「好きを仕事に」の落とし穴 転職でミスマッチを減らすコツ 

転職時に「今の仕事よりも、他にもっと面白い仕事があるかもと期待している」と期待する人は、多いと思います。しかし、その考え方は妥当なのでしょうか? 「仕事選び」といいますが、そもそも仕事とは何なのでしょうか?前回・前々回に引き続き、ヘッドハンター・転職エージェントとして活躍する末永雄大さんの著書『キャリアロジック 誰でも年収1000万円を超えるための28のルール』から一部抜粋して紹介します。


700社を訪問して気づいた、すべての仕事の共通点

そもそもキャリアとは、仕事で得られた職務経歴や経験を時間軸で捉えた概念のことです。

一方で、戦略とはなんでしょう? 色々な定義がありますが、「限られた資源で目的を達成しようとすること」といった意味で使われています。つまり、「キャリア戦略」というのは、「キャリアにおいて今の経験、スキルを活かして自分の目的・目標を達成するための活動や取り組み」と言えます。

キャリア戦略とは、これまでに得てきた経験を把握して、目標達成のために効率的に職業選択についての作戦を練っていくことです。乱暴に言えば、「自分が幸せになるための仕事選びをしていくこと」くらいに認識しておけばいいかと思います。

しかし、多くの人は、この仕事選びについて悩んでしまうわけです。この仕事選びにおいて、認識のズレや誤解があるために悩んでしまったり、キャリアのミスマッチを生んでいます。

この問題を解決するためにも、キャリア戦略を考える前に、そもそも「仕事」とはなんであるかきちんと認識しておくことが重要です。

私はこれまで転職エージェントとして多くの仕事を観察してきました。リクルート時代は3年間で700社ほど、様々な企業を訪問し、経営者や人事担当者とやりとりをしてきました。そこで様々な職種についてヒアリングする機会に恵まれたのですが、そのなかであることに気がついたのです。

それは、どの仕事も泥臭く大変だということです。

多くの人は、今の仕事よりも、他にもっと面白い仕事があるかもと期待しているのではないでしょうか。転職エージェントの仕事は、転職希望者の仕事の悩みに寄り添いながらキャリアチェンジに対する相談に乗り、求人を紹介し、企業とマッチングさせることす。

「A社を辞めたい、そしてB社に行きたい」という人と、「B社を辞めたい、そしてA社に行きたい」という人の転職相談を同時に受けることもあります。隣の芝生は青く見えるかもしれませんが、仕事というのはどんな業界・会社・職種であっても大変で、泥臭い部分があるということです。

仕事の目的は、消費者のニーズを満たすこと

多くの転職サイトが登場し、求人を気軽に探せるようになりました。どれも非常に便利で使い勝手が良いです。

その一方で、仕事を選び放題という錯覚を起こしているようにも思えます。求人にエントリーするだけであれば誰でもできますから、ECサイトを見るような感覚で、求人に気軽にエントリーできてしまうわけです。

こうなると、年収が高い求人、福利厚生が充実している求人に転職者が集中するのは当たり前です。

しかし、仕事選びは買い物とは異なります。入社を希望しても、求人企業から選ばれなければ転職はできません。

では、実際に仕事とはなんでしょうか?

仕事とは、需要に対する供給者になることなのです。ここでいう需要側は、消費者やお客さんです。消費者はニーズを満たすために、供給者のサービスに対してお金を支払います。

つまり、仕事というのは人が自分ではできない、もしくはやりたくないことを、代わりに行ってお金をもらう活動なのです。

にもかかわらず、お金をもらいながら楽しい仕事を探そうとする行動自体が間違っていますよね。仕事の目的は、あくまで消費者のニーズをきちんと満たすことです。

もし自分が楽しみたいのであれば、お金を支払って供給者からサービスを提供してもらえばいいのです。

仕事に対して過度な期待を持たない

例えばですが、私は本が大好きで年間300冊は読んでいます。しかし、自分の著書を書くときに思いましたが、本を作るのと読むのとは全く異なるものでした。編集者の仕事にも触れてみて思いましたが、正直、私にはそれを仕事にすることはできないなと感じました。あくまで単純に消費者として、本を読むのが好きなのです。

現代は多くの方が好きなことを仕事にしようとしすぎです。そして、実際にやってみたら「こんなはずではなかった」と思ってしまう人が本当に多い傾向があります。

消費者として好きなことと、供給者としてその仕事をして得られる待遇に満足するかは全く関係がありません。仕事に対して過度な期待を持つと、現実とのギャップで失望したり、キャリア形成に失敗することになります。

繰り返しますが、ただ「面白い」仕事は存在しません。それでも、私は「その人にとって」やりがいがある仕事はあると考えています。

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