「サッカーコラム」ルヴァン杯決勝延期の失望を埋めた男とは

今も色あせない「キング」カズの影響力

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試合後、サポーターに笑顔で手を振る横浜FC・三浦(右)と瀬沼=11月8日、ニッパツ

 緻密な企画の下に細心の注意を払って準備した計画が、一瞬にして吹き飛んでしまう。罹患(りかん)したときの危険度は他の病気に比べてどれほどのものかは分からない。それでも、間違いなく言えるのは新型コロナウイルスの感染力はこれまでになく強いということだ。人類は本当に厄介なウイルスと遭遇してしまった。

 11月7日に新しい国立競技場で予定されていたYBCルヴァン・カップの決勝が急きょ延期となった。Jリーグ側のウェブ記者会見で発表されたのは試合3日前。夜10時半からという連絡に悪い予感がしたのだが、J1柏のネルシーニョ監督をはじめ、選手やスタッフに複数の陽性者が出たとのことだった。

 事実を正確に把握し、素早く延期の判断を下したJリーグの対応は褒められるものだろう。ただ、会場の設営や警備など大きなイベントには多くの人がかかわる。それゆえ、金銭的な損失も大きかったと予想される。筆者も今年元日に行われた天皇杯決勝以来となる国立競技場なので楽しみにしていたのだが、あっさりと楽しみを奪われてしまった。

 今回の決勝はFC東京と柏という首都圏のチーム同士だった。そのため、サポーターへの影響も最小限に抑えられたのではないか。それを考えると、アウェー席のサポーターを受け入れるようになった現在のJリーグで、せっかく旅行日程を組んで遠征したのに目的の試合が中止されて途方に暮れるような状況はなるべく避けたい。

 いくら気を付けても感染するときは感染してしまう、厄介なウイルスではあるのだが…。

 ルヴァン杯決勝が延期されて残念な気持ちに包まれていた筆者を翌8日のリーグ戦が救ってくれた。それが、J1第28節の横浜FC対神戸だ。カズ(三浦知良)がベンチ入りし、イニエスタが先発した一戦はとても楽しい内容だった。

 ともにポゼッションを重視し、パスをつなぐサッカーを志向する。開始から攻勢に出た神戸の1点目は、見事な展開から生まれた美しいゴールだった。開始9分、センターサークル左にいた山口蛍が右サイドの西大伍にパスを送る。インステップで芸術的なトラップを見せた西は一拍を置いて小川慶治朗の前方のスペースにスルーパスを送った。そのボールに追いついた小川は右足でゴール前にダイレクトのセンタリングを送る。

 ここに合わせたのが、ゴール前にスプリントしたのが郷家友太。三浦淳宏監督の就任とともに先発に返り咲いたMFだ。この試合では本来のトップではなく、2列目でプレーした。それでも、教科書通りといえる右足インサイドでボレーシュート。自らの今シーズン5点目をたたき込んでみせた。

 試合後、郷家は「しっかり当てられた」と満足そうに振り返った。

 4人が流れるように連係した先制点。中でも異彩を放ったのは、西がアウトサイドキックで放ったスルーパスだ。結果的にオフサイドと判定されたが、開始7分にも藤本憲明に予想外のタイミングでパスを出している。33歳のベテランが見せる人を食ったようなプレーは、見る価値が十分にある。

 「前半に先制されたところからすぐに1点を返したところで、選手たちが全体的に粘り強く戦ってくれた」

 横浜FCの下平隆宏監督が語ったように、リードを許した直後の2分後に同点ゴールが生まれたことで、横浜FCの気持ちが落ちることはなかった。前半11分、中盤の瀬古樹が前線の一美和成に縦パス。受けた一美は斎藤功佑と壁パスでの突破を狙った。しかし、パスがずれ、ボールは相手DF山川哲史の足元へ。

 ところが、山川もミスキックしてしまった。「ちょうど相手のクリアが足元に入ってきたので、それを冷静に決めることができた」と右足シュートをゴール左に沈めた。一美にとっての4点目は、8月15日の第10節湘南戦以来となるゴールだ。

 ともにチャンスを迎えながらも決め切れない。1―1で進む試合で、スタンドが大きく沸いたのは終了間際の後半42分のことだ。カズが交代出場し、自身が持つ最年長出場記録を53歳8カ月13日に更新した。「キング」がピッチに立つことで、チームの雰囲気は明らかに変わった。

 アディショナルタイム突入直後の後半46分に得点となって結実する。FKから続く一連のプレーで右サイドの手塚康平が逆サイドにクロス。ボールをブロックしてゴールキックにしようとする神戸DF酒井高徳から瀬沼優司が強引に奪い取る。そしてゴール前左にいた安永玲央にラストパスを送った。

 まだ19歳。表情にあどけなさの残る安永だが、プレーは大人びて冷静だ。「相手がファーを消しながら来たのでニアしかなかった」。右足で捉えたボールはGK飯倉大樹の右手をかすめてネットを揺らした。

 土壇場での劇的な決勝点。これが安永にとっての記念すべきJリーグ初ゴールとなった。

 出場時間も短く、確かにプレーでは目立った貢献はできなかった。今シーズン2試合目の出場となるカズは、後半43分にイニエスタに置き去りにされるなど、スピード勝負では苦しい面もあった。それでも味方のハートに与えたインパクトは大きい。

 チーム全体が戦い続けるモードに入ったからこその安永の決勝点。生ける伝説の影響力は、まだまだ大きい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。