかくゆっくりしたい」気持ちしか持てなかったそうです。そのためあえて退職後の再就職も選ばなかったのです。
定年後の生活費や、老後資金については、まったく心配ありませんでした。退職金や企業年金を受け取ることができ、それなりに貯えもあったからです。
楽しかったのは2ヵ月まで?
最初の1ヶ月・2ヵ月はじつに楽しかったそうです。月に100万円位使って、旅行や趣味、そして友人に会ったりして、とにかく遊び回りました。でも楽しかったのは2ヵ月ぐらいまでです。3ヵ月目に、「これじゃダメだ!」と感じました。そこで、つてを辿って仕事を探したそうです。5ヵ月目から仕事に復帰して、現在は65歳で、ベンチャー企業の顧問などを4社掛け持ちでしています。
実際に、働いているのは週に3日間ぐらいですが、とても充実した生活を送られているそうです。しかも、「70歳ぐらいまでは、この仕事を続けていきたい」という意欲をもって働いています。
長く働くことが「健康」に繋がるというデータ
「定年後も働く」ことは、経済的にいっても重要です。70歳まで、働いていると厚生年金の受給額も増えて行くので老後の生活は、楽になります。しかし、それ以上に、「健康」と「生きがい」を得ることができるのです。
長く働くことで、社会との接点を持つことができます。そして、人と接することで人とのコミュニケーションも生まれてきます。また人の役に立っているという自分の価値というのを再確認することもできるのです。これが「生きがい」にもつながり、元気になっていくのです。しかも経済的にプラスにもなる。いいことずくめですね。
裏付けるデータとして次のようなものがあります。厚生労働省の平成30年の「経済財政諮問会議(加藤臨時委員資料)」の資料をみると、65歳以上の就業率の高い県ほど、医療・介護費がかからないというものです。
これから推測されるのが、やはり働くことが健康へよい影響をもたらしているのではないかということです。また厚生労働省の国民健康づくり運動プラン策定専門委員会の資料によると、仕事をしている場合と仕事をしていない場合では、将来の日常活動度の減少が大きくなるという調査結果があります。
定年後、「健康」「生きがい」にも繋がる働き方とは
長く働くことのメリットを述べてきましたが、とはいうものの、年齢的についていかないのは体力・気力です。はやり現役時代のようにはいきません。高齢者には高齢者の働き方があるのです。
つまり、高齢者が働く目的は、「経済的にゆたかな老後を送りたい」、「社会との接点を持ちたい」「やりがいが欲しい」とということが多いのので、その場合はフルタイムで働く必要はありません。やりたくない仕事はしなくていいのです。給与は、たくさんもらえればうれしいですが、年金などもあるので、生活費の足しになればという考えでもいいのではないでしょうか。月額10万円でも5万円でもいいのです。収入があれば、それだけ老後資金の取り崩し額が減って資金寿命が長くなります。
定年後、自分にあった働き方をみつけて、老後生活の「お金」「健康」「生きがい」の不安を解消してみてはいかがでしょうか。
厚生労働省『2040年を展望した社会保障の政策課題と地域医療構想の達成に向けた取組』
厚生労働省『次期国民健康づくり運動に関する委員提出資料』